「錆びるとウェッジのスピン量が増える」。これは、ゴルフ業界で最も知られている“都市伝説”の一つだ。
それが理由で、“ロウ” (ノンメッキ)ウェッジを購人するゴルファーが数多くいたり、さらにはウェッジのメッキを剥がす人までいる。
一応、理屈はわかる。錆びると質感がでるし、質感が摩擦を生み、その摩擦がスピンに繋がる。
それに、ツアープロの多くがロウウェッジを使っているという事実もある。その良さをいちばん知っているのは彼らだろうから。
だがらアベレージゴルファーが、ツアーでロウウェッジが人気なのは「スピン」が理由だと信じたって、おかしな話じゃない。
だが、もしあなたがこの“都市伝説”を信じ、自分のウェッジも錆びたらスピンがもっとかかるようになると思っているとしたら、それはほぼ間違いだ。
そうなれば良いとは思うけど、現実は違うのさ。
錆びたウェッジは要注意
「錆びたウェッジ」については何度も取り上げてきたが、そのたびに我々は批判を受けてきた。もちろん皆さんの中には「錆び」が好きなゴルファーがいるってことも知っている。
だから今回は、我々の言葉で伝えるのではなく、キャロウェイ、クリーブランド、スリクソン、コブラ、ミズノ、ピン、PXG、そしてボーケイというウェッジを製造するメーカー8社に連絡し、「錆によるスピン特性の向上」について話を聞くことにした。
また、その他関係する情報も教えてもらうことになったが、まずはシンプルなこの質問からぶつけてみた。
「錆びるとスピンは増えるの?」
で、ホントのところはどうなの?
全メーカー、つまり8社中8社の答えが「NO」だった。
つまり「錆び」で「スピン量」は増えないってこと。それについて全メーカーともテストをしているし、みんなそんなこと戯言だって知っているわけだ。
以前、「少なくとも“錆び”には魔法のような“スピン向上効果”がある」と仄めかしたメーカーがこの中にいるが…。
まぁ、今回は見逃してあげるけどね。
ともかく、「錆びてもウェッジのスピン量は増えない」ってことがわかってくれたかな?
これですべて解決、理解したというなら、ここから先は読まなくても良いよ。
ノーメッキとそうではないウェッジ
もう少し深掘りしたいなら、ここで話しの中身を変えてみたほうが良いだろう。
ウェッジが“錆びて”いるからってそこまで“スピン”はかからない。これが満額回答。それよりも大切なのは、『ノーメッキのウェッジは、メッキや仕上げが施されたウェッジよりもスピンがかかるのか?』ということだろう。
では、根本的なことから始めてみよう。
“ロウ”という言葉は、単に「ノーメッキ」や「仕上げが施されていない」という意味になる。「ロウウェッジ」と言えば、それはつまりメーカーが「仕上げの工程を省いたクラブ」ということだ。
「サテンクローム」や「ツアークローム」でもなければ、「ジェットブラック」や「ブラックニッケル」でもない。「スレートブルー(最高の仕上げ)」でもないということ。ロウウェッジを買うということは、“丸裸の”仕上げのないメタルのウェッジを買うってことだ。
ところが皮肉なのは、製造にそこまで手間がかからないのに、ロウウェッジの中にはコストがかかるものがある。
おかしいでしょ(それにちょっと騙されたっぽい)。
錆びのあるウェッジの方がよりスピンは掛かるのか?
ではこれが真実だとして、基本的な疑問に違う角度から迫ってみよう。
ノーメッキ(ロウ)ウェッジは、メッキありのウェッジよりもスピンがかかるのか?
これにも業界全体での意見が一致している。明確になっているのは、「ウェッジによる」ということ。
大抵の場合、ウェッジを製造するメーカーによるってことだ。
全ての仕上げの見直し
これについては簡潔にしようと思う。「溝の特性(溝そのもの、マイクログルーブ、マイクロリブ、フェースブラスト、あるいはメーカーがウェッジのスピン性能を高めるたに採用する設計手段)」は、厳密な仕様で設計されている。
ところが「仕上げ」加工を行うと、溝の深さやエッジの半径と高さ、そして上記に挙げた「溝と溝の間の」機能の間隔など重要な設計が変わってしまうのだ。
また、「錆び」が溝の形状に(予測しにくいが)同じような影響を与えてしまう可能性があるということ。
基本的に、「仕上げ」を施すことによってウェッジのフェース設計は変わってしまう。つまり、メッキの影響を考慮して溝がデザインされていなければ、ウェッジはデザイン通りの性能を発揮することができないというわけだ。
「精密グルーブ」みたいなものは…忘れた方が良い。
この課題に別の不確定要素を加味すると、仕上げは個々に違うということ。つまり、メーカーが提供するそれぞれの仕上げごとに、溝を独自に見直す必要があるというわけだ。これにはコストがかかるため、全てのメーカーが時間と費用を掛けられるわけではない。
これはあくまでも私の意見だが、ボーケイではメッキを施したウェッジがロウウェッジと同じスピン量になるように設計しているが、今回話を聞いた他メーカーによれば、複数の仕上げを実現するために溝仕様の再設計に投資するメーカーは限られているらしい。
そう考えると、他の仕上げより優れた仕上げのウェッジもあるだろうし、ノンメッキ(ロウ)ウェッジは、仕上げを考慮してデザインされていないウェッジよりも、スピンがかかるというのが「おおよその」答えなのだろう。
ロウ(ノンメッキ)フェースウェッジの誕生
これがみなさんの求める決定的な答えでないことは認めるが、スピン性能向上の可能性は「ロウ(ノンメッキ)フェース」誕生の要因となる。
その一つして、テーラーメイドでは同社ウェッジから「クロームメッキ」をなくしたことで摩擦が劇的に増えたとのこと。結果として、スピン量が25%向上した他、より理想的な打ち出しを実現することができたという。
またロウフェースウェッジをラインナップするキャロウェイでも、同じような見解があり、ロウフェースの場合、ボールがフェースをロールアップする際の、ボールのカバーと溝のエッジの半径との食いつきが向上するというのだ。
ここでキャロウェイが言っているのは「摩擦」のことで、「摩擦」が「スピン」を生み出すというわけだ。
さらに同社テストによると、ウェッジが「湿った(濡れた)状況」では、メッキを施したウェッジよりもロウフェースの方が良いパフォーマンスを発揮したという。
例外もある
キャロウェイが言っていることは、各モデルの性能を我々独自の方法で厳格に行う『Most Wantedテスト』で目にすることと概ね合致している。テストでは、ウェッジが濡れた状態でのスピン保持率においては、常にロウウェッジが上位にランクインしているのだ。
とはいえ、「濡れた状態」で過去最高のパフォーマンスを発揮したのは、ピンの「Glide Forged Pro(グライドフォージドプロ)」で、ピン独自の「ハイドロパール2.0仕上げ」が施されたウェッジだった。
繰り返しになるが、メッキを施したウェッジのスピン量(また保持率)は、仕上げの素材の特徴に合わせた溝の特性やデザインに費やした努力の度合いによって決まる。
多くのゴルファーが、“錆びのメリット”と“メッキがないことによる潜在的メリット”を混同していることは明らか。これは、業界に蔓延している誤った都市伝説。
確かに、「仕上げの工程を飛ばす」だと聞こえが悪く、「錆びの効果」といった方がマシに思えるが、錆びがスピンを向上させるわけでないのは明らかであり、仕上げがないことでスピンはかかるのだ。
実際、錆びには何の意味があるのか?
とはいえ、「錆び」は実際どのように影響するのかと疑問に思うのはごもっともだ。
ボーケイのチームによれば、原子レベルにおいて錆は表面の粗さにほぼ影響しないようだ。「ほぼ」はゼロというわけではないので、錆びがスピンに全く無関係というわけではなさそうだ。
一方、コブラとクリーブランドでは、錆びは一定期間、ショットによってスピン量を向上させる可能性があるものの、安定はしていないとしている。
重要なのは最後の部分だ。
錆びは、溝の機能とは違い“精密な技術”などと全く言えるものではなく、メリットがあってもそれはわずかでしかない。想定もできず(ゴルフにおいて不安定なことはよろしくない)、(あるとしても)短期間のメリットにしか過ぎないのだ。
さらにテーラーメイドは、錆びには蓄積するとスピン性能が低下する要素があるとまで指摘している。
お伝えしたように、錆びはメッキのような働きをするので、予測もできないが蓄積されると溝の形状を変えてしまう。
だからこそ、スピンへの影響という点では、(ほぼどのウェッジにも見られる溝と溝の間の機能など)デザインされたフェース表面の特性の方が、錆びより桁違いに大きいということを理解することが大切。
こうした特性の方が、錆びよりも圧倒的にスピン量が多いので、錆びをフェースやその周りに溜めるよりも、こうした機能をきれいに保っておく方がはるかに良いのだ。
ちょっと余談になるかも知れないが、ピンでは、正しいバウンス角を選べるようにフィッティングするだけで、ハーフショットやスリークォーターショットでも2,000rpmもスピン量が増えるとしている。芝の抜けは大切ってことだろう。
錆びさせるよりも、適切なフィッティングを受けた方がウェッジのスピン量は向上するが、今回は錆びに焦点を当てているので、クリーブランドゴルフからの「錆びは長い目で見るとスピンを低下させる」という言葉を伝えておこう。
つまり、酸化鉄は友達じゃないよってこと。
錆びは時間が経つと、ウェッジに良い影響を与えるどころか悪い影響を与えること必至なのだ。
ほかに頭に入れておきたいこと
ここでは、その他の大切なことを伝えたい。仕上げは溝を保護する役割があるため、的確にメッキや仕上げが施されていないとスピンに悪影響を及ぼす場合がある。
メッキが足りないことでロウウェッジの摩耗は早くなり、つまりは仕上げを施したウェッジよりもスピン性能の劣化が進んでしまうというわけだ。
もしあなたがツアープロで、お金の心配なくウェッジを交換することができるなら、スピン量を軽減させてしまう錆びが溜まったり、溝の摩耗が早くなっても気にすることはないだろう。
ツアーバンにいる担当が新しいウェッジを作ってくれるし、好きなようにカスタムの刻印も入れてくれるのだから。
でも、ウェッジの交換時期なのに交換しないアベレージゴルファーの場合、スピンが急激に減る前の束の間の激スピンの可能性など価値はないはずだ。
つまり、毎年のようにウェッジを変えるつもりがないなら、ロウ(ノンメッキ)ウェッジは持たない方がよいだろう。
ウェッジの錆びについて最後にお言葉
最後に、ミズノのクリス・ボシャール氏のこの言葉を紹介する。「錆びないように設計されているウェッジの錆びこそ、ゴルファーが陥る可能性がある最大の罠だ」。
錆びは溝が劣化している兆候。だから、そんな時はウェッジを変えないといけないのだ。
Leave a Comment