2016年タイトリストは、ゴルフクラブの「Concept」ラインを新たにリリースした。
「Concept」の基盤は、保守的な姿勢を見せることの多いタイトリストが、大量生産・大量消費で造られるゴルフクラブのコストの制約に縛られずに、最先端のデザインや素材を追求することにある。
また内々には、PXGがゴルフ業界の中で今まで未開拓であったゴルフ市場に参入し、「プレミアム」な領域で成功したことで、同等レベルの製品を提供できていないメーカー各社は、そこに売り上げを奪われたことにも起因している。
タイトリストは、主流メーカーの中で最も「プレミアム」な位置付けとして認知されていることから、その売上が大打撃を受けたことは容易に想像がつく。
こうした中でタイトリストは、この超プレミアムな領域にメリットがあるか反応を見るために、数量限定(ドライバー1500本とアイアン1000セット)でConcept製品を生産した。
当然のことながら、PXGは短期間で成功を収めたために参考となる情報が少なく、C16のドライバーとアイアンがどのように評価されるか、見通しは不透明だった。
ニッチな製品は一般的な市場の動きに必ずしも従わないため、率直に言って販売予測は全く未知数だ。これらの製品のターゲットは市場人口のごく一部に過ぎず、そのターゲット層の購買行動は気まぐれで、明確な理由なしに変化することが多い。
しかし、数量限定で価格も高め(アイアンは1本375ドル、ドライバーは1000ドル)であったものの、消費者が購入を思いとどまることはなかった。
Concept製品についての噂は、一般ゴルファーが製品の存在を知るよりも前に広まっていた。
そのおかげでタイトリスト初の数量限定モデルは、驚くほどの好成績を収め、その継続的な研究開発や発売の流れは主力製品よりも予測しにくいことを踏まえたとしても、コンセプトモデルは収益を上げられるということを証明した。
2019年からタイトリストは、正式なブランドとして「CNCPT」を立ち上げる。このブランドのイメージは「アイデア」や「約束」で、CNCPTクラブ担当のブランドマネージャーを務めるケリー・モーザージュニア氏によると、「タイトリストの答え」は可能性に対する挑戦だという。
可能性に対する挑戦というのは、通常ならばコストの問題のために採用できない素材やプロセスを自由に探求してみることである。
このようなアプローチは、一般的に高グレードの素材の追求や、高い生産コストが不可欠とされる航空宇宙分野などに用いられている。
CNCPT CP-01/CP-02
素材が高価であればパフォーマンスも高くなるとは限らないが、CP-01/CP-02に関してタイトリストは、「今までプレーした中で最高のアイアン」を開発したと考えている。
ただ、何を持って最高というかは難しいが、アイアンに求める要素(飛距離、許容性、外観、打音・打感、一貫性)を考えるなら、CP-01/CP-02では、ほとんどのアイアンに付きまとうマイナスの要素は抑えられていると思う。
CP-01は、ヘッドスピードの速い上級者向けのと位置付けられている。
またCP-02は、いいとこ取りのクラシックなマッスルバック形状で、中級者向けの許容性を備えているが、こちらも球速は速い仕様となっている。
MyGolfSpyのMOST WANTEDアイアンテストでは、最高のパフォーマンスを示すアイアンは、必ずしも飛ぶクラブではない傾向が見受けられる。
飛距離はアピールポイントになるが、常にスコアと相関関係にあるわけではない。
一般的に、飛距離が伸びるほどボールをコントロールしにくくなり、ストッピングパワー(ボールをグリーンの上に落とし、そこに止める能力)も低下する。
タイトリストは、ゴルフ界では最も薄く厚さが一定のSuper Metal L Faceを採用することで、今までのアイアンに見られない球速を実現できた。
しかしタイトリストは、現時点では、Super Metalが正確にどのような合金であるか説明していない。
これはGEN2アイアンの素材として、TPEに代わってCOR2を採用したスタンスに似ている。
その狙いは、PXGが詳しい情報をなるべく長期間秘密保持することでコピーされることを防ぐことにある。
しかし、Super Metalが評判通りの性能を見せるならば、当然のごとく競合他社メーカーもすぐに真似をし始めるだろう。
CNCPTシリーズのアイアンの価格は、1本当たり500ドルである。
ただし、Super Metalの素材が高価なため、セット販売が条件になっているという。
確かにCP-01/CP-02の球速は、現在市販されている他のどのクラブよりも速いが、飛距離の出るアイアンを開発することは必ずしも画期的とは限らないということも認めなければならない。
メーカー各社は、過去10年近く、飛距離を伸ばすためにロフトの強化に取り組んできた。
CNCPTは、アイアンに求められる打ち出し、スピン、および落下角の方程式の諸要素で妥協することなく、飛距離に関する約束を守れるのだろうか?
守れないなら、何の意味があるのだろう?
こうしたことに対応し、飛距離の向上がCNCPTにとって問題点にならないようにするために、タイトリストは、「多量の高密度タングステンを採用することで、今までにない水準のMOI(許容性)を実現できた」という。
具体的には、CP-01には平均100グラム以上、CP-02には少し多めの平均110グラムの高密度タングステンが含まれている。
CNCPTのパフォーマンスについて他の選択肢として何を考えるにしても、多量のタングステンが含まれていることをあらかじめ前提として理解しておく必要がある。
これによりタイトリストは、通常よりもはるかに大きな質量をクラブヘッド内の低く深い位置に配することに成功した。
その結果、打ち出しに関してもCNCPTのような頑丈なロフトのクラブにありがちな打ち出し角の問題に、大きく改善されるはずである。以上のことから、タイトリストの主力アイアン製品の重要な特長であるストッピングパワーも確保されるだろう。
MyGolfSpyのスタッフは、PGAショーのデモ日にこれらの新しいアイアンを試し打ちする機会に恵まれた。弾道が低めであったが、全く問題ないと感じた。
スペックを見る限り、CNCPTのアイアンは、価格(1本当たり500ドル)、パフォーマンス、そして入手可能な高価格製品と位置付けられている。
CNCPTの担当コンシェルジュ(連絡先はCNCPT@acushnetgolf.com)以外には、タイトリストの各モデルの生産本数や販売モデルの詳細などの情報は知らされていない。
これらの情報が手に入り次第、当サイトで随時報告していく所存である。
価格帯とターゲット層を見る限り、量販店での販売は行われないようである。
100%カスタムフィットの製品と考えるのが合理的だろう。
実際にタイトリストは、PGAツアーのスタッフがCNCPTでプレイしたい場合は、購入してもらう必要があると言っている。
ブッチ・ハーモンがCNCPTの7番アイアンを手にした後に、タイトリスト契約外の一流のツアープレイヤーが250ヤードを叩き出したそうだから、ツアーでこのCNCPTのアイアンセットに対する需要が高まることも考えられない。
アイアンセットに4000ドルも費やすのはバカバカしいとされていた時期もあり、「ゴルフ用品業界の価格設定はバカげている」と嘆くコメントが今後出てくることには疑いの余地がない。
ただし、商品が高額なことにはそれなりの理由あり、CNCPTのような製品のリリースがゴルフ産業の主力製品に対してどのような影響を及ぼすかについては一考する価値があるだろう。
結果的に大量生産・大量消費の製品の値上げ圧力が高まり続けているという議論もあるが、どこかでイノベーションは起きなければならない。
CNCPTのような開発上の新しい試みが行われれば、新しい考え方が芽生えると同時に、新たな技術も発見されていくであろう。
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