昨シーズン、テーラーメイドはアイアン設計における難題をクリアしたと言える、あらゆる理由を私たちに伝えてきた。

P790は見方によってはPXGの派生にも見えるが、その美しさを否定する人はいないだろう。

大きいアイアンは、アドレス時にはスマートに見えるように設計されている。クローム合金製のバックフェースの段差が織りなす影があるのでブレードタイプに見えるとまでは言わないが、美しいデザインであり魅力的だ。

P790は打ってみたいと思わせるような、心に訴えかけてくるアイアンではあるが、いくつかの点を考慮すると、テーラーメイドは市場のニーズについていけるよう、まさに今努力しなければならない。

よりコンパクトなP730も同じく人気がある。トップセラーというわけではないが、モダンなブレードアイアンであることは間違いない。実際、PシリーズはM1/M2とは別のコンセプトでテーラーメイドが中級者向けに造ったものだ。

残念ながら、M3とM4アイアンはP790とは似ていない。その代わりに、新しい製品は過去の言葉とデザインへの回帰を示している。ただし、テーラーメイドの信用を傷つけたくないので、ナイキのスニーカーのような派手さは、今回はかなり抑えてあることを伝えておこう。

テーラーメイドは、P790で大きめのヘッドでも美しく仕上げることができることを証明した。M3とM4では、ヘッドを大きくする必要がないことを再認識させた。

俯瞰すると、テーラーメイドのアイアンのラインナップには、まとまりやアイデンティティーーがないことが問題だ。M3とM4は、他のクラブとうまく合わないように見える。些細なことかもしれないが、重要なことでもある。

ミズノのアイアンを見れば、それがミズノとすぐに分かるし、ピンやPXG、スリクソンも同じだ。程度は違えどキャロウェイでさえもそうだ。

 

アイアンの「発育不全」

アイアン設計に関しては、最終的に収穫逓減の法則(入力をし続けると、やがて入力分の出力が得られなっていく法則)に行きつく。

キャビティーバック、中空アイアン、ブレード、フェースインサート、フェーススロット(溝)に、タングステンウェイト……聞いたことがない単語があったら、止めてほしい。誰のせいでもなく、メーカーは単にこれ以上の技術をアイアン設計に採用することができないだけだ。少なくとも、市場で受け入られるような価格では。

テーラーメイドも他のメーカーも、もっと優れたアイアンを造れるかと問われれば、答えはYESだ。メーカーの研究開発スタッフは賢い。しかし、アイアンセットに$3,500も出せるかと聞かれたらどうだろう。答えは確実にノーだ。

昨今のウッドに見られるように、メーカーのマーケティング部門は些細な技術について、大きなストーリーを作り上げることを強いられている。市場で受け入れられる価格設定に基づいて設計することを求められるので、採用できる技術には限界があるからだ。

【参考】テーラーメイドのリブコア(RIBCOR)は、M3/M4アイアンで採用された強化構造を表すテーラーメイドの最新技術のことだ。リブコアはフェースの溝と共に機能するもので、スコアラインの外側部分を強化することで、ボールが当たる部分をよりたわませることができる。インパクト時のエネルギーのロスが少なく、ボールがフェースのどこに当たってもより遠くに飛ばすことができるという。

 

「私達の新技術リブコアによって、M4アイアンは、テーラーメイドのアイアンラインナップの中で最も飛ぶように設計された製品となり、その安定性と精度は新しいステージに入った。1.5mmという最も薄いフェースと超薄型のリーディングエッジ、薄型スピードポケットを組み合わせることで、M4はこれまでで最高のボールスピードを実現した。」(テーラーメイドゴルフ 商品開発シニアディレクター トモ・バイステット)

 

設計における他の利点としては、ヒールとトゥにウェイトが設置されているので、過去のテーラーメイドのアイアンと比べMOI(慣性モーメント)が大幅に上がっている。しかしながらリブコアは、フェースがスピードスロットのエッジ付近で割れるのを防ぐための構造に役立っていることがまだ語られていないのではないかと思う。この問題は、昨年に私達が行ったMost Wantedテストで経験したことだ。

これは主観でしかないが、新モデルは2017年のM1、M2と比べてかなり打感が向上していると聞いている。きっと読者の皆さんは、前のクラブのバターのような打感に不満があっただろう。中級者向けアイアンではよくあることなのだが、多くのゴルファーが非常に重要だと思う部分で相当な改良がされたことは、M3/M4の最大のセールスポイントになるかもしれない。

新モデルのその他の特徴は、想像通りこれまでのテーラーメイドのアイアンの改良である。チェックリストにして確認してみよう。

 

・フェーススロットとスピードポケットはあるか?

・ボールスピードを損なわないインバーテッドコーンテクノロジー(今年は中心から移動)を採用しているか?

・打感と音を良くする複合素材のバッジはあるか?

・タングステンウェイトはあるか?

・フルーテッドホーゼルはあるか?.

・キャビティーバックか?

・現在使用中のアイアンを買い替える理由は?(それはまだわからない)

 

 

M4アイアン

2の倍数を理解できる人なら、この2つをペアして考えるだろう。その通り、M4はM2の後継モデルだ。最大の売りは、M4はM2に比べ24%高いMOI(慣性モーメント)を生み出す点だ。

初級者向けアイアンにありがちだが、見た目は少々厚ぼったい。しかしアドレスした時の感じは悪くない。軽量化を目的とした、縦に溝が入ったホーゼルも特徴だ。ものすごく素晴らしいデザインというわけではないが、時には妥協も必要だ。このアイアンのターゲットが、このデザインを理由に買わないというほどではない。

長年のテーラーメイドの伝統の中で、ダスティン・ジョンソンがM4の4番アイアンで300ヤード飛ばしたという逸話が語られている。感動的だと思う反面、アベレージゴルファーにとっては夢のような話で現実味がないとも思う。アイアンはコントロール性を目的として設計されている。私たちにはアイアンで300ヤードも必要ないし、そもそもアベレージゴルファーは170ヤードですら難しい。

 

M4アイアンは、KBS MAX 85スチールシャフト、もしくはフジクラ製アトモスグラファイトシャフトのどちらか選べる。

小売価格はスチールシャフトで899ドル、グラファイトシャフトで999ドル(共に8本セット)。

 

 

M3アイアン

こちらも数字を2個飛ばして、M3がM1の後継モデルになる。M3の特徴はオフセットが少なくなり、アドレス時に薄いトップラインが現れる洗練された形状にある。重心位置を低く保つためにタングステンウェイトが使用されている(高打ち出し角と打ちやすさを実現)。リーディングエッジはより直線的になり、芝のすべりを良くするために改良されたソール形状が採用されている。

シャフトはTrue Temper XP100スチールシャフトと、三菱化学のTenseiグラファイトシャフトを採用。グリップは、Lamkin UTXを標準装備している。小売価格は、スチールシャフトで999ドル、グラファイトシャフトで1,199ドル(8本セット)。

 

 

残念ながらこの業界ではよくあることなのだが、M3とM4も少し改善されただけでほとんど変わっていない。P790のような魅力的なセールスポイントがほとんどないM3もM4は、ゴルファーを引き付けることはできないだろう。だから、テーラーメイドがM3/M4ドライバーで何かを強調していることも、さほど驚きはない。

公平に見ても、継続的に自社製品を模倣するメーカーはテーラーメイドだけではない。ピンは現在、その慣習から抜け出そうとしているし、タイトリストのAP2は販売開始から目立った変化は見られない。

ほとんどのメーカーは同じ開発サイクルで動いているが、どんな理由であれテーラーメイドは、毎回取るに足らないマイナーチェンジを革命的な進化として売らなければならないという強迫観念と戦う必要はないのだはないのだ。

 

良くも悪くも、これが今のゴルフ業界だ。

通常の1年サイクルで開発された商品に大した進化は望めない。とはいえ、3年サイクルで開発する余裕などはどのメーカーにもないのだ。

だからこそ、いつも同じ特徴やセールスポイントになってしまうのだろうが、テーラーメイドに限らずどこのメーカーも今のクラブを買い替えるとか、新しい商品が出る度に2年しか使っていないアイアンと取り替えてもらえるなどと期待しているわけではないことを覚えておいてほしい。

必要でない限り買う必要はない。資格のあるフィッターに、あなたに合うクラブを選んでもらおう。

そうすればタングステンやらリブコア、メーカーがアピールしてくるストーリーなどを細かく気にする必要はなくなると私達は考えている。