MyGolfSpyの看板コンテンツは、年に一度の‟Most Wanted”テスト(MyGolfSpyが行う各製品の性能テスト)である。
完全に客観的、かつデータに基づいたテストであり、その判断基準は『性能(パフォーマンス)』だけを拠り所とする。とはいえ、購買を決定付けるのは客観的要素だけでなく、主観的要素も含まれる。
そのため、今回のエディターズ・チョイス・アワードでは、MyGolfSpyのスタッフの意見や、ゴルファーからのフィードバックをもとに、今後業界にインパクトを与える可能性のある商品や、テクノロジー、企業を取り上げた。
MyGolfSpyが拘ってきたデータという枠を超えて、2019年を飾るに相応しい商品やストーリーを公開したいと思う。
昨今のゴルフ用品業界は大きく進歩しているとは言えず小さな進歩を積み上げている状況だが、革新的なアイディアや違いが生まれてきているのも事実である。
2019年は多くの素晴らしい商品を取り上げたが、あまり興味を引かなかったカテゴリーだったために、取り上げる機会がなかったものもある。
今回選ばれたアイテムは、外見だけではなく中身が伴うものになっているはずだ。
それでは、今季の勝者を発表しよう。
最も注目を集めた話題:キャロウェイ Chrome Softの 品質管理問題
マサチューセッツ州チコピーにあるキャロウェイのゴルフボール生産工場での品質管理問題は、間違いなく今年最も注目を浴びた話題だろう。
この話題を取り上げたのが唯一MyGolfSpyだけだったのは、多くのメディアが読者より広告主を尊重するという現実を表している。
初めて耳にするという人のために、簡単に説明しよう。今年のボールテストで、驚くことにキャロウェイの人気ゴルフボール(ボール市場No.2)が酷い結果を見せたのだ。
安定性に欠け、時々大きく軌道を外し、他のツアーボールに比べ明らかに飛距離が出ない。
キャロウェイからの反論を受けた後、ボールを割ってみたところ、明らかに芯からずれたコアや、まだらで不均等なレイヤーがすぐさまお目見えすることになった。
これこそがボールの安定性に影響し、ゴルフコースでは予測不可能なプレーをもたらす原因となる。
この話題が広まり、実際にボールを割った人が(キャロウェイのスタッフも含む)、中心からずれたコアやまだらな素材、さらにはディンプルがないボールまで発見し、多くの写真が投稿された。
さらに過去のモデルに遡りボールを割ったところ、HEX Balck以前から4ピースモデルに品質の問題が発生していたことが明らかになった。
当初キャロウェイはこの状況を静観していたが、#FindItCutItの動きを受けてようやく動き出した。
思ったよりひっそりとだったが、工場の品質管理を改善する必要があることを認め、改善に向けさらに多くの資金を投入することを約束した。
この一連の騒動を通して、キャロウェイは的確な判断を私達に示してくれた。
今後、さらに品質リーダーとしての地位を確立してもらいたいと思う。次のモデルに期待したい。
ドライバー:コブラ F9 SPEEDBACK
AIが次なるドライバーデザインを担う可能性はあるが、現時点ではコブラ F9 Speedbackは見逃せない製品だ。
Most Wantedでは僅差で勝利の座を逃したが、もしランキング方法にルックス・打音・打感の要素がわずかでも考慮されれば勝利は間違いなかっただろう。
実際に、MyGolfSpyのスタッフや、テスターが他のどのドライバーよりも好んだほどF9 Speedbackは群を抜いていた。
少し変わったルックスを嫌う風潮がある中、コブラが斬新にデザインを改良し、やさしさやエアロダイナミクス(空気抵抗)を妥協せず、低重心を実現したことが賞賛に値した。
これが理解されるには時期尚早だが、今後コブラに似たデザインがでてくるはずだと予測している。
また、大胆なブラック&イエローデザインが全てのゴルファーに受け入れられるとは思わないが、ドライバー界に新たな存在感を見せつけたのは事実だ。
決してコブラがNo.1の座を奪おうとしていると言いたいのではなく、2019年ドライバーカテゴリーで著しい成長を見せたメーカーであることは間違いない。
新たなテクノロジー:キャロウェイ AIによる設計
『ブレイクスルー』や、『ゲームチェンジ』など思い付く限りの典型的な宣伝文句も、新テクノロジーも、スーパーコンピューターによるAI設計には敵わない。
キャロウェイのFlash Faceテクノロジーは、近い未来テクノロジーストーリーの代表作になるかもしれない。
人間に可能なことは、コンピューターがすべて(更に上手く)やってしまうという事態もあり得る。
0キャロウェイの最初の作品では、USGA規定のCT値を維持しつつフェイス中心のボールスピードを押し上げるという、AI技術を駆使したドライバーフェイス内部の設計に成功した。
これだけ機械学習が進化し、デザイナーのプログラミングへの理解が広まり高品質のものが作れるようになったことを考えると、AIがフェイスやクラブヘッドだけに留まることは考えにくい。
最初に世間を騒がせたのはキャロウェイだったが、設計プロセス向上にAIを頼るのは彼らだけではないだろう。今後の技術進化に伴い、一歩先をいくにはCPUサイクル(データ処理能力)が重要になってくるかもしれない。
フェアウェイウッド:該当なし
2019年は6モデルのフェアウェイウッドの名を挙げることができる。
キャロウェイ Sub Zeroが2019Most Wantedフェアウェイウッドの勝者に輝き、コブラ F9 Speedbackも引き続き優れたフェアウェイウッドとして認められた。
タイトリスト TSは上級者向けとして復活し、テーラーメイド M5は、高スピードを生むチタンフェイスに豊富な調節機能を搭載してきた。
ピンG410 SFTは、やさしさの向上や方向性の補正機能は決してドライバーに限る必要はないと証明された。
これらすべてを考慮した上で、2019年フェアウェイウッドカテゴリーでは度肝を抜くほどの革新的なクラブはなかったと思っている。
ユーティリティー:該当なし
ユーティリティーカテゴリーが評判になることは滅多にない。
大多数のゴルファーがユーティリティーを使うというわけではないし、仮に使うようになったとしても、アイアンのようなユーティリティーかフェアウェイウッドっぽいユーティリティー、もしくはその中間に好みが分かれる。
メーカーもドライバーやフェアウェイウッドほどユーティリティーに開発やマーケティング費用をかけないのも事実で、ゴルファーがあまり重視しないのもうなずける。
フェアウェイウッドのように今年のベストをいくつか選ぶことはできたが、選ぶだけの十分な情報がないため該当なしとした。
初級者向けアイアン:コブラ F-MAX
本当に優れた初級者向けアイアンが見落とされそうになることはよくある。
実をいうと、F-Maxもそうなるところだった。秋シーズンモデルをテストした後、もう一度テスト結果を見直したところF-Maxが決して見過ごせないアイアンだと気付いた。
結果的にF-Maxは大差をつけたが、これは滅多に起こることではない。
そもそも初級者向けアイアンのルックスが格好良くないのは分かっている。このカテゴリー自体に興味がない人が多いのもわかるが、現実にはゴルファーは皆歳をとるわけで、次第にボールを高く打ち出すのに助けが必要となる。
残念ながら現代のロフトがスローヘッドスピードにうまく機能しないことを考えると、そのようなゴルファー向けにデザインされた優れたクラブを見つけられたのは一種の喜びだった。
もはやスピード云々ではない。F-Maxは、かつてのスピードを失ったゴルファーが再びゴルフを楽しめるように作られたクラブであり、F-Maxほど手頃で優秀なクラブはないといってもいい。
中級者向けアイアン:該当なし
ミズノ JPX 919 Hot Metalは素晴らしかったし(Most Wantedでも1位)、コブラ F9 Speedbackには正直驚いた。
0311 GEN2 XPも圧倒的な結果をみせた。他にも優れたモデルはあったものの、このカテゴリーで圧勝といえるほどの妥当性は見つからなかった。
上級者向け飛距離系アイアン:該当なし
上級者向け飛距離系アイアンカテゴリーは、その位置づけとしてまだ開拓さえたばかりだ。2019年の試みは、必要以上の改良はいらないものの再度デザインを進化させることだった。
ミズノや、テーラーメイド、ホンマのクラブには感銘を受けた。コブラ Forged Tecは特に私達のお気に入りで、予算を気にしないならPXG 0311やタイトリスト CN CPTも注目に値する。
これという1本を決めたいところだが、今年は決定まで至らなかった。
上級者向けアイアン:ミズノ MP-20シリーズ
シーズン総まとめのMost Wantedテスト後にリリースされたミズノ MP-20シリーズ上級者向けアイアンは、事前にかなりの数の予約が入ったことからもうかがえるが、MyGolfSpyスタッフや、ミズノファンの間で瞬く間にヒットとなった。
3つのモデルから成るMPシリーズは、その全てが素晴らしい。
MP-20は期待をはるかに超えたアイアンだった。前モデルに共通する非常に美しいブレードだ。
MMCは、FLI-HIラインの後継だと勘違いされやすいが、MP-59や中空ボディHMBの系譜に位置づけられるモデルだ。これまでのミズノの上級者向けアイアンとはまったく異なる。
すべてのモデルに採用された独自の銅下メッキがもたらす打感は、期待をはるかに上回るほどだった。
この先MP-20は、MP-14やMP-32と同じように長く愛されるクラブになる可能性は十分ある。アイコンになるべくして生まれたモダンクラッシックアイアンだ。
ウェッジ:ピン GLIDE 3.0
ボーケイやクリーブランドといったウェッジブランドの中でピンは目立たない存在だが、2019 Most Wantedで行ったウェットコンディションでのGlide 3.0 ハイドロパールフィニッシュ効果(疎水効果)は目を見張るものだった。
実際、スピン保持に優れたウェッジや(最初の100ショット)、グルーブの耐久性やスピン性能の持続を謳うブランドはあるが、悪状況でのスピン保持に注目したウェッジはほとんどなかった。
おそらく、AIほど話題性に欠けるのが理由だろうが、ピンは数年かけて疎水効果のあるクラブフェイス開発に取り組んでいた。
MyGolfSpyのウェッジテストに“ウェットコンディション”を追加したことで、この技術がどれほどインパクトをもたらすかを知ることとなった。
だからといって、すべてのメーカーがこれに乗っかってくるわけではないが、ゴルフクラブの研究が進むにつれて、ピンのように『水』への対策は今後のウェッジデザインの重要な要素になるに違いない。
ブレードパター:該当なし
2019年のブレードカテゴリーはドングリの背比べ状態だったことは否めない。言い換えれば、その中で飛び抜けたパターを選ぶのは難しい。
他のカテゴリー同様、気に入ったブレードパターはたくさんあったものの、性能や価格の観点から魅力に溢れたブレードパターはなかったといえる。
マレットパター:トミーアーマー IMPACT SERIES NO.3 ALIGNMENT
一見おかしな選択だが、トミーアーマー Impact Series No.3 Alignment MalletはMost Wantedでも2年連続トップに入った。99ドルという驚くほど安い価格にもかかわらず、No.3の性能は2019年も健在だった。
実際、この自社プライベートブランドを試した人達が性能を絶賛するほどゴルファーからの反応もよかった。
価格はもちろんだが(時々99ドルからさらにセール価格になる場合がある)、一番驚くべきはImpact No.3 が数百ドルするパターに決して引けを取らなかったことだ。
ゴルフボール:ボールの中身
目に見えないものが重要なことがある。ゴルフボールには特にそれが当てはまる。
2019年はボールテストや #FindItCutItなどによってゴルフボール論争が前面に押し出された年であった。
主にキャロウェイのボールに重大な品質問題があることが露呈し、売上にも影響がでた。
複数のロゴがプリントされたボールが見つかり、(多くの場合、同じケース内で)品質がバラバラであることもわかった。
エディターズチョイスに相応しいブランドやモデルを長らく考えた上で、見過ごされがちな品質管理に対する考えが非常にしっかりしていたという理由で、特に共感したのはブリヂストンや、スリクソン、タイトリストの理念だ。
最終的に、キーワードとして「Inside of the ball(ボールの中身)」を選んだ。
ゴルフボール製造における現実を公開することによって、価格や性能ばかりが注目されがちなボールマーケットにおいてもっと品質と品質の安定性が重要視されることを願う。
なぜなら、結果的にそれがプレーにつながるからだ。グリップ:GOLF PRIDE ALIGN
昨年、ALIGNグリップの登場でグリップ業界トップのGolf Prideのリマインダーグリップ(バックラインの入ったグリップ)への着手が明らかになった。
発表当初、MCCやMCC Plus4に搭載され、Tour Velvetand Z Cord Gripにまで拡大された。2018年私達が選んだのもALIGNだったが、今年も同じ評価だ。
多くの場合、ゴルフ用品には選ばれる理由がある。グリップの場合、ハイテク技術かどうかは問わず、気に入れば長く使うものだ。
メーカーが市場に向けて大きな変化を起こすとき、ゴルファーはそこに価値を見い出すものだ。
それを考えると、キャロウェイがEpic FlashラインへのALIGNグリップの標準装備を決めた時、正直リスキーに感じたが、反応は非常にポジティブでかなりの人がALIGNグリップを選んだという。ゴルファーにはアライン(ALIGN、直線)が必要なようだ。
シャフト:フジクラ VENTUS
フジクラ Ventusは、独自の「エンソ(ENSO)システム(シャフト挙動解析システム)」による解析とそこから得た発見によって生まれた逸材である。
稀に見る真の効果をもたらす商品だ。Ventusの場合、「VeloCoreテクノロジー」がねじれに対する抵抗を大きくし、安定したセンターインパクトをもたらすことで、クラブヘッドのやさしさが増す。
MyGolfSpyスタッフのほとんどがVentusを使用している。さらに、Ventusを愛用するトップツアープレーヤーも何人かいて、何よりアベレージゴルファーの間で人気を博した。
価格が高めであるにもかかわらず、Ventusの売上は他のフジクラ人気ラインナップのPro 2.0や、ATMOS、Speeder Evolution を勝るほどだ。
エンソ(ENSO)システムを使った開発に乗り出したばかりだとは驚きだ。
ゴルフシューズ:アディダス TOUR 360 XT/TOUR 360XT SL
MyGolfSpyが選んだベストスパイク・スパイクレスシューズは、アディダス Tour 360 XTとTour 360 XT SLだ。スパイクシューズは2年連続でトップに入り、スパイクレスのSLはスケッチャーズに取って代わり1位に輝いた。
特に驚く事でもなく、アディダスはスポーツ全般にわたり優れたシューズを作ることに定評があり、その名もよく知られる。
他のシューズブランドが停滞気味なのに対し、アディダスはゴルフ業界での確固たる地位を築くための礎として長年フットウェアに力を注いでいる。
2019年ベストゴルフメーカー:該当なし
過去4年はキャロウェイを選んだが、今回は正当な理由を見つけられなかった。
議論紛糾の年ではあったが、主要カテゴリーのマーケットシェアは少々落ち込み、アパレルブランドJack Wolfskin買収もありウォールストリートも騒がしかった。
さらには、Chrome Softの品質問題も明らかになり、会社に貢献したハリー・アーネット氏を含むマーケティングチームの主要メンバーがキャロウェイを去った。
では、他のメーカーはどうだっただろう?
中堅規模でいえば、クリーブランドやスリクソンは安定していた。ウィルソンは、ギャリ―・ウッドランドのUS Open勝利でさらに実績を積み上げたが、Cortexドライバーの大幅な値下げは納得しがたい。
Most Wantedテストを独占したのはミズノ JPX 919シリーズだった。
過去20年トップの座に輝いたのは主にアイアンだが、ミズノのドライバーが高評価だったのは初めてのことだ。
MP-20はすばらしいが、残念な結果をみせたのは新作ゴルフボールだ。さらに、安定のドライバーに対して他のメタルウッドは少し後れをとっているようだ。
PXGは株式会社となった。急成長中の企業トップ500に名を連ね、初の手頃なアイアンをリリース、非常にやさしいドライバーの開発など注目を集めたニュースはたくさんあるが、ネックはやはり価格だ。価格の点で、消費者を納得させる必要がある。
テーラーメイドは、プライベートカンパニーのもと、安定したように思える。商品サイクルと価格への取り組みにより、賢明な成長にフォーカスしているように見える。2020年に期待したい。
タイトリストも、果敢なチャレンジをしながらも変わらず安定感をみせた。ブリヂストンやスリクソンと並び、ボールテストではすばらしい結果をみせた。
結論をいうと、2019年はゴルフ業界にとってすばらしい年だったが、他を圧倒するほどのブランドは見当たらなかった。
カムバックを果たしたメーカー:タイトリスト クラブカテゴリー
10億ドル規模の企業がカムバックを果たしたというのはおかしな話だと思うが、聞いてほしい。
2019年はタイトリストがゴルフカンパニーとして完全に再出発を果たした年だった。タイトリストは、クラブも作る『ボールカンパニー』として扱われる。
クラブに関しては、現状維持でも問題ないと考えていたのだろう。クラブからモデル名の刻印を剥ぎ取ったら、2010年モデルと2017年モデルを区別できないほどだった。
別の言い方をすれば、タイトリスト自身はそれで満足していた。ところが、落ち込むマーケットシェアを無視できなくなったのだろう。
2018年TSメタルウッドラインが発売されるまでに、タイトリストは明らかに変化を起こそうとしていた。
先行のスピンに拘ったシリーズとは異なり、TSシリーズは差別化するのに十分な初のスピード重視モデルとして登場した。
2019年は2モデルがTSドライバーに追加され、何より改良を繰り返してきたAPラインナップに終止符をうつべく、後継にあたるTシリーズアイアンが発売された。
失った顧客を取り戻すことができるかどうかは分からないが、タイトリストがたった1年半で上級者向けゴルファーのブランドという位置づけを忠実に守りながら、アイアンとメタルウッドを一変させたことは偉業と言ってもいいだろう。
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