新しいテーラーメイド「Qi」を見ると、明確な疑問が浮かんでくる。
テーラーメイドの新作ドライバーが「Qi10」なら、どうして新しい初・中級者向けアイアンも「Qi10」ではないのか？
これについては後程お伝えするとして、まず伝えたいのは、もしあなたがこれまでテーラーメイドのクラブに興味がないゴルファーでも、他社製品を長年愛用し続けるゴルファーだったとしても、その気持ちがグラついてしまうかも知れないということ。
そして、その長年の信念をグラつかせることこそ、2024年のアイアンリリースのテーマかもしれない。何年にも渡り、「飛距離」と「寛容性」を初・中級者向けアイアンの話題としてきた各メーカーが、今はその手綱をほんの少しだけ緩めているように思える。彼らは今でも「飛距離」を大切にしているが、ユーザーへのメッセージ性を「正確性」に移行してきている。
そして、この2つを既に兼ね備えているのが、テーラーメイドだ。ネット上のアンチからテーラーメイドは、「飛距離」だけと思われがちだが、実のところは「飛距離」だけでなく、「正確性」の主導権をも握っている。前作の「ステルスシリーズ」がまさにそうだった。
では、今回の新しい「Qi」アイアンのスローガンとはいったいなんだろうか？
それは、ドライバーだけでなく、アイアンに関しても「真っ直ぐな飛び」だ。
では、テーラーメイド「Qi」アイアンは、これを実現してくれるのだろうか？
テーラーメイド「Qi」アイアン：伝統を継承する
2022年のテーラーメイド「ステルス」アイアンは、前述した通り「飛距離」と「正確性」の2つを兼ね備えたモデルだった。そして我々の『初・中級者向けアイアンテスト』で、見事に初の連覇を果たしている。しかし、この結果を「Qi」アイアンが果たせるかはわからない。伝統を継承していくというのは難しい。
特にこうしたトップパフォーマンスを発揮する製品の後継モデルともなれば、前作を超えるモノを創るという、その開発にはよりプレッシャーを感じることだろう。
2023年の「アイアンテスト」においても、「ステルス」は「寛容性」（面白いことに特価の「Ram FX77」アイアンに辛勝）でトップとなり「正確性」で4位、「飛距離」では11モデル中の7位という成績だった。
もし仮にあなたがテーラーメイドだったら、この「寛容性」をキープして、「正確性」をさらに向上させつつ、他社モデルを追い抜き、そしてさらに加速する“燃料（飛び）”を注入したいと思わないだろうか。
そう、2024年のテーラーメイドアイアンにおいても、「真っ直ぐな飛び」がテーマとなるのだ。
ロングアイアンを真っ直ぐ飛ぶものとする
安定して打つことが一番難しいクラブは何か？と聞いたら、おそらく“ロングアイアン”と答えるだろう。どんなフィッターでもティーチングプロでも答えは同じ。
そして、初・中級者に良くあるミスは何か？と聞けば、おそらく彼らは“右に行ってしまうこと”と答えるだろう。
こうしたことはゴルファーの打ち方にも原因はあるが、テーラーメイドは事実上、全メーカーの初・中級者向けアイアンには“右に飛んでしまう要素がある”としている。特にロングアイアンがそうらしい。
「どうして、一番顕著なミスをさらに悪くする“右に飛ぶ要素”を組み込んでしまうのだろうか？」と疑問を投げかけているのはテーラーメイドのアイアン・プロダクト・クリエーション・ディレクターのマット・ボビー氏。「なぜミスを悪化させてしまうのか？全然理解できない」。
みなさんは、どちらかと言うと初・中級者向けアイアンは、あらゆる補正と現代のAI技術により“左に飛びやすい”と考えているはずだ。しかしテーラーメイドによると、形状と物理はそうではないらしい。
「アイアンのフェースを見て欲しい」とボビー氏。「上下という点で、ヒールよりもトゥの方が長い。インパクト時点でどちらの方が、たわむと思う？長い方だよ」。
つまり、トゥ部分の方がたわむなら、理屈では反発も大きくなる。そして、ヒールの方が上下に短ければ、たわみが小さいということで反発も小さくなる。
「この反発パターンにより、ゴルフボールにカットスピンがかかる」とボビー氏。「これが右に飛ぶ原因だ」。
だが、フェースがオープンのままアウトイン軌道で振っているようなら、そもそも右に飛ぶ原因を作りだしてしまっているため、この形状や物理の問題ではなくなる。クラブが易しいとかどうでもよい話になってしまうのだ。
まずは左に飛ばす…
もし、これが全て本当なら（そしてこれが必要十分条件なら）、どうして解決法を誰も見出せないのだろうか？
まず、初・中級者向けアイアンのフェースが、少なくとも今のようにたわむようになったのは、比較的、最近のことだ。各メーカーは、フェースの最大フレックス化を何年も探し求めてきた。そして、この“右に飛ぶ要素”は、単に意図しない結果になっているように思える。
これに対してテーラーメイドは、ヒールからトゥまでのフェースのたわみをコントロールすることで、“右に飛んでしまう要素”を、修正とはいかないまでも軽減する方法を手にしたという。同社によると、これは新しい『統合システム』の成果のようだ。
「今や我々のテクノロジーは、設計プロセス中に互いに作用できるようになった」と言うのはボビー氏。「フェーステクノロジーは、『貫通型スピードポケット』と作用する。そして、この両者はクラブヘッド内の重量配分を左右するものとなっている」。
これまでテーラーメイドは、“人工知能”や“機械学習”という言葉を使ってこなかった。しかし、こうしたテクノロジーが理解しやすいものである場合を除き、テーラーメイドのどこかにスーパーコンピュータが隠れていることは間違いない。
「フェース設計のように、何かを一つを変えると『貫通型スピードポケット』の性能も変わってくる場合がある」と説明するのはボビー氏。「するとクラブヘッド内のウエイトポジションも変える必要が出てくる」。
テーラーメイドはフェース設計が番手毎になっている。たわみを均一化するため、打つことが厄介なロングアイアンの『可変フェース厚設計』では、トゥ部分の質量が多く、ヒール部では少なくなっている。
この新フェースが新しい『貫通型スピードポケット』と組み合わさることで、リーディングエッジ下部が硬くなりロングアイアンのもう一つの課題を解決。そして、ボールが上がりやすくなっているのだ。
今度は右にステップ…
テーラーメイドは、新しい「Qi」アイアンでハンディキャップ18のゴルファーがいい感じのドローヒッターに変わるわけではないと即答している。ボールは引き続き“右に飛ぶ”だろうが、大きなミスに繋がるほど（あるいはOB）ではない。
お伝えしたように、新しいテーラーメイド「Qi」アイアンセットは番手毎にパフォーマンスが最適になるようにデザインされている。この番手別ヘッド設計は新しい「P790」アイアンから始まったことだが、これをさらに進化させるため、新しい「Qi」アイアンには「FLTD CG（フライテッドCG）デザイン」が採用されている。
「FLTD CG（フライテッドCG）デザイン」は、通常ショートアイアンになるほど重心位置が高くなり、スピンの効いたコントロールショットが可能となる。しかしテーラーメイドは、各番手独自のフェースパターンにより重心が計画的に配置されているのだ。
「我々は、ボールの飛び出しをコントロールし必要な部分のスピンを向上させている」と言うのはボビー氏。「これは番手別設計にどのようなパフォーマンスを組み込めるのかということを考慮した結果であり、これによりナイスショットがさらに増えるようにできた」。
また、新しいテーラーメイド「Qi」アイアンのヘッド体積は、気持ち大きくなっている。ブレード自体は「ステルス」よりも1mm長くなっており、大したことには聞こえないが、テーラーメイドによると1mm増えるだけで「Qi」のスイートエリアは14％増の165平方mmになるという。
理論上、「Qi」は「ステルス」よりもさらに「寛容性」が高くなるわけで、これは大きな意味がある。
『キャップバックデザイン』と『トゥラップ構造』
「ステルス」でうまく機能したこの2つの主要テクノロジーは、「Qi」アイアンにも引き継がれている。まず『キャップバックデザイン』については、「SIM2」まで遡る。
低密度のポリマーキャップで、これはある種の中空構造を作り出す。ほとんどの初・中級者向けアイアンには、何らかのバッジがクラブフェースの裏側についているが、これは装飾やブランディングのためだけにあるのではなく、音や振動を抑制するためにあるのだ。
しかし、これには代償も伴う。フェースのたわみが制限されてしまうのだ。
「バッジをフェースにつけると初速が落ちる。これは物理学だ」とボビー氏。「（『キャップバック』は）可能な限り初速を出せるフェースとできる限り大きなスイートエリアを実現してくれた」。
また『キャップバックデザイン』のポリマーはスチールに比べ8倍軽いが、クラブ設計ではこの1gが重要となるのだ。
『トゥラップ構造』も重量に関係するテクノロジー。このポリマーキャップはハイトゥ部分まで伸びており、テーラーメイドはここからスチールを最大10g削減している。この『トゥラップ構造』により重心は低くなり、これもロングアイアンの打ち出し改善に貢献している。
「Qi」アイアンは、「ステルス」のクリーンで流れるような見た目を継承している。
これは業界全体のトレンドでもあり、初・中級者向けアイアンの派手さが、万人受けする比較的シンプルでかつクリーンな見た目に移行しているように思う。また「Qi」アイアンは、過去のくすんだ艶消しのサテンではなく、洗練されたクローム仕上げになっていることも嬉しいところだ。
たとえ初・中級者向けアイアンを好みではないとしても、良い見た目になっていることは否定できないだろう。
テーラーメイド「Qi HL」：より高く、より軽い
テーラーメイドは、軽量でウィークロフト（寝ている）の別の初・中級者向けアイアン「Qi HL」を世に出すことで、別の業界トレンドも追っている。「HL」を“High Launch＝高打ち出し”の略だと思うだろう。
しかし、それは間違いだ。
「『HL』は“高くて軽い”を表している」とボビー氏。「このモデルは、ボールを上げるためにさらにサポートが必要なプレーヤーのためにデザインされている」。
具体的に言うと、テーラーメイド「Qi HL」アイアンは、ヘッド、シャフト、グリップのすべてにおいて軽量化されており、スタンダードの「Qi」よりも最大で26g軽いことが特徴だ。
そして、ロフト角は全体的に2度ウィーク（寝ている）になっている。各メーカーは、非常に多くのゴルファーが高年齢化し初速も落ちていることから、初・中級者向けアイアンにはこうした施策を施しているのだ。また、女性ゴルファー層も増えていることもある。
ゴルフはスポーツだが、一種のゲームとも言える。ゲームとしてならより楽しくあるべきだというだろう。
なぜ「Qi10」じゃないのか…
アイアンのネーミングについて、テーラーメイドによると、一つの理由のために意図的に「Qi10」ではなく、「Qi」にしたという。これは、同社が2022年の「ステルス」のリリース以降、初・中級者向けアイアンの発売サイクルを2年おきにしているからだ。
テーラーメイドは長年に渡り、キャロウェイとコブラと共に、彼らの新作メタルウッドと同じブランドで初・中級者向けアイアンを毎年リリースしてきた。
しかし過去2年のテーラーメイドの主力は「ステルス」だったが、これからは「Qi」となる。恐らく来年（2025年）のテーラーメイドドライバーは「Qi11」、そしてアイアンは「Qi」のままということが想定できるわけだ。
現実的なところでは、ボビー氏と彼のチームは、前作を超えるためのテクノロジーを開発するために1年の猶予を与えられたということ。もちろん、「Qi」が前作「ステルス」を上回っているのかも『2024年アイアンテスト』で明らかになるだろう。乞うご期待!
テーラーメイド「Qi」アイアンのスペック・価格・発売時期（日本）
◆5本セット （#6～PW）
・Diamana BLUE TM60（ディアマナブルー TM60） （S, R）¥143,000
・N.S.PRO® 910GH （S） ¥126,500
・N.S.PRO® 820GH （R） ¥126,500
◆単品 （#4, #5, AW, SW）
・Diamana BLUE TM60 （S, R）¥28,600
・N.S.PRO® 910GH （S）¥25,300
・N.S.PRO® 820GH （R）¥25,300
グリップ：TM ツアーベルベット 360 ブラック/ブルー CP（径60/47.5g）
発売：2024年2月2日予定
テーラーメイド「Qi」ウィメンズ アイアン
◆5本セット （#7～PW, SW）
・ELDIO TM40 （L, A）¥143,000
◆単品 （#6, AW）
・ELDIO TM40 （L, A）¥28,600
グリップ：TM ツアーベルベット 360 ライトブルー/グレー CP（径59/33g）
発売：2024年2月2日予定
テーラーメイド「Qi」アイアンのスペック・価格・発売時期（アメリカ）
テーラーメイド「Qi」アイアンは、7本セット（5番〜AW）で4番、SW、LWはオプションとなっている。メンズモデルは右打ち用とレフティモデルがラインナップしているが、LWは右打ち用のみだ。
スタンダードの「Qi」メンズモデルは、スチールがKBS「Max MT 85（SとR）」でカーボンだとフジクラ「Ventus Blue（7S、6R、5A）」。純正グリップは47gのラムキン「Crossline」となっている。テーラーメイド「Qi HL」はスチールがKBS「Max Lite」で、カーボンだと40gのフジクラ「Speeder NX TCS」。純正グリップは42gのゴルフプライド「Tour Velvet」だ。
両モデルともウィメンズモデルは右打ち用のみ。純正シャフトは40gのフジクラ「Speeder NX TCS」で、純正グリップは47gのラムキン「ST」となっている。
テーラーメイド「Qi」アイアンの小売価格はスチールが1,099ドルでカーボンが1,199ドル。
先行販売は本日からで、スタンダードの「Qi」アイアンの店頭発売は2月2日から、「Qi HL」アイアンは3月15日が発売日になっている。
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