「初めの4つのパターには、20年の歳月をかけた」- ゲーリン・ライフ氏

一夜にして成功するなんてことは、せいぜい見当違いなのだ。実際、無名の存在からマーケットを動かすほどの存在に飛躍するということは、何かしらの大きなターニングポイントがあり、恩恵を受けることになる明確な目標に対して、とてつもない時間を費やして専念した結果なのである。

今回の場合、それはパターの話、特にイーブンロールパターとその仕掛け人であるゲーリン・ライフ氏の話だ。

2017年、我々は、広告代理店のアートディレクターを経てゴルフにおいて最も高く評価されるクリエイティブな思想家でありパターデザイナーの一人となったライフ氏のストーリーを辿った。

その時、ライフ氏が独自の『スイートフェース・テクノロジー』について何か取り組んでいたということは知っていた。

一方で、そのテクノロジーがブランドを支えることになるかどうかは良くわからなかった。


時代はイーブンロール

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6年前、ゴルファーはイーブンロールの登場により、パターが全てのパットのスピードと方向の両方に影響を与えられる限界について考えさせられることになった。

言い換えると、イーブンロールの「フェーステクノロジー」なら、ミスヒットしても、フェースのセンターで当てた時と同じ距離を転がり、そして同じところで止まるということ。

前述した一文をもう一度読んでみると良いだろう。これは他のブランドにはない言葉だ。

だから、イーブンロールのキャッチフレーズは「イーブンロールのように転がるものはない」なのだ。

これはミズノの「ミズノのようなフィーリングはない」の謳い文句だったり、私が個人的に大好きな「ピザハット以上のピザはない」と似たものでもある。

つまり、どんな市場でも、独自の財産を持ちそれを利用することは重要で、控えめに言ってメチャクチャ難しいということだ。

イーブンロールが発売されて間もなく、他メーカーはライフ氏の特許であるグルーブ(溝)に対する取り組みを模倣し始めた。これは有効な手段ではあったが、デザインがそっくりなものがいくつかあったため、現在の市場では目にすることがなくなっているというわけだ。

法的手続きはともかく、イーブンロールの売れ行きは好調だった。しかし、パンデミックの恩恵を受けることなく、他社よりもサプライチェーンの影響を受けた。

結果として、ライフ氏はベンダー数社をテコ入れし、いくつかの工程も変更。今では2020年よりもブランドは良い状態にあると考えている。そして他の企業と同じように、ライフ氏は特定の在庫を意図的に買い占め、"欲しがる人の数と同じだけパターを売ることができる "ようにした。


目指すはスコッティ キャメロン

パターの世界において、スコッティ キャメロンは巨人だ。オデッセイといえば「全ツアーNo.1パター」だが、スコッティ キャメロンは、今でも「他社のミルドパターと比べられるNo.1ブランド」であることに変わりはない。

私はここで、イーブンロールがキャメロンを追い越すとか、キャメロンの市場シェアのかなりを奪うなどと言ってはいない。キャメロンについて言及したのは、イーブンロールと大きなメーカーとの主な違いを説明したいからだ。

キャメロンはスケールメリットの恩恵を享受している。キャメロン帝国は、複数の機械工場と少数のCADエンジニアを抱え、標準的な生産スケジュールを維持しながらも、プロトタイプや実験的なデザイン、そして複数のデザインサイクルを同時進行で実現し、価格面でメリットを出している。


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逆にイーブンロールにとっては、「どちらか一方」なのだ。ライフ氏と彼のチームは、小売用のモデルを生産するためにリソースを使うか、プロトタイプやスペシャルなプロジェクトにリソースを使うかのどちらかというわけ。

とはいえ、機能的に考えても、イーブンロールが小ロットで限定品市場に真っ向から斬り込むということはないだろう。また、一度きりのオーダーメイドデザインサービスでツアープロたちに答えるというわけでもない。

もしあるとすれば、新しいデザインを市場に出すのに数年かかるかもしれないということだ。これは、ゴルファーにとっては有益であるとも言えるし(優れたパターを作るのに、本当に1年で十分なのだろうかと思っている)、毎年の更新の機会を期待する消費者にとってはフラストレーションがたまるとも言えなくもない。





変化するイーブンロール

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「洗練し進化する」。これはイーブンロールが会社を“中規模”レベルに持っていくためのライフ氏の考え方だ。具体的な数字は分からないが、毎年10万本程度のパターを売るとこの領域に入ることになるのだろう。

洗練するには、ブランドの顔となる製品を明確に認識することが必要だ。イーブンロールの場合、そのパターが「ER2」となる。

ライフ氏は、小売における80対20の法則をすぐに理解した。つまり、売上の80%はSKUの20%の商品から生み出されるということだ。もっと言うと、これは過去6年間で我々がテストした中で最高のブレードパターということができる。ライフ氏のパターなら、イーブンロール「ER2」がそれに当てはまる。

※「SKU」はストックキーピングユニット(Stock keeping Unit)の略。在庫管理上の最小の品目数を数える単位を表している。

イーブンロールが進化するには、まとまりのある、統一された、アイデンティティに立ち返る必要がある。具体的には、グリップやヘッドカバーも含めてブラックとホワイトのカラーリングで統一することだ。

ブランドを認知してもらうためには、クリーンで見分けがつきやすい見た目も大切であり、「我々はそこから少し離れてしまった」とライフ氏も認めている。どんな大型店舗であってもパターコーナーを見ればわかる。見た目を無視してはいけないのだ。そして、個々のパターだけでなく、同じブランドのパターが15本とか20本並んだ時の視覚的なメッセージも重要だ。


改善されたデザイン戦略


もしほとんどの売上が一握りのデザインによるものなら、他のデザインはどうだろうか?これこそが、ライフが考える競合他社とのさらなる差別化のポイントだ。その目的は、他のブランドがそのデザインの可能性を十分に発揮できないでいる理由を見つけることである。

代表的なのがイーブンロール「Midlock(ミッドロック)」だ。アームロックタイプのパターは目新しくない。多くのパターブランドが、このタイプを発売している。

しかしライフ氏のパターは、既存のアームロックパターをフィッティングする上での無視し難い欠陥に対応している。彼の「アームロック・メイド・イージー(アームロックが簡単に可能に)」という発想は、既存のパターの長さに6インチをプラス。たったそれだけ。

彼は、規則に違反しない幾何学的形状の限界に挑む独自のグリップを開発することで、シャフトの傾きとフェース角・ロフト角のフィッティングの難題に対応したのだ。

そして、聞いたところによると、イーブンロールには2023年に向けて魅力的なある“仕込み”をしているとか・・・。一方で口止めもされているので、私を誘惑しないように。(アイスクリームとドクターペッパーなら、話は別だ)

その流れで行くと、ライフ氏が改良したパターデザインを何と呼べばよいだろうか?コース設計家が、ゴルフ場を元に戻して向上させることのように、イーブンロールのモデルは「ゲーリン化」なのか「ライフ化」なのか?あなたが決めれば良い。


イーブンロールはどうなっていくのか?

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「我々はパターおたくのためのブランドだ」。ライフ氏はこう断言する。言い換えると、イーブンロールは、まず、パフォーマンスを唯一の評価指標とするギアおたくと消費者の間で地位を確立したということ。

この手のゴルファーは、ブランドの名前で購入をするというより、中身を見て購入する傾向がある。そして、イーブンロールは、その独自性のせいで一般に馴染みにくいという意見もあるが、ライフ氏は自身の主義に妥協するつもりはないようだ。

そんなことは、アリス・クーパーに童話でも歌わせるようなもの。もちろん、歌えるだろうが、そうする理由はないだろ?

イーブンロールのデザインは、それぞれのデザイン要素が組み合わさったその相乗効果であり、効果を発揮するべきものだ、というのがライフ氏の意図なのだ。

基本的に、デザイナーとしてのライフ氏にとって重要な細部は、エンドユーザーにとってももちろん大切。だからこそ、イーブンロールのパターシリーズは「スイートフェース・テクノロジー」、トップラインにある2つの「ネイキッド・アライメント・ドット」、「ロッカーソール」、そして「プレシジョン・ミーリング」などが特徴となっている。

これらの機能には目的があり、最終的には審美性を欠くことなくパフォーマンス向上をサポートしているのだ。

5年前、ライフ氏は「我々のゴールは控えめで、アメリカでプレーする4サムみんなが我々のパターを使うことにある」と皮肉混じりながらキッパリと言った。

彼のその言葉には「永続的なものであるためには、より洗練されてよく考えられた手法が必要だ」という痛切な思いが込められていた。それが何を意味するのかは、まだわからない。

ところで、イーブンロールにアップデートしてほしいパターは何かある?