いわゆる飛び系のアイアンの果たす役割は2つ。掛け値なしの飛距離と易しさだ。

より遠くに高く真っ直ぐ飛ばすため、各社いろいろと打開策を講じ、どんどん新しいものを開発している。

最もわかりやすい打開策はロフトを立てることだ。しかし重心位置とスピン量が限りなく低くない限り、ロフトを立てるだけではどうにもならない。

「いまどきの良質な飛び系アイアンは多かれ少なかれ2つの特性を兼ね備えている」とテーラーメイドのシニア・アイアン・マネージャーのマット・ボーヴィー氏は言う。「それなしでは計測器での闘いで勝ち目はない」。

それを理解した各社の望みは、7番アイアンで計測器での闘いに勝つことだ。

テーラーメイドの2020年モデル、SIM MAXとSIM MAX OSアイアンは前作M5/M6の後継で、テーラーメイド曰く計測器の闘いから頭一つ抜け出す製品になったという。

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ただ、我々のMost Wantedテストでは、SIMの前モデルであるM5とM6はテーラーメイドっぽくない性能をあらわにしていた。果たしてSIMの双子は形成を変えることができるのか見てみることにしよう。


 

SIMじゃないSIM?

”Shape In Motion”という意味のSIMは、クラブの空力を新たなレベルに到達させるためのテーラーメイドの試みだ。

アイアンにおいて空力の最適化ができるとは思えないが、そう言うならそうなのだろう。

SIM MaxはM6の正統な後継だ。

となるとそれよりも少し小さめで少し難しい上級者向けモデルがM5の後継になると思うだろうが、今回そうはならなかった。

その代わりに超飛び系であるところのSIM Max OSが出てきた。それには理由がある。

「全体的な性能、ブレードの長さ、ソール幅、オフセット度合いなど、SIM MaxはM6と同じだ」とボーヴィー氏。違いは飛距離性能の進化と、テーラーメイドにしては珍しく打音と打感へのこだわりだ。

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打開策と架け橋

飛び系アイアンの存在理由は、対象となるほとんどのゴルファーが上級者に比べてボールを遠くに飛ばせないためだ。

そしてそういうゴルファーが全体に占める割合はかなり大きいので、各社1ヤードでも遠くに飛ばそうと毎年しのぎを削っているわけだ。

ロフトを立てるのは一つの打開策ではあるが、正しい重心位置、打ち出し角、スピン量、降下角が得られない限り、出るのは低く鋭い弾道でしかない。

飛距離を出すには5番アイアンに7と数字を刻印するだけでは足りないのだ。

しかしテーラーメイドには飛距離を伸ばすための打開策がある。

SIMにさらなる飛距離をもたらす打開策のいくつかはおなじみの、そしていくつかは新しいものだ。昨年加わった2つは、スピードブリッジと貫通型スピードポケットだ。

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スピードブリッジの見た目はなかなか特徴的だ。

バーがクラブのパーツを繋いでいるという意味ではなんとなく昔のナイキのスリングショットを彷彿とさせる。もちろん中身は全然違うわけだが。

スピードブリッジは、スピードと飛距離性能という異なる性能を有するトップラインとソールを繋いで一貫性を持たせる、文字通りバックキャビティに架かった橋だ。

貫通型スピードポケットはソールからリーディングエッジを完全に切り離すもので、ソールからポリマー(バックストリップ)を取り去って空洞に水を注いだらクラブの底部から流れ出す仕組み。

なんかいいけど、それが何の役に立つ?

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「完全に切り離されて宙に浮いているものは柔軟性が増す」とボーヴィー氏。「スピードブリッジと貫通型スピードポケットがこのように組み合わさることで、インパクト時のフェースのたわみが全く別次元のものになる」。

ああ、懐かしきフェースたわみのトリック。数年前から飛び系アイアンではおなじみだが、今年はさらにそれがフェースが低いところに位置している。

スピードブリッジとスピードポケットのコンビによってSIMのフェースはインパクト時、トランポリンというよりも踏み切り板の役割を果たす。

「それによりフェースの柔軟性が増し、最もたわむ場所がフェースのより低いところに移動する」とボーヴィー氏。「インパクトポジションが一定になることで、エネルギー効率が高まりボール初速増に繋がる」。

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さらなる打開策

他社と同じくテーラーメイドはフェース厚の、というか、より正確にはフェース薄の限界に挑戦している。

SIM Maxは20%も薄いフェースでボール初速を激増させスイートスポットを拡大させている。

「我々の定義するスイートスポットは、800 CORポイントかそれ以上の数値がでるフェース部分のこと」とボーヴィー。「M6に比べてSIM Maxはスイートスポットがかなり拡大している」。

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テーラーメイドが考えたもうひとつの飛距離増への打開策は、番手別インバーテッドコーンテクノロジーだ。

インバーテッドコーンテクノロジーはテーラーメイドにとっては数年来の不可欠要素で、競合他社がバリアブル・フェース構造と呼ぶものだ。

最も圧のかかるフェースセンターに最も多く質量を持ってきて、圧の少ない他の場所を薄くする。薄いエリアが広いスイートスポットとなる。

インバーテッドコーンをフェースセンターに配するのは理にかなっていると思ったかもしれないが、飛び系アイアンにとってはそこが最善の場所ではない。

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「柔軟で初速が速いフェースを備えた飛び系アイアンは右に飛ぶ傾向がある」とボーヴィー氏。「アイアンのフェースは左右上下対称ではなく、トゥ側が広くヒール側は狭くなっているので、フェースの動きはヒールよりトゥ側で起こる。したがってトゥヒットするとボールは右に飛び出すことになる」。

テーラーメイドは最初、ロケットボールズアイアンでインバーテッドコーンをオフセンターに配した。

ボーヴィー氏によると重心位置やライ角調整以上に右に飛ぶ結果となった。

SIM Maxでは番手別インバーテッドコーンにすることで、番手ごとの最適化を図った。

「例えば7番アイアンでは今でもオフセンターに配しているとはいえ(飛び系アイアン使用者のミスはトゥヒットによるものが多い)、よりセンターに近づいている」とボーヴィー氏。「もっと右へのミスが増える4番アイアンでは、最もトゥ側にインバーテッドコーンを配し、右へのミスを極力抑えるようにしている」。

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飛距離増への最後の打開策、打ち出し角とスピン量は、だいたいは重心位置絡みであるが、SIM Maxではテーラーメイドの2つの特許製法が採用されている。

360°アンダーカットキャビティ(トップライン下のキャビティ)とフルーテッドホーゼル(テクノロジーというより賢いアイデア)により、重量をアイアンの最も高いところから最も低い位置へと移動させることができた。

「ソール部分にタングステンを配置するよりも、この方法のほうが重心位置の最適化が図れる」とボーヴィー氏。

確かにレングスが長いアイアンセットだし、確かに7番アイアンで28.5度とロフトも立っている(M6と同じ)。ただ、テーラーメイドを言い表す代名詞は数あれど、「アイアン馬鹿」と言われたことはかつてない。

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※画像上から

番手 / ロフト角 / ライ角 / オフセット / バウンス角 / クラブ長さ / バランス(ST=スチール)(GRカーボン) / バランス(レディース) / ハンド RH (右用)LH(左用)  

「立っているロフトの話をするとき、本来は打ち出し角や弾道の高さ、降下角やスピン量についても考えなければならない」とボーヴィー氏。「降下角こそがカギなのだが、ほとんどのゴルファーはそれについて考えたこともない」。

ボーヴィー氏曰く、40度以上の降下角と十分なスピン量があれば普通のグリーンでボールを止めることは容易で、SIM Maxのプレイヤーテストでは平均約42.5度の降下角であった。

「ロイヤルメルボルンでプレーしているなら、それは厳しいことになるだろうが、地元のパブリックでプレーしているぶんには全く問題ないだろう」。


 

打感の架け橋

「うまく当たったショットは世界一気持ちのいいものだ」とボーヴィー氏。「僅差の2番目だとしても同様に」。

 

しかし鋳造の飛び系アイアンで、果たして鍛造アイアンほどの打感が得られるのだろうか。

厳しいはずだがテーラーメイドはSIM Maxならばそれが可能だと断言する。

「打感の良い飛び系アイアンを作るのは非常に難しい」とボーヴィー氏。「このカテゴリーはなによりも飛距離重視。すなわちフェースの柔軟性が重要になる。打感を良くするためにフェースの動きを遅くするわけにはいかない。そうなったら元も子もないからね」。

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もうひとつ考えなければならないのは、ハンデの多いゴルファーはフェースのあらゆる部分でボールを打つ傾向があるということ。

つまり、ミスヒットであっても打感が良くなければならないのだ。これは難題だ。

フェースの広い範囲でソフトなフィーリングにするためテーラーメイドが考え出したのが、フェース裏、ヒールからトゥにかけて柔軟素材のダンパーを複数配置するエコーダンピングシステムだ。

「鳴らしたベルの音を止めようとするとき、指1本で抑えようとするか、手のひら全体を利用するか」とボーヴィー氏。「我々は、接触点は複数あるほうがいいと直感的にわかっている。そのロジックをフェースに当てはめたのだ」。

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エコーダンピングシステムは、Hybar(ハイバー)という鋳造できる柔軟性の高い素材を、フェースの動きを損なうことなく振動を吸収するようテーラーメイドが形成したものだ。

その効き目は?テーラーメイド曰く、プレーヤーテストでも音の波形でも(音=打感だからね)それが証明されたという。

SIM Maxと鍛造のP790の録音では事実上同じ波形を形成しているが、テーラーメイドは念を入れてツアープレーヤーでも検証した。

ボーヴィーによれば、ジェイソン・デイにP760とSIM Maxの両方を打たせて、目隠しをされたローリー・マキロイやタイガー、ジョン・ラーム、ダスティン・ジョンソンが、デイがどちらのアイアンを打ったのか音で判断してもらったところ、彼らは聴き分けることができなかったという。

「世界で最も優れた耳の持ち主たちですら、SIM Maxと鍛造Pシリーズの区別がつけられなかった。M6との違いは確実に聴き分けたはずなのに」。

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真偽のほどは自身で打って確かめてほしい。


 

SIM Max OS

今までテーラーメイドは飛び系アイアンにおいて、小さめのプロタイプ版を併売してきた。M1にはM2、M3にはM4と。しかし今回はSIM Max Proはない。その穴を埋めるのはP790になる。

ボーヴィー氏曰く「我々の持つP790使用者リストにあるゴルファーのハンデは+4から25。なので、スリムで昔ながらのアイアンが欲しいなら、腕前を問わずP790が最適だ」。

テーラーメードによると、M5とP790は操作性が極めて近く自社競合してしまったという。

どちらかが去らねばならない場面では、安価なほうをやめて、そのかわり何か新しいものを出すというのが適切な経営上の適切な判断となる。

というわけで登場したのが、お兄ちゃんのSIM Maxに比べて、大きめで、もっと寛容性が高く、ロフトもより立っているSIM Max OSというわけだ。

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SIM Max OSはSIM Maxよりもソール幅が広いが、かなり面取り加工がなされているので、そこまで幅広には見えない。

「これにより、重心位置をヘッドの低いところに持ってくることができた。これは超幅広ソールにするのと同じ効果なのだ」とボーヴィー氏。「もちろん、もさっとした、あるいはシャベルのような見た目にすることなく操作性を維持できたという意味では超幅広ソールよりずっといい。補助輪がついているように見えないのに、高打ち出し角が得られるのだから」。

前述の通り、SIM Max OSはロフト角が立っており、テーラーメイド曰くラインナップの中で最も長いクラブだという。

ボーヴィー氏は、すくい打ちをしてダイナミックロフトを増やしてしまう傾向のある高ハンデプレーヤーにとってはロフトが立っていることが恩恵になるという。

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※画像上から

番手 / ロフト角 / ライ角 / オフセット / バウンス角 / クラブ長さ / バランス(ST=スチール)(GRカーボン) / バランス(レディース) / ハンド RH (右用)LH(左用)

 

「フィッティング目線でいえば、世の中には様々なタイプのアマチュアプレーヤーがいる。そのうち何割かはロフトが寝ているほうがよくて、中間がいい、ストロングロフトがいいという者もいる。彼らは往々にしてインパクト時にこのダイナミックロフトを足してしまう傾向があるので低く鋭い弾道にはならない。SIM Max OSはそこに選択肢を与えるものなのだ」。


 

価格、選択肢と総括

会談中、ボーヴィー氏が何度も強調していたのはテーラーメイドが前作の価格帯のまま据え置いたということだった。

8本セットのSIM MaxかSIM Max OS(セッティングは4番〜アプローチウェッジ、5番〜サンドウェッジが最も出るとテーラーメイド)の小売価格はスチールシャフトで899.99ドル、カーボンで999.99ドルとM6と同じ。

ハイブリッドとのコンボセットだと100ドルアップとなる。

純正シャフトはいずれのSIMも同じ。スチールはKBS MAX 85、カーボンは男性用がフジクラのVentus*(ヴェンタス)、女性用はAldila(アルディラ)NV Ladies 45。

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純正グリップは男性用が47gのラムキン Crossline 360、女性用は38gのラムキン Ladies Sonar。

いずれのセットも右利き左利き用を取り揃え、2月7日から店頭に並ぶ。

見た目について、テーラーメイドの飛び系と激飛び系アイアンは使ううちに慣れてくる感じといえばいいか。

このカテゴリーのアイアンはみなおしなべてその傾向にあるが、SIMにクローム仕上げはない。光沢のあるステンレススチールを採用することで価格を抑えている。スピードブリッジを見てクスクス笑うゴルファーも一定数いることだろう。

性能的には、昨年のMost WantedでのM5M6を考えると、明らかに改善の余地はあった。とはいえ、どちらのMも売上は立派なものだった。

2019年に一番売れたテーラーメイドのアイアンは本数換算ではM6だった(金額的にはP790の売上のほうが高いが、そもそも高価なアイアンなので)。今年のSIMも同じように売り上げることだろう。

結局のところ天下のテーラーメイドなのだから。そしてテーラーメイド社が見据えているのは、SIMシリーズが2020年アイアンラインナップの60〜65%を占めることだ。

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テーラーメイドのオーナーが代わって2年半、半年ごとに新作を発表していたあの馬鹿馬鹿しい時代からも数年が過ぎた。

話を聞いたチームによると、私有財産になってから社風もかなり変わったらしい。特に、何が何でもマーケットシェアに拘泥する姿勢はもうない。

「我々は競争力の高い企業。もちろん勝ちたい」とボーヴィー氏。「しかしそれより大切なことは健全であることだ。マーケットシェアの闘いに勝つための方法はいろいろあるが、長い目で見たときそれが会社にとって正しい選択とは限らない」。

「マーケットシェアの闘いというのはちょっと馬鹿馬鹿しいもので」テーラーメイドのコンシューマー・エンゲージメント部門のディレクター、ライアン・ローダー氏は言う。「そんなものはビジネスや企業に健全さを与えてくれやしない」。

少なくとも、ロケットボールズの時代からは格段の変化だ。