1月で、前作からもう2年たつ。待ちに待ったSM8の登場だ。
ボーケイのマーケティング ディレクター ジェレミー・ストーン氏によると、この2年間はボーケイブランドにとって記録的なこと尽くめだったという。
小売市場では引き続きナンバーワンであり続け、2019のツアーでのウェッジ使用率は49.3%を占めた。もちろん中には契約により使用しているケースもあるが、それはどのメーカーもやっていること。
それにしてもツアー使用率50%近いウェッジとは、よっぽど信頼性が高くなければ成し遂げられることではない。
毎週ツアーで使用されているボーケイウェッジの本数こそが、ボーケイのツアーレップ、アーロン・ディル氏とボーケイブランドそのものに選手たちが厚い信頼をよせている証だ。
ナンバーワンであるという特権
ナンバーワンであるということがボーケイに土俵を選ぶ自由を与える。
市場での差別化のために必死になって一からやり直したり、話に尾ひれをつけたりする必要はない。
ボーケイが何もしてないと言っているわけではないが、格言にもあるように「壊れてないものを直す必要はない」のだ。
なので、今回のボーケイSM8ウェッジに、スピン性能を上げる新機軸の溝が搭載されていなくても驚くことではない。
ボーケイが常により良いものを求め、あれこれ試し続けることは間違いないが、溝に関しては現状のものでじゅうぶん無敵に近いというのがボーケイ内部にある感覚だ。
また、ソール形状の全面的な見直しもしていない。すでに、他ブランドよりもずっと多彩なバウンス角とソール形状ラインナップを用意しているわけだから。
ボーケイチームは自社のフィッティングシステムに自信を持っている。
形状の種類をこれ以上増やすことより、ウェッジのフィッティングを受けたゴルファーが、すぐさまはっきりとプレーで違いを得られるようにすることが目的だ。
プログレッシブCG
ボーケイの優先順位は他社とは異なる。ほぼ全ての競合メーカーが毎回新たなスピン関連の話を持ち出すが、ボーケイはウェッジ設計において本当に改良のしがいがある未開拓分野は別にあると考えている。
「考えるべきはスピンではなく重心位置だ」とストーン氏。ドライバーについての我々の記事を読んでいるならば、この思考過程は馴染みのあるものだろう。
この領域への探求心がボーケイの初代プログレッシブCGの設計に繋がっている。
SM6シリーズで始まったこのコンセプトはかなりシンプルだ。ロフト角が増えるにつれ、ボーケイの重心位置“スイートスポット”がフェース上部に移動する。
これはインパクトに向かう、またインパクト時のクラブの動きを操るためで、ロフト毎の最適弾道を実現すべくスイートスポットの位置を調整している。
ボーケイは、ロフトの少ないウェッジの打ち出し角は高くしつつ、ロフトの多いウェッジでは低めの弾道に多めのスピン量で、願わくばゴルファーが大好きな「ふわっと上がってキュっと止まる」球になるよう設計されている。
詳しくは後述するが、どんな設計を選択したとしてもそこには代償がつきものだ。ウェッジでは、重心位置はフェース面上を移動するものだとされている。
ロフトの多いウェッジの形を考えればわかるだろう。
トップラインはホーゼルよりも後ろにあり、特にロフトの多いウェッジに顕著だが、ウエイトが上がれば後ろに移動するのが常だ。
弾道を低くしようとすれば、矛盾する2つのエネルギー方向のバランスをとることになる。まるで自分自身と腕相撲をするようなものだ。
前へ前へ
過去のモデルでは、ボーケイはホーゼルの長さを変えることで(ロフトの多いウェッジで長く)、重心位置を上げつつも後ろに行きすぎないようにした。
SM8も考え方は同じだが、今回は重心位置を後ろにいかせないことがゴールではなかった。前に持ってくることを目指したのだ。
それがどうしたって?
ウェッジで良いショットを放った感触があるのに、ボールがフェースを滑り上がってジャンプしたように感じたことがあるだろうか。そういうときは毎回ショートしたはずだ。
ボーケイによると、これは重心位置が後ろにありすぎるせいで起こるのだという。多すぎるダイナミックロフトの犠牲者というわけだ。
ホーゼル長の調節に加え、トゥに高比重のタングステンを配することで、ボーケイはスイートスポットをフェースセンターに置いたまま、重心位置を前へ持ってくることが可能になった。
たとえば60度のモデルだと、SM8の重心位置はSM7より2mm前方に移動した。2mmという数字はドライバーでもかなりの変化だが、ウェッジなら驚異的な変化だ。
重心位置の高さは各世代で変わらない。前に持ってくるイコール低くする、ではないのだ。
重心位置を前にすると慣性モーメントが下がってしまうドライバーと違い、SM8では慣性モーメントが7%アップした。つまりインパクト時にスクエアに戻ってきてくれるウェッジだということだ。
ボーケイによると、弾道におけるメリットのみならず、ばらつきの抑制効果も見られたという。
ソール形状の選択肢
ソール形状とバウンス角の選択肢が多いほど、ゴルファーがショートゲームで得られる恩恵も大きくなる。
この点ボーケイはすでに先を行っているので、変化はそうそう望めないと思ったほうがいい。
SM8でも6種のソール形状〜F、S、M、K、L、D〜が用意される。
すまない、Tが加わるという私の予測は空振りだった。それはWedgeWorks(カスタムデザイン)のみの仕様になる。
ただ、Dグラインドの展開については当たっていたので褒めてもらいたい。ご存じのように、DグラインドはSM7モデルで新たに加わった。
ワイドソールでありながらグリーンまわりでの多様なショットに対応する、上級者用のハイバウンスウェッジとされているが、自分のような二流のゴルファーでもちゃんと使えた。
SM7ではDグラインドはロブウェッジのロフト角のみの対応だった。
2年の間に評価を上げたことで(実際すごく良い)、ボーケイはサンドウェッジにもDグラインドを採用した。
SM7では58度と60度のみだったが、SM8では54度でも56度でもDグラインドが選択できるようになったのだ。Dグラインドのバウンス角はどのロフト角でも12度になる。
SM8でも前作と同じくロフト角/ソール形状のコンビネーションは23通り。つまり、あまり人気のなかった54.08Mと60.04Lが取り除かれ、その代わりにDが入ったということだ。
といってもローバウンス熱烈支持者はパニックになる必要はない。
超ローバウンスを求めるゴルファーはそう遠くない将来、WedgeWorksでなにか見つけられることになるだろう。
どのソール形状が自分に合うのか
とにかくフィッティングを受けて決めることだ。それが上達を手にする最も手っ取り早い方法なのだ。
もちろん正式なフィッティングの機会なんてそうそう訪れないのはわかっている。残念至極。
となると、多くのゴルファーは自分に合うウェッジを推測することになるわけだ。
よく耳にするのは、バウンス角の選択は、スイングタイプによって決めるべきなのかコースコンディションによって決めるべきなのかという議論。
一般には、スティープ(鋭角)に振るプレーヤーはハイバウンス、シャロー(ゆるやか)に振るならローバウンス寄りが良いとされている。
また、乾いていればローバウンス、湿って柔らかいコンディションならバウンスがあったほうがよいとも。
では、スティープに振るプレーヤーが乾いたコンディションでプレーするときは?
ボブ・ボーケイは「スイングは自分についてくる」と言う。つまり、迷ったらスイングに従うべきだと。
ボーケイはまた、いかなるコースコンディションにも対応できるよう、ハイバウンスのサンドウェッジに少しバウンスを落としたロブウェッジを組み合わせるなど、バウンスミックスも有効だとしている。
そのやり方ももちろん悪くはないが、適切なフィッティングに勝るものはない。
溝
先にネタばらしをしてしまったが、今回スピン性能まわりに関しては進化も改良もない。
ボーケイの面々は、ボーケイよりスピン量が適正な他社ウェッジが市場にあるとは思っていないし、なによりも、ボーケイほどスピン性能が持続するウェッジは他に存在しない。
使用後もスピン性能は出荷前と変わらない。
ボーケイのウェッジはひとつ残らず、USGAルールに適合するよう、また製作公差を遵守するよう検査されている。
溝と溝の間にあるマイクログルーブのおかげで、薄い当たりでもスピンを効かせられる。
インパクトエリアには熱処理が施され、打感を損なうことなく耐久性の向上が得られる。耐久性は非常に重要だ。
新品なら、市場にあるどんなウェッジでも適正または許容範囲のスピン性能が得られるが、使用後はどうだろうか。
溝はいつまでそのままの姿で、いつからスピン性能の低下が始まるのか。最新のマジック・グルーブなら20〜30ラウンドもつのか?それとも50ラウンド?
スピン性能には、スピン性能そのものとスピンの持続性という二つの意味がある。ボーケイはいずれにおいても他を凌駕していると信じている。
ノーメッキウェッジのほうがスピンが効くのか?
ノーメッキウェッジは錆びると何故かスピン量が増すという都市伝説信者に向けては、ボーケイは仕上げに応じて溝のカット法を変えているということを指摘しておくべきだろう。
ウェッジに仕上げの層を加えることで、エッジの半径と溝の深さは変化する。ボーケイウェッジの完成品は仕様書と完全に合致するよう設計されている。
したがって、競合他社のいくつかの製品と違い、ボーケイのノーメッキウェッジは仕上げ加工されているウェッジと寸分違わぬスピン性能を有する。
ボーケイ以外のケースでも、ノーメッキだからスピン量が増すのではなく、仕上げ素材が溝の仕様にそぐわない場合にスピン量が落ちることがあるというだけだ。
わざわざこのように設計上の細かい説明をしたのは、ボーケイのウェッジはどの仕上げを選んでも性能に全く変わりはないと理解しておくべきだからだ。
モイスチャー マネジメントについてはどうなのか?
我々のウェッジテストの結果とボーケイの競合他社各社から提供されたデータによると、ボーケイのウェッジは濡れている状況においてスピン量が激減するという。
我々がテストをした環境下において、撥水加工仕上げは水分を取り除く他のどの仕様よりも効果が見られた。同じ環境下でボーケイのウェッジは平均点に留まった。
ウェッジ設計の世界では、モイスチャー マネジメントは話のとっかかりに過ぎない。とりあえず、ボーケイは検討箱に入れておけばいい。
ストーン氏曰く、ボーケイ内のテストにおいては、ゴルファーのショットのばらつき以上に、水分がスピン量を減らすという統計的に信じるに足るデータは得られない。
プレーヤーのタイプやコンタクト精度など他の要因も当然スピン量の安定性には大きな影響を与える。
ストーン氏いわく、これまでのデータはせいぜいぬかるみくらいの状態で得られたものだが、ウェッジをより良くするためボーケイはあらゆることを試すつもりだという。
モイスチャー マネジメントについてはボーケイも引き続き研究していくものだろう。しばしの辛抱だ。
アップデートされたコスメ
SM8は近年のボーケイウェッジのラインナップの中で最も徹底的にコスメを変えてきたモデルだ。
「デザインで目指したのは」とストーン氏。「ボーケイの伝統を尊重しながらもモダンなウェッジを創ることだった」。
今回のデザインの一番の目玉はBVウィングの突起部だ。フロントとセンターに位置している。
WedgeWorksでの経験から、ボーケイはタイトリストのスタンプをホーゼルに配置しなおし、背部をほとんどまっさらな状態にしてカスタマイズできる場所の自由度を高めた。
ボーケイSM8はロゴやスタンプなどでオーナーが好きに“汚せる”よう、超クリーンな状態にとどめたウェッジなのだ。
ボーケイのカスタムオプションは、トゥ部の刻印が6種に、スタンプ10文字まで(ストレート)、同15文字まで(トゥまわり)、10文字 x 2行の長文も刻印可能だ。
また、ロフトやバウンス、グラインドのマークやBVロゴウィングにカスタムペイントを施すこともできる。
シャフト、グリップはもちろんソケットのセレクションも豊富に取り揃えている。
仕上げ加工オプション
過去のモデルと同じく、小売店では3通りの仕上げから選べる。それぞれ、全ロフト、全ソール形状、右利き左利き両方で選択可能。
ジェットブラック
SM7からそのまま継続したジェットブラック・フィニッシュ。
「速球が投げられるなら投げるしかないだろう」とストーン氏。全盛期のペドロ・マルチネス2000年頃の速球に匹敵する自信作らしい。
ツアークローム
ツアークロームは前作のそれより少し柔らかい印象だ。シルキーと表現されている。実際、自分はクロームに対していい印象を持っていないのだが、これは例外だといえる。
光沢は最小限に抑えられている。伝統的な見た目にちょっとひと工夫が好きな人にはお薦めだ。
ブラッシュドスチール
ブラッシュドスチールも前作から改善されている。個人的な見解ではSM7モデルは少し赤銅色の色あいだった。SM8はブラッシュ加工もはっきり見え、色は少し暗めで少しニュートラルな印象だ。
ノーメッキオプション(錆びてもスピン量は増えない)はカスタムオプションとして3月6日より入手可能。
価格と発売時期
ボーケイSM8ウェッジの小売価格は各159ドル。ゴルフショップとVOKEY.COMでのプレオーダーは2月11日より、小売店では3月6日より販売開始。
Leave a Comment