本間ゴルフは、2019年1月にジャスティン・ローズとの複数年に及ぶ用品契約合意を発表したが、その一ヶ月前には、ゴルフ業界内でその契約自体がバレバレだった。
そして、そこから一年ほどが経ち、ほぼ同じ状況になっている。金曜(5月22日)の発表は、約二ヶ月半前に想定していたことが正式になったということ。ローズと本間ゴルフの関係は、テイラー・スウィフトの歌詞を借りるなら「絶対に絶対にヨリを戻したりしない」ということだ。
コトの真相は?
密室。ロープの内側。氷山の一角。今回の件について、言い方はいくらでもある。
多くの詳細は「分からないことは分からない」わけだが、傷口は時間をかけて大きくなっていたと考える方が妥当だろう。
ローズほどのプレーヤーと複数年契約するなんて、一晩にして起こることではないが、同様に、そのような関係を解消することも、些細なことや、選手とメーカー間にある日常茶飯事のイライラ程度では起きたりしない。
そんな状況では当然だが、“答え”よりも“疑問”の方が多くなる。周りはいろいろと憶測してそれに理屈をつけるが、結局、何がなぜ起きたのかを実際に知ることができるのは、ほんの一握りだけ。そのうち、断片的に表に出ることもあるだろう。
今回の発表は、分かり切っていることを認めるための形式的なものに過ぎない。ローズがもはや本間ゴルフをベストと思えなくなったのか、あるいはその逆なのか。そんなことは別にどうでも良いのだ。
ローズと本間ゴルフの発表からは、ほぼ何も推測することはできない。コメントは「さようなら」という典型的なテンプレ。ほぼ意味のない、良く練られたありきたりの言葉の羅列だ。
並んでいるのは「ジャスティンは、本間ゴルフのブランドアンバサダーの一人ではなくなった」や「本間のチームと共に取り組み素晴らしいゴルフクラブを開発するために密接にコラボできて楽しかった」という言葉。両者の文面に大きな意味をなすものはない。
予想通りといえばその通りだが、この件で両者のいずれから得られる公式コメントはこれっきりだろう。とはいえ、状況を理解するため、この数ヶ月で起きた大切な事柄を思い出してみたいと思う。
本間のTR20ドライバーが「スタメン落ち」
微妙な関係が最初に明らかになったのは、3月のザ・ホンダ・クラシックだ。ローズ は本間ゴルフの新TR20ドライバーを見捨て、テーラーメイドのSIMシリーズを採用した。
滅多にないことと言えばそうだが、想定外というわけでもないだろう。
ローズが本間ゴルフと契約するまで、20年以上に渡ってテーラーメイドのツアースタッフの一員だった。だからこそ、シーズンの大半が始まる前に、最適なクラブを見つけるためにセッティングをあれこれいじっていたのだろう。
ローズの契約は本間のクラブ10本を使用することが求められるもので、つまり残り4本は好き勝手に試せるものだったのだ。
とは言え、契約先のドライバーをセッティングから外すことは難しい。特にローズが本間のドライバーだとボールスピードが1.8m/sから2.2m/sほどアップすると語っていたことを考えると尚更だ。おそらく関係が良好だったのか、典型的な過大評価だったのか。本心なんて言うわけないでしょ?
そして、ザ・ホンダ・クラシックに続くアーノルド・パーマー招待の水曜に行われたプロアマに姿を見せたローズのバッグの中には、テーラーメイドのアイアンにテーラーメイドとコブラのウッド、そしてテーラーメイド、タイトリスト、ウィルソンのウェッジがテストのために入っていた。
そこに本間のクラブは一本もなし。
前の週が種火なら、これはもはや火に油を注いだようなものだ。
そして、ローズが初日のティーオフのため7:54amに10番ティーに来た時も、本間のクラブは一本もなし。これで全てが終わった。
この動きは、多くの人にとって不意打ちだったようだ。前置きはなく、本間ゴルフの幹部は「弊社とジャスティン、そして大会のことを配慮し、月曜までコメントは差し控えます」と言う以外なかった。
そして、その月曜日はなんの発表もなし。代わりに世界的なパンデミックが起き、ローズは予選落ちし、その他のPGAツアー関連ニュースのように、この話題も一時的にフェードアウトした。
普通とは異なる関係
プレーヤーとメーカーの契約解除は、このように注目を集めることなどあまりないが、今回は通常のスタッフアンバサダーが置かれた状況とは大きく異なっていた。
PGAツアーにおける本間ゴルフの露出はジャスティン・ローズが全てであり、ローズなくして、本間ゴルフに次なる手など全くなかったのだ。
本間の北米での認知拡大において、戦略上、PGAの大物ゴルファーを獲得することは非常に重要だった。
今にして思えば、資金は分散投資しておいた方がよかったのかも知れないが、ローズと契約したことで、競合が多い競争市場においてそれなりの信頼は得たと言えるだろう。
とはいえ、ローズは世界に通用する単なるスターではない。世界ランク2位にもなったゴルファーで、フェデックスカップでトップに立ち、オリンピックで金メダルも獲得したほどの選手だ。
新クラブを手にして、2019年もその地位を保てるということは想像がつきにくかったろう。
しかしローズは1月下旬のファーマーズ・インシュランス・オープンでPGAツアー10勝目を獲得。ローズが使用クラブを大幅変更した後に、かつての調子を取り戻すことに苦労するなど考えてもなかったとはいえ、幸先良いスタートを切れるとも思えなかったのだ。
昨シーズンのローズは、ストローク・ゲインド/ラウンドで13位となり約430万ドルを獲得。世界ランクは8位で終えた。
いずれにしても契約後の初シーズンとしては上出来。本間ゴルフのTR20シリーズは2020年初頭にリリースされる予定だったので、全てが順調に進んでいるように見えた。「非常に厳しい条件のもとでテストしてきたので製品に対しての信頼感も増している」とローズも断言するほどだったのだ。
想定外
残念ながらローズの2020年代のスタートは素晴らしいとは言えないものとなっている。というか相当悪い。
新型コロナウイルス感染拡大による中断前の5大会で3回予選落ちし、その他は56位タイとアジアンツアーのシンガポール・オープンで2位の成績。何がいけないのか?
答えは不明だがゴルフは難しい。選手はロボットではない。とにかくゴルフは本当に難しいのだ。
では用具のせいか?それはあり得ないだろう。繰り返すが、ローズは本間ゴルフの自身のモデルに直接関わっていたし、それどころか「結局のところ、ブレードはブレードであり、一番大切なのは見た目だ」とまで言い切っていたのだ。
そして、ドライバーは初速アップを実現しており、ローズによれば「寛容性が非常にアップしており驚くほど安定している。そういった点で間違いなく進歩していると言える」とのこと。マッスルバックのアイアンは明らかにコスメに課題があったが、ウェッジに関しては…
「バウンス角が大きいロフト角56度を使っており、ファーマーズでもラフから随分と多用したよ。バンカーからでも、60度より使えるし、実際のところお気に入りになった。とても打つのが楽しいね」
ローズのこうした発言で恐らく一番厄介なことは、ローズが3月上旬にSIMにスイッチする数週間前に掲載されたジョナサン・ウォール氏(Golf.com)が執筆した記事に上記の事が書かれていたということ。
最後に
選手の言葉を真に受けることは悪いことではないし、ローズの場合でもそうすべきでない、などという理由はない。
ローズは子供ではないし、カメラアングルに難癖をつけたり何らかの通告書を送るようなタイプでもない。とはいえ、今回のタイミングは非常に奇妙だ。
PGAツアーのスケジュールがより過密になったことで、ジョージア州オーガスタで行われるマスターズ1ヵ月前に必要に迫られてクラブの大幅変更を考えるプロもいるだろう。と思いきや、あるプロが必要だと考えていることを自滅と感じるプロもいるはずだ。
また、私たちは客観的な情報に基づいて動くが、関係者全員は冷静に振舞うはず。でも、これが、契約や感情、お金、そしてエゴが交渉で絡むとそうとも限らない。
ではこのことから何が分かるのだろう?結局のところ、確実なのはこれだ。
ローズと本間ゴルフの関係に終止符が打たれた。
名工は道具のせいにしない。
でしょ?
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