テーラーメイドの新しいドライバー、SIMを言い表すとしたらこの言葉に集約される。『幾何学』だ。
もしわかりにくいようなら『形状(Shape)』と言い換えてもいい。実際、SIMのSはShapeからきているのだから。SIMとはShape In Motionの略なのだ。
ツイストフェースやスピードインジェクション、TトラックやYトラックをもたらし、ウエイトをあれだけ遠くにシフトさせたテーラーメイドの製品だと考えると、ただ『動きに働きかける形』というだけでは物足りなく感じるかもしれない。
ただ、ゴルフクラブの革新性と性能に関しては、必ずしも派手な謳い文句がいい文句とはいえない。記憶に残る真実というものはたいていシンプルなものなのだ。
まあ、『形(動きに働きかけようがかけないが)』よりシンプルな謳い文句もなかなかないだろう。
M6からの進化
SIMの3モデル、SIMとSIM MAX、SIM MAX DにはいずれもM6のDNAが色濃く見受けられる。つまり、変わった形がどんどん一般的になっているということだ。
もうひとつ、お気づきかもしれないが、コブラの最新作との類似点も見られる。もちろん明確な相違点もあるのだがそれはまた後ほど。
テーラーメイドが目指すのは、ずばぬけた重量特性(長く低い重心、高慣性モーメント)を有し、空気力学的にも優れたドライバーを創ること。
つまり、より効率的な空力=より速いヘッドスピード=飛距離増、ということだ。
極めてシンプル。ならば簡単に実現できる?そうでもない。
そこには必ず代償がある
代償については前にも話したが、たとえばドライバーだと、低重心は通常は浅重心を意味する。
スピン量を減らしボール初速を上げるには効果的だが、寛容性は損なわれる(低慣性モーメント)。
深重心ならもっと易しくなるが、より高い重心位置を伴うことが多いため、スピン量が増え、後ろに重さがあることで空気力学的にも不利になる。
ならばテーラーメイドはいかにして低重心で易しく空気力学的にも優れたものを創り上げたのか。
M6の時と同じく、クラウンを上げてスカート部(ヘッドのクラウンとソールの間にある、去年まで誰も気にしていなかった部分)を高くし、慣性ジェネレーターと呼ばれる大きな塊を底部に配することで、低深重心を実現した。
その結果、ドライバーのヘッド形状としては、現代においてもかなり異質なものとなった。
近頃では、テーラーメイドとコブラがトレンドの最先端を突っ走っている。
もちろん、おとぎ話のように全てがめでたしめでたしというわけではない。
左からSIM、SIM MAX、SIM MAX D
「イナーシャ(慣性) ジェネレーター」によって新たに空気力学的な妥協を強いられることになったのだ。
M6や同じ系統のヘッドと同じく、ジェネレーターが前部から後部にかけて真っ直ぐだと、インパクト時の空気抵抗は最大限に抑えられるが、ではインパクト直前ではどうだろう。
テーラーメイドのテストによると、ダウンスイングのフェースがまだ開いている状態から徐々にスクエアになる(なってほしい)過程で、イナーシャ(慣性) ジェネレーターのヒール部分あたりで気流が乱れている。
気流の乱れというのは乱流後流や乱流抗力の柔らかい表現なわけだが、行き着くところ、ヘッドスピードが減速するかもしれないということ。
解決策がまた新たな問題を引き起こしたというわけだ。
そのため、実際にプレーヤーによるテストをおこなう前に、テーラーメイドのエンジニアがコンピュータによるシミュレーションを繰り返し、様々な風向きでクラブヘッドの風洞テストをおこなって、何度も設計をしなおした上で最終的なものに仕上げていった。
「コンピュータ上や風洞テストでうまくいったとしても、プレーヤーが使って実証されるまでは、空気力学的な改善がなされたとはいえない」と、(トモ・バイステッド氏)。
プレーヤーテストでは新しい回転状に傾けたデザインが空気力学的に優れているという結果が出た。空気力学的な優位性が実証されたのだ。
SIMの回転状イナーシャ(慣性) ジェネレータージェネレーター(ヒールからトゥにかけて傾いているのがわかる)により、ヒール部でみられた気流の乱れはなくなった。
これによりドライバーのソールは左右非対称な外観となったが、それが飛ばしの秘訣であるのなら、気にする者はいないはずだ。
ソールの一部を回転させると聞くと簡単そうだが(そしてシンプルさは長所になり得る)、この方法はテーラーメイドが特許を取得しているので他のメーカーが活用することはできない。
では実際のところこの形状や空気力学云々の恩恵は何なのか。
トモ・バイステッド氏曰く、それはテーラーメイド史上最大の低重心および、同程度あるいはより高い慣性モーメント、それに空気力学的に優れた効率性だ。
形状のおかげでより速いヘッドスピードと寛容性、高打ち出し角が手に入る。
この形状にインジェクティッド・ツイストフェースを組み合わせることでさらなるボール初速も期待できる。
空気力学的な改善度を数字で表すと、前年モデルに比べてヘッドスピードは0.31〜0.67m/s上昇したという。
ただし、このデータは平均ヘッドスピード46.5m/sあたりのグループにおける数字である。
一応言っておきたいのは、空力性能向上の恩恵を最も受けるのはヘッドスピードの速いプレーヤーであるということ。
ヘッドスピード46.5m/s以下のプレーヤーに0.67m/sもの速度アップは見込めないが、もしそれ以上ならば恩恵は十二分に受けられる。
USGAがドライバーのフェースの反発を調べる測定基準、CT値とCOR(反発係数)の大まかな相関性とだいたい同じで、テーラーメイドはeCTという測定基準を用いて空気力学的な効率増をCTと関連づけている。
母数の有効性に疑問を呈する競合他社は必ずいると思うが、テーラーメイド曰く、強化された空力性能によりドライバーに有効CT値265〜270をもたらしたという。
M5/M6では 250〜255からの改善だ。専門的なことをいうと、10CTポイントはボール初速0.22m/s増に寄与するので、テーラーメイドのeCT測定基準に置き換えると約0.34m/sのボール初速アップとなる。
CT値、より正確にいうと実際のCT目標値に関しては、テーラーメイドの掲げた目標値についてバイステッド氏が明言することはなかった。
だが、その値は皆が実現させようとしているものに近い数字であろう。
バイステッド氏曰く、テーラーメイドはルールを遵守しながらも限界に挑戦するが「機械加工公差のことも考えなければならない」。
つまり、テーラーメイドは可能な限り速度を上げたいと思っているものの、ギリギリにしすぎたせいでUSGAからルール不適合ドライバーの烙印を押されることも望んでいない。
3つのモデル
2020年度、テーラーメイドのドライバーラインナップは3種。
共通項は多々あれど、写真でわかるように、形状についてはかなりの相違点が見られる。それぞれの性能に特性を持たせるためにテーラーメイドがどれだけ尽力したかが見てとれる。
全モデルに前述の回転状イナーシャ(慣性)ジェネレーターが搭載されている。
慣性モーメントを促進するため後方に設置されたスチールウエイトも然り。
SIM MAXには18gの、SIMとSIM MAX Dには12gのウエイトが装着されている。
ご想像通り、インジェクテッド・ツイストフェースについても全モデルで継承された。フェースのネジの色はブルー、いい感じだ。
左からSIM、SIM MAX、SIM MAX D
全モデル、可変スリーブにより2度の調整機能つき。
いつもはあまり深く掘り下げないが、SIMシリーズのコスメに言及しないわけにはいかない。
今回のアクセントカラーはブルー。クラウンはテーラーメイドがクロミウムと呼ぶ濃いシルバー。
面白いのは組み上げ前にカーボンファイバーにイオンコーティングが施されていること。
そしてサテン仕上げで出来上がり。リーディングエッジのホワイトはテーラーメイドがチョークと呼ぶ色だ。わずかにオフホワイトでマットな仕上がりだ。
左からSIM、SIM MAX、SIM MAX D
イオンコーティングがクラウンに奥行きを与え、ロゴは層の中で浮いているように見える。
重要ではないかもしれないが、非常に美しいことは確かだ。今年見た中で最もルックスが良いドライバーである。
SIM
主力商品のSIMは3モデルの中で唯一可変ウエイトが採用されている。そしてテーラーメイドが可変ウエイトシステムを簡素化したことが見てとれる。
M5のYトラックは1本のヒール/トゥ・トラック(SLDR風と言って差し支えないだろう)に置き換わった。スライディングウエイトは10g。
トモ・バイステッド氏は言う。「最も性能の良い商品を創るため、ゴルファーが使いやすいものにするため、そして彼らの求めるアジャスタビリティをもたらすために、より進歩できる方法を我々は選んだのです」。
シンプルだ。
以前も話題にしたが、可変ウエイトの設置には構造を要し、構造に重量をとられたあおりはクラブヘッドの性能に直結する。
もちろんフィッティング性能が上がるのは大きいが、その代償としていつも必ずなんらかの性能が犠牲になるのだ。
テーラーメイドは、打ち出し角やスピン量(ロフトやシャフトなども)などの微調整には複数のやり方があり、軌道のコントロールのために重量を費やす必要はないと考える。
ヘッドのフロント/バック・トラックを取っ払い、その構造分の重量を確保、そこでひとつ減ったウエイトはクラブの後方に組み込まれた。
まあ、来年フロント/バック・トラックが復活したら、またこれについて検証することにしよう。
M5にあったウエイトをひとつ、もともとテーラーメイドのツアープレーヤーのほとんどが設置していた後方ポジションに固定したと思えばいい。
SIMのスピン量はM5に比べて100〜200rpmほど少なくなるとみられ、寛容性も少し増す。
430まではいかないが、SIMシリーズの中では最も低スピン量のモデルであることは確かだ。
トラックが存在することによる空気力学的な損失、すなわちトラックの上を空気が流れることで生じる乱流抗力は、ウェイトを1つにすることで補完される。
SIMは460ccだが、SIMシリーズの中では構えたときに最もコンパクトで、フェースも一番小さい。
ロフト角のラインナップは8度と9度、10.5度。リアルロフトはクラブに記されたロフト角に近い数字だろう。
標準シャフトは三菱のディアマナ S60 LTD(中/低打ち出し角)およびProject X HZRDUS スモークグリーン 70(低打ち出し角)。
言うまでもないが、スモークグリーンはより精度の高いSmall Batchバージョンではない。
小売価格は549ドル。
SIM MAX
SIM MAXのMAXとはつまり、MAXシリーズの中で最も高い慣性モーメントであるということを示している。
後方のウエイトはSIMに比べて6g重い18gだ。フェースは8%大きく、M5/M6に一番近い顔をしている。
比較すると、M6よりも高く上がりやすくスピンも多い。SIMが一番低スピンである一方で、SIM MAXも少なすぎるというわけではないが、そのスピン量は少ない方だ。
SIM MAXのロフト角は9度と10.5度、12度のラインナップ。リアルロフトは表示の数字より少し大きいはず。
標準シャフトはフジクラのVentus(ヴェンタス*)・ブルー(中打ち出し角)とVentus(ヴェンタス*)・レッド(高打ち出し角)およびNVレディース45。
Ventusに『*』がついていることにお気づきだろうか。私が敢えてつけたものだ。
メーカーは共同設計という言葉を使いたがるが、ゴルファーに馴染みのある専用設計という言い方をしよう。
つまりここで採用されているのは通常のVentus(J.B. ホームズ使用の)ではないということ。
カスタム用と違い、テーラーメイドのバージョンには、バイアス層のPitch 70ファイバーがない。
Ventusの一番の売りであるVeloCoreテクノロジーが採用されていない。なのでチップ部が柔らかい。
既製品を求める購買層にとっては悪いことではないかもしれないが、とはいえ、VeloCoreあってのVentusなわけだから、VeloCoreのないシャフトは、明らかにVentusではないだろう。
昔ながらのペテン師のやり口だが、メーカーはカスタム用のプレミアムシャフトをより低コストのメーカー標準品に落とし込むという、実にクリエイティブな方法を思いついたわけだ。
別にズルくないと思う人もいるかもしれないが、チップ付近に小さく記されたVeloCoreのロゴがないだけで、Ventus *もカスタムのVentusもコスメは瓜二つだということを考えてほしい。
つまり、そこにはゴルファーを騙そうとする明確な意志が見てとれるのだ。
標準シャフトの駆け引きには、メーカー側とシャフトブランドとのせめぎ合いがあり、そこには当然、財政的な制約もある。
したがって、責任の所在を明らかにはしないが、一応丁寧にお願いしておこうと思う。頼むからゴルファーを巻き込んでそういう駆け引きをするのをやめてくれ。
もっとマシになってくれよ。
それはさておき、SIM MAXの小売価格は499ドル。
SIM MAX D
SIMシリーズの3つめはMAX Dだ。
このDはDraw(ドロー)の略なので、弾道矯正モデルであるということは明白だろう。「スライサー用」という言葉を非常にうまく言い換えている。
SIMと同じく、慣性モーメント促進のため12gの後部ウエイトが搭載されている。ドローバイアスをさらにかけるため、ヒールにもウエイトが追加されている。
ゴルファーはよく弾道矯正と寛容性をごっちゃにしがちなので指摘しておくが、ウエイト配置により、SIM MAX Dの慣性モーメントはSIM MAXよりも低くなる。
これはどんなドロー系クラブでもほぼ同じことが言える。また、SIMシリーズの中では最もスピン量が多いモデルでもある。
MAX Dはシリーズの中で一番フェースが大きい。SIMと比べると18%増だ。
ターゲットゴルファーはインパクトエリアが散らばることを見越して、テーラーメイドはボールが当たる面積を大きくしてくれたってわけだ。助かるよ。
SIM MAX Dのロフトは9度と10.5度、12度のラインナップ。リアルロフトは表示よりも少し大きいはず。標準シャフトはUST Helium 4/5(高打ち出し角モデルには一般的な選択)とNVレディース45。
SIM MAX Dの小売価格は499ドル。
標準シャフトの不満についてはまた別の機会に話すとして、素人から見ればウエイトトラックが1本減ったことは後退かもしれないが、テーラーメイドがSIMシリーズを発売するということは非常に印象的な出来事だ。
すでに知れわたっている機能を撤去することには常に大きなリスクを伴うことがわかっていながら、トラックを取り去ったということは、テーラーメイドがエンジニアリング重視でSIMを創り上げたなによりの証拠である。
結果的に、それぞれ目的にかなった3種のドライバーが出来上がり、違いがはっきりとした価値あるラインナップとなった。
テーラーメイドが昔ながらのドライバーの概念を捨て去り、イナーシャ(慣性)ジェネレーターを採用したということはつまり、しばらくはこのデザインでいくということだろう。
念のため各モデルの小売価格をいまいちど。
SIMが549ドル。SIM MAXとSIM MAX Dは499ドル。
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