すべてはゲームのために
いかなる分野でも、正しい道具を使うことは必要不可欠である。それがゴルフとなれば、すべてのクラブに役割を与えなければならない。
特にアイアンは、バッグの半分以上を占めることからも、確実に正しいクラブを選ぶことが重要だ。さらに絶えず変化する現在のゴルフ界では、クラブ選びは一層難しいものになっている。
昔よくみられた1番アイアンとまではいかないが、テストに使用したアイアンは、上級者ゴルファーの要求を十分に満たす優れた操作性と必要なやさしさを兼ね備えている。
このカテゴリーの対象ハンディキャップは0~9で、デザイン的にはコンパクトヘッドに、小さめのキャビティー、最小限のオフセットが主な特徴である。
注意:プロ仕様のアイアンに憧れるのは分かるが、上級者向けカテゴリーのアイアンは万人向けではない。ミスなく芯にヒットできるゴルファー向けに設計されている。初級・中級者向けアイアンと比べて、ミスヒットにより厳しいクラブであることを忘れてはならない。
今年アイアンをお探しなら、このテストはきっと役に立つものになるだろう。
MOST WANTED:
パフォーマンスグレード
以下のグラフは、各アイアンのショート・ミドル・アイアンのパフォーマンスグレードを示す。
それぞれのテスターの結果から、ベストパフォーマンスクラブに入った頻度を、アイアンモデルごとにパーセンテージで表している。
これらを導いた方法については、ページの一番下のテスト方法を確認ください。
*上級者向けキャビティーバックアイアンは、他のアイアンカテゴリーと比べてその性能差が非常に小さい。
アイアンの購入にあたり
アイアンを購入する際、最も考慮すべきは「性能」だが、重要なポイントは他にもある。
クラブセッティング
アイアンは、ほとんどのホールで使用する。だからこそ、クラブのセッティングが重要になる。
ゴルフには、クラブ構成における世界基準が存在しない。
モデル同士の組み合わせが可能な点を考えると、決して悪いことではないが、4番アイアンはテストに使用したすべてのモデルに含み、ギャップウェッジはほとんど含まれない。
また、3番アイアンが一部のモデルにしか展開されていないのは、上級者でさえ扱いが難しい上に、年々ロフト設定が強くなり、その必要性がなくなってきたことにある。
重要なのは、そのアイアンセットがゲームに必要なクラブを網羅しているか、不必要なクラブが含まれていないかを把握することだ。
シャフトの選択
近年、アイアンのシャフトオプションは増加している。多様なモデルや、ウェイト、フレックスの中から、個人に合ったシャフトを探すのは至難の業だ。
シャフト性能を測るのは、もはやグラファイトかスチールかという選択に留まらない。
通常、上級者向けキャビティーバックアイアンのシャフトは、他のカテゴリーよりも重い。120g~130gが一般的だが、少し軽めの設定のモデルもある。
通常より重いということは、軽さが特徴のグラファイトの選択肢が、他のアイアンカテゴリーと比べて限定されるということだ。
プロのフィッティングを受けることがベストだが、それが難しいなら「Mizono Shaft Optimizer(ミズノ・シャフト・オプティマイザ―)」があるかゴルフショップに問い合わせてみることをおすすめする。
ジャイロスコープ(物体の回転を計測する機器)とひずみゲージという高度な技術を駆使したこの計測器は、クラブスピードや、テンポ、インパクト時のシャフトのフレックス度合いを測ることができる。
計測後は、あなたのスイングに合ったフレックスや長さに従い、お薦めのシャフトがリストアップされる。
飛距離 VS やさしさ VS 操作性
上級者向けアイアンは、初級・中級者向けアイアンほどやさしい設計でないのが一般的だが、やさしさを備えたモデルも存在する。
欲を言えば、この3つの性能が備わった完璧なアイアンが欲しいところだが、残念ながら、飛距離・やさしさ・操作性は同時には叶わず、どれかを諦めなければならない。
上級者向けアイアンは、小さめのブレードとコンパクトヘッドを特徴とする。
やさしさに優れたアイアンとは、スイートスポットにあたる確率の高いクラブをいうのだが、この設計ではやさしさを重視することはできない。
自分のプレーの中で最も高めたい性能を絞ることだ。
コスト
アイアンセットは何よりも大きな投資だ。特に上級者向けアイアンの価格帯は、平均1,000ドル以上と高額である。
価格を考えると、プロのフィッターに自分に最適なアイアンをフィッティングしてもらうのが最善の策だ。
プロダクトスポットライト -「スピード・フォーム」が生み出すやさしさ
名前のとおりテーラーメイド「スピード・フォーム」テクノロジーは、テーラーメイド P760やP790モデルに採用され、独自のポリマー充填剤によって薄肉フェースを可能にし、ミスヒット時に一層のスピードとやさしさが増す設計になっている。
特にやさしさの項目で秀でていたテーラーメイドP760は、非常に速いボールスピードと安定したキャリーディスタンスを生み出した。このように、わずかなやさしさがあれば、避けることのできないミスヒット時に役立つはずだ。
記録
テストでは、マーケット全体がどこに向かっているのか、前モデルから何が変わり改善したのかを探るため、トレンドも追っている。
また、テスターからフィードバックを提供してもらい、良かった点、悪かった点を理由とともに共有してもらう。
ただし、これらの主観的なフィードバックが、Most Wantedのランキングに直接影響することはない。
トレンドと改善点
・安定したショットが打てない人には当てはまらないかもしれないが、上級者向けアイアンは「操作性」と「コントロール性」を中心に設計されている。ここで必ず犠牲になるのが、「やさしさ」だ。「操作性」と「やさしさ」は、まるでシーソーのような関係なのだ。上級者向けアイアンは、初心者に必要な「やさしさ」の代わりに上級者に好まれる「操作性」を重視するのが一般的だ。
・今回のアイアンテストの対象モデルには、完全なフォージドヘッドが揃う。実質的にやさしさの少ないクラブが出来上がるのは、フォージング工程自体が問題なのではない。上級者向けキャビティーバックアイアンのウェイトは通常クラブヘッド中心に向かって密集している。この性質が軟らかい打感を生み出す一方で、一般的にやさしさを生むといわれるクラブヘッド周辺のウェイト配置とは異なるため、結果的にやさしさが犠牲になってしまう。
・技術向上と共に、ヘッド構造も改良されている。近年のミズノのアイアンは「グレイン・フロー・フォージド」が主流で、インパクト時に非常に反応のよい打感を生み出すという。PXGやテーラーメイドなどのメーカーは、複合素材構造や、ポリマー充填法、クラブフェース裏に独自素材を取り入れるなどの改良を施してきた。これらの設計改良によってフェースの薄肉化に成功し、結果的に軟らかい打感を損なうことなく、打感改善やボールスピードの安定に至った。
流行に逆らう ~ ストロングロフトは本当にトレンドか?
毎年ゴルフメーカーは、もっと飛ぶクラブと謳うが、飛距離のために何かを犠牲にしている。飛距離を伸ばす一番簡単な方法は、ロフトを立てること。最近では、昔の6番のロフト角が現在の7番に匹敵する。ご存じのとおり、アイアンで最も重要なのは精度と安定性だが、いまだ飛距離がアイアンを牛耳っているのは確かだ。ところで、常に流行の先端を行くのは上級者向けアイアンだ。
正確にはメーカーは従来のロフト角を採用していないだろうが、上級者向けアイアンは比較的ロフト角が寝ている場合が多い(番手に該当するロフト角と比べて)。飛距離はある程度重要だが、上級者はピンに寄せる高スピンショットを望む。つまり、優先するのは「安定性」ということだ。中級者向けアイアンほど飛距離が出ない可能性があるが、どんなショットでも打てるスキルがあるなら、上級者向けアイアンを使いこなせるだろう。
テスターからもフィードバック
次のコーナーでは、20名で構成されるテスターグループからの主観的フィードバックを掲載した。
これらのフィードバックはテスト中に得たものだが、実際のクラブ性能に関するものはなく、ランキングにも反映されていない。
・スリクソンZ785がルックス・打感・アライメントすべての項目で高得点を取得した。高ヘッドスピード、低ハンディキャッパーに、Z785のコンパクトな顔と薄いトップラインが好評だった。
・今年の上級者向けキャビティーバックアイアンのトップは、ミズノJPX919 TourモデルとSub70 639 CBだった。JPX919は、ミズノアイアン特有の打感が得られる1025Eグレイン・フロー・フォージドHDカーボン鋼ヘッドやCNCミルドフェースが特徴。Sub 70 639 CBは直販型のブランドのため、驚くべき価格でキャビティーバックヘッドと優れた打感が手に入る。
・Most Wanted上級者向けアイアンテストは、低ハンディキャップ、高ヘッドスピードプレーヤーで構成されるが、ボールを高く打ち出せるキャロウェイ X-Forgedやコブラ KING Forged CBは、ローハンデとミドルハンデの間にいるゴルファーに特に評判が高かった。
・絶大な人気を誇ったのが、Dynamic Gold AMT Redシャフトが備わったタイトリストAP2の特にロングアイアンだ。打ち出し角の低い人が、打ち出しの調節が可能なフルAMTシャフトを使うと明らかな弾道の変化がみられた。
プロダクトスポットライト - キャロウェイAPEX PRO
今年のテストでトップ入りしたひとつ、キャロウェイApex Proはミドル・ロングアイアン共にかなりの飛距離を出し、ショートアイアンでは優れた安定性をみせた。キャロウェイApex Proアイアンは、テストの中で最も長いアイアンのひとつだが、ストレートリーディングエッジや、薄いトップライン、滑らかなホーゼルとのつなぎなどツアーモデルを思わせる設計が特徴だ。
上級者向けアイアンの中でも特に飛距離にこだわるなら、キャロウェイ Apex Proを検討することをおすすめする。
2019 MOST WANTED上級者向けアイアンデータ
アドバイス - シャフトフレックス以外の要素
アイアンを小売店やオンラインで購入する際、おそらくシャフトを選択する場面に遭遇する。正しいフィッティングをすれば、これという1本が決まる。購入方法にかかわらず、フレックス以外にもシャフトを決める要素があることを理解しておく必要がある。
スイングはふたつとして同じものはない。シャフトを決めるのは、究極スイングの速さ(強さ)や、スイング軌道による。もっと簡単に言うと、スチールシャフトは異なる手順や厚さを採用することにより、あらゆるスイングタイプでも芯にヒットし真っ直ぐ飛ばせる設計になっている。
プロのフィッターによる正確なフィッティングを受けることが、自分のスイングに合ったシャフトを選ぶ近道だ。
2019 MOST WANTED 上級者向け クラブスペック表
FAQ
アイアンの購入
Q:どのくらいの頻度でアイアンを買い替えるべきか?
A:まれに技術革新が続くこともあるが、通常メーカーがクラブの性能を向上させるには3~5年かかる。特にUSGAが規制を厳しくしたことから、今後の技術革新にはより時間がかかる可能性がある。おすすめするのは、今使っているアイアンよりも、明らかに性能が優れたクラブが見つかったときに買い替えることだ。ただし、単に新しいアイアンが欲しいという理由で買っても問題ない。
Q:自分に適したアイアンカテゴリーを見つけるには?
A:アイアンには上級者向け(キャビティーバック)、上級者向け飛距離系、中級者向け、初級者向けの4つのカテゴリーがある。カテゴリーの区別は難しいが、スキルレベルやハンディキャップ、ゲームに何を求めるかによって判断するべきだ。ハンディキャップが10以上で、スイングが弱い人には、中級者向けアイアンか初級者向けアイアンカテゴリーが妥当だろう。安定的にボールを打てる経験者には、上級者向けか飛距離系のアイアンからメリットが得られる。その中でも特に飛距離にこだわるなら、飛距離系アイアンが理想だ。
Q:シャフトは重要か?
A:もちろんシャフトは重要だ。スピンや打ち出しの変化はそれほど大きくないが、シャフト交換によってショットの精度やボールのばらつき、総合的な安定性の向上が期待できる。
Q:アイアンを試打する際、何に注目すべきか?
A:飛距離以外の他の要素が無視されがちだが、たとえ飛距離系アイアンでも安定性や操作性に着目してほしい。飛距離やボールスピードのような測定項目を比べるときでも「安定性」を過小評価してはならない。
鍛造 VS 鋳造
よくフォージドは上級者に限ったアイアンだと誤解されやすい。実際は、やさしさは構造上の機能であって、製造プロセスではない。実際は、鋳造と同じくらいやさしいフォージドアイアンもある。例えば、ピンi210モデルは初級者~中級者向けにデザインされたフォージドアイアンだ。
もはや普遍的な事実ではないが、フォージングに使用される素材は鋳造に比べて軟らかいことが多い。鋳造による恩恵はより精巧な構造であり、それによりメーカーの裁量でより柔軟にウェイトをソールやクラブヘッド後方に配置することが可能になる。
MOST WANTED
Q:テスターは、どのようにアイアンを選ぶのか?
A:アップグレードオプションはなく、標準スペックのみを使ってもらう。各セットから、ショートアイアン・ミドルアイアン・ロングアイアンを1本ずつテストする。調節機能付きのアイアンはなかったが、できるだけテスターに合ったアイアンを選んだ。弾道の向上が期待できるため、複数のシャフトから選べる場合は使用した。
Q: アイアンカテゴリーはどのように決めるのか?
A: ヘッド設計(ルックスやソール幅など)が似たアイアン同士をテストするために、長さとロフト角に分類する。できるだけその差を縮めてテストを行いたいと考えている。例えば、カテゴリーが重複するアイアンがある場合は、メーカーが決めたカテゴリーに従う。
Q:Most Wanted上級者向けアイアンはどのように決定するのか?
A:ランキングを決めるにあたり、フォーサイトスポーツGC Quad(GCクワッド)弾道計測機を使って主要測定データを集める。異常値を排除した後、独自の手法を用いて各テスターと使用クラブごとのストロークス・ゲインド値を計算する。次に、信頼区間を計算し、ストロークス・ゲインド値の統計的有意性を決定する。テスター間で、高いパーセンテージを占めたアイアンが、「Most Wantedアイアン」となる。詳しくは、テスト方法に掲載した。
Q:「最もやさしい」アイアンは、どのように決定したのか?
A:「最もやさしい」飛距離系アイアンを決めるには、ショットエリア(平方ヤードで表すボールの分散)や、ボールスピード・キャリー・ピンまでの距離・ストロークス・ゲインド値の標準偏差に注目する。
Q:ルックスや打音、打感などの主観的な要素は、どのくらいランキングに反映されるか?
A:まったく反映されない。MyGolfSpyのランキングは、弾道計測モニター上のデータとパフォーマンス測定項目のみで決まる
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