ここ数週間は新製品発表の情報が飛び交っているが、PINGは随分と静かだった。確かに、その認識は正しい。
PINGの商品リリースサイクルは他社よりも慎重で、主力のG410ウッドは発売から1年も経っていないという単純な話だ。
基本的に、PINGは製品を急いで市場に投入したり、(バッバ・ワトソンのドライバーは除くが)ドギツイカラーリングや疑わしい宣伝文句でゴルファーにアピールすることはない。
通常のPINGの商品リリースは、それぞれが明確な目的を持つ飛躍的な進化に重きを置いている。確かにやや味気ない気はする。これでもなるべく良い感じで言っている方だけど。
我々が毎年実施している「ブランド意識調査」において、一貫して読者がPINGに高評価をつけた点は、パフォーマンス、エンジニアリング、品質、誠実さ、信頼性、そして謙虚さとなっている。
これは皆さんの声だが、私もそんな感じがしている。
G710
PINGが、見た目に魅力的ですっきりした最高のフィーリングを持つプレーヤーズアイアンを実現するために、i200の後継としてi210アイアンを投入したのは、2018年7月のこと。
それから半年後、G410をリリースし、小さい見た目ながら大型ヘッドのパフォーマンスを達成しようとした。
PINGのアイアンラインナップを俯瞰して見ると、i500とG710は、それぞれi210とG410の中空ボディ版と言える。
そして、今回のG710はG700に代わるモデルで、ラインナップの中で一番大きなヘッドを持つ最も寛容性があるアイアンとなっている。
G710では、G700アイアンの2つの致命的な欠点を解消した。「致命的」というとゾッとさせてしまいそうだが、G700は性能こそ良かったが、ゴルファーをフィーリングとコスメの耐久性で満足させることはできなかったということだ。
あらゆるデザイン改良に対するPINGの考え方は、歩みは小さくても前に進ませるということ。
つまり、他領域のパフォーマンスを低下してまで、ある領域(ボールスピード、寛容性、美観)のパフォーマンスは向上させないということだ。
見た目
新しいクラブは、どのくらいの間、「シュリンクを取ったばかりの」見た目でなければならないのだろうか?答えはどうあれ、その点でG700は不合格だった。
G700のサテンハイドロパール仕上げは、ユーザーを満足させることはなかったし、PINGがアピールしていたほどでもなかった。G700は、汚れでも擦り傷でも何でも、見た目に悪い傷が使い始めてすぐに目立ってしまった。
一般的に、鍛造アイアンは軟鉄から製造されるため、細かい傷や擦り傷がすぐに出てしまうことで知られている。しかし、ブループリントを除けばPINGのアイアンは鍛造ではなく鋳造なので、2つの現象は少し混乱を招くことになる。
結局、大切なことは、PINGがこの課題を解決するためにどんな施策を施したのかということ。
答えは、ダブルレイヤーのハイドロパール・ステルス加工にある。第一層は、スタンダードなクロームメッキ。
その外側に薄いブラックPVDコーティングと水を弾く疎水性に優れた素材を採用し、濡れたコンディションでも優れたパフォーマンスを実現する。
2層構造は、1層よりも耐久性が増すはずだがPVDを選んだことがやや気になる。ダークカラーは、大きなものをやや小さく見せる効果があるが、これはG710のような大型アイアンにとってはありがたいことだ。
しかしながら、PVD(物理蒸着法)は、よくある白い下着と同じ。短い間での使用を目的にしており、長持ちするとは思われていない。そして、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)のような他のブラック仕上げは、耐久性こそあるが非常に高価。
一般的にブラック仕上げのクラブを購入するゴルファーは、できるだけそのクラブが黒いままでいて欲しいと思っている。
つまり、どんなダークのフィニッシュも経年で傷が目立ってくるので、PVDは無難な選択という程度なのだ。
今回、PINGでは、今回の仕上げについて「摩耗」検査を実施しテストを強化している。PINGは、高出力リーフブロワー(落ち葉掃除機)を使ってヘッドカバーの耐久性検査したような会社だ。
従って、私としては、PINGが今回の仕上げは注目に値する改善と言うなら、それを信じたいと思う。そしていつも通り、それが正しいかは時が教えてくれるだろう。
フィーリング
何でも大抵はそうなのだが、初回版がその次のバージョンよりも良いと言うことはない。
G700アイアンは、PINGにとって初となる完全中空ボディのアイアンセット。飛距離優先モデルとして、PINGの得意分野からはちょっと外れていた。
中空アイアンの悲しい現実は、フォームやグルーのようなものがなく、音が薄っぺらくて高いことにある。空き缶の中で、石がカラカラと転がっているような感じと言えば良いだろうか。
そこでPINGのエンジニアは、モード解析を使い設計上でどの部分が不快な振動の要因となっているのかを把握するようにした。簡単に説明するとこうだ。
振動によりある周波数が発生し、それがフィーリングのもととなる。つまり、打球音はフィーリングとイコールということ。
ゴルファーにとってのクラブのフィーリングを変えるには、インパクト時の打球音を変える必要があるわけだ。
ゴルファーが「ソリッド」や「吸い付くよう」と表現するアイアンを周波数のチャートで表すと、その周波数の範囲は非常に狭いかもしれない。
言い換えれば、ほとんどの周波は細かくグループ化されている。問題なのは周波数に急な山がある時。それぞれの山は音符のようなもので、適正に並んでいないと、とても耳障りな音となるのだ。
GILOO
PINGでは、その問題を特定すると、ボールスピードを落とすことなく振動を抑える方法を見つけなければならなかった。そして、多くある採用可能な素材を検討した結果、「giloo」に行き着いた。
※(ホットメルトポートの注入材をジェルなどではなく、PINGでは通称「giloo」と呼んでいるようだ。)
「giloo」は、綴りを間違えたわけじゃない。これは一般的な「ホットメルト」のPINGによる日常的な表現方法だ。PINGでは、この「ホットメルト」を振動が生まれる範囲を抑えるために各番手の特定の場所に注入した。
これ以上難しい話は本当になくて、繰り返すがPINGではこれを徹底的にテストし最善策であると判断したのだ。
PINGは、ホットメルトが約76度で軟化することがあるため、G710をゴルファーが直面しそうな中で最も極端な条件、つまり窓のスモークがなくインテリアが暗めの黒い車の中に放置した。しかも夏のアリゾナだ。
とはいえ、PINGが記録した最高温度は約60度で、しかもそれはダッシュボードでの温度となっており、あえて言う必要もないだろうがゴルフクラブを置くようなところでもない。
しかしトランクだったらクラブを入れておく可能性は高く、一般的にトランクでは約48度を大きく越えることはないという結果も出ている。
性能など
今回のG710アイアンも、17-4ステンレススチールボディとマレージングスチールフェースのプラズマ溶接を採用。
バリアブルフェースシックネスデザインは、PING代表のジョン・K・ソルハイム氏によると「より大きな飛距離と高弾道を実現させるボールスピードを向上させる」という。
さらに重要なことは、このフェース構造は「この手のアイアンでは非常に珍しく」、飛距離の一貫性も実現しているようだ。今回のアイアンでは、ヒールとトゥのタングステンウェイトを微調整しG700と比べMOIが5%アップしている。
我々のテストでは、ストロークス・ゲインドの数値で上位のアイアンが一番飛ぶというわけではないという結果が出続けている。
決まったショット数における弾道測定器の結果が良いと大型量販店では売上を伸ばせるかもしれないが、これはゴルファーが上達しにくい要因の一つにもなっている。
飛距離アップはアイアンのパフォーマンス向上につながるかもしれないが、同時に正確性も損なわないようにしないといけない。また、G710はPINGで初となるArccos Caddieスマートグリップ装着アイアンとなっており、Arccos Caddieアプリを無料で利用できる。
知らない人のために伝えておくと、Arccosは本格的なショットトラッキングとパフォーマンスマネージメントのプラットフォームのこと。
またメーカー視点で言えば、Arccosは現場の実用的なデータを届けてくれるという側面もある。プレーヤーがArccosのついたPINGのクラブを使うたびに、その情報が拡張しているデータベースに蓄積。
PINGではその情報を利用し、リアルな状況でクラブがどんなパフォーマンスを発揮するのかをより理解できるというわけだ。
標準シャフトは、G700に装着されていたPING AWT 2.0(スチール)とAlta CB Red(カーボン)が継続されているが、これに追加料金なしでAlta Distance Black 40カーボンシャフトも装着可能。
三菱ケミカルと共同設計したこのシャフトは、軽量43gでPINGフィッティングの中では打ち出しが一番高いスペックとなっている。G700はPINGにとって大きな進歩を見せたアイアンだが、学校の成績で言えば中の上という感じだった。
今回のG710アイアンはどんな評価を受けるだろうか?
メーカー希望小売価格はスチールシャフトが1本175ドルでカーボンシャフトは1本190ドルとなっている。
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