「自分に何か得意なことがあれば、あなたは周りの人にそう言うだろう。もしあなたに優れていることがあれば、周りの人があなたにそう言うだろう。」
これは偉大なアメリカンフットボール選手のウォルター・ペイトン氏の言葉である。
遠藤製作所が業界のベンチマークとして認められたのは自己PRの結果ではなく、顧客によるものだ。
遠藤製作所の顧客リストにはスリクソン、ヤマハ、ミズノ、ホンマ、ブリヂストン、ツアーステージ、S-yard、ダイワ、キャロウェイ、タイトリストなど数々のブランドが名を連ねている。これらの顧客はすべて、プレミアムラインのアイアンやウェッジの鍛造を遠藤製作所に委託している。
遠藤製作所は、コストや時間を度外視し、どれだけ質の高い製品を作れるかをアピールするために、1977年にエポン(EPON)を立ち上げた。今後は北米市場に参入し、「フォージドクラブは上級者のためのクラブ」という通説を払拭しようとしている。
だが商品ラインを一新かつ拡大した彼らの挑戦は、一筋縄ではいかなさそうだ。なぜなら、アジアでの成功戦略が海外で通用するとは限らないからだ。しかも日本の市場は海外ブランドの流入ですでに飽和状態で、過去5年間で大幅な成長は見られなかった。
とはいえ、北米では既製品のクラブの価格が上昇しているため、消費者はプレミアム価格のクラブを受け入れ始めている。この進化する市場環境のもと、エポンはどこで、どのような戦略を展開するのだろうか。
エポンの歴史
遠藤製作所は1950年に遠藤栄松氏により、機械、家庭用品、車などのスチールパーツを製造する会社として創業されたが、当初の計画にはゴルフ用品は含まれていなかった。
しかし遠藤氏が日本のゴルフ用品メーカーから鍛造クラブの製造を依頼されるようになって、すべてが変わった。現在エポンゴルフのCEO兼社長として指揮を執る遠藤氏が遠藤製作所の子会社としてエポンを立ち上げるまでに、それほど時間はかからなかった。
これにより親会社である遠藤製作所は、脊椎インプラントの耐性を1/10,000ミリまで上げるなど、多方面にわたるビジネスの追求が可能となった。
彼らの技術をもってすれば、鍛造クラブの複雑な金型を作ることなど容易なことだろう。
1960年代後半から70年代にかけて、遠藤製作所は日本のゴルフメーカーにとって頼れる鍛造製作所としての地位を確立した。
やがてキャロウェイやタイトリストなどメジャーなアメリカブランドも遠藤製作所と取引するようになり、キャロウェイのMickelson Bladeや2013X-Forgedなど、代表的なアイアンセットの鍛造も依頼している。
ヘンリク・ステンソンが愛用しているキャロウェイLegacy Blackもその1つだ。直近に発表されたタイトリストのフォージドアイアンは690シリーズだが、ビリー・ホースケルとペアを組み今年ニューオーリンズで勝利をあげたスコット・ピアシーなど、今でも15年前の遠藤の680MBを愛用するツアープロもいる。
それだけではない。熱狂的ファンを生み出したブリヂストンのJ33とJ40シリーズアイアンやBシリーズアイアンとウェッジなどもすべて遠藤製作所によるフォージドクラブだ。
フォーティーンは現在は中国に委託しているものの、以前は遠藤製作所に鍛造を依頼しており、TC-606、TC777、TC-1000などをリリースした。
さらに、あまり知られていないがスリクソンの65シリーズ(ちなみに565はMyGolfSpyの「2017 Most Wanted 中級者向けアイアン」を受賞)も遠藤製作所による鍛造アイアンである。
ナイキはVRシリーズとウッドの製造を委託している。
遠藤製作所やエポンより知名度の高いミズノは、アンダーカットキャビティのフォージドアイアンを自社で製造する技術を持っていない。そのため、ミズノJPX 800 AD と JPX 825アイアンは自社工場以外で製造された数少ないフォージドアイアンとなった。
これらは、日本のどの鍛造製作所にも真似できない素晴らしい実績である。
製造を取り巻く環境
遠藤製作所が魅力的なブランドパートナーである理由は、その評判以外にも数多くある。
確かに製造コストは高いが、品質の高さについては議論の余地はない。遠藤製作所には完全一体型の自社製3Dツールと製造工程がある。
これによって、コンセプト作りから製造に至るまで、効率的なクラブ製作ができる。高度なCADモデリング技術を駆使して、スリクソン965のような比較的ベーシックなマッスルバックから、エポン705のような精巧なクラブまで、幅広いモデルの製作が可能なのだ。
最先端の鍛造技術に習い、エポンはプレミアム素材を使い、高圧プレスを使用することで、鋼片を形成するプロセスでプレス回数を減らしている。これによりエポン独自の打感を生み出す高密度構造が生まれ、未加工のヘッドと最終工程後のヘッドの重量差を5~6g以内に収めることができるという。
他社の場合は重量差が10~14gになることが多く、メーカーのスペックに合わせるために手作業で削らなくてはならない。ヘッドの重量が精密であれば、最終工程でティップウェイトやホーゼルなどから素材を削って調整する必要がなくなるのだ。
エポンの特異性
どのメーカーも予算には限度があり、利益を最大化(または赤字を最小化)したいと思っている。継続的に新製品をリリースしているメーカーでさえ、商品をさばいて利益を得たいと願っている。そのため、一定のマージンを決め、販売価格に合わせてコストを調整している。
一方エポンの目的はただ1つ。これらの制約がなければ、どんな製品が作れるかを確かめることだ。
エポンは成長しようと必死に努力を続けているが、量産による価格メリットや、大規模メーカーと販売店のフロアスペースを奪い合うことは目指していない。
彼らの戦略はもっと慎重である。徹底した高品質と、北米の消費者にアピールする外観を組み合わせることを目指している。
具体的には、オフセットが少なく、薄いトップライン、短めのブレードといった上級者向けのアイアンで、高打ち出し、低スピン、やさしさ、飛距離といった特徴を併せ持つクラブである。
この「フォージド・ディスタンス」というカテゴリーは、すぐにゴルフ業界に広まった。PXGはこれに便乗して話題を作り、今ではどの大手メーカーも、このカテゴリーのアイアンを揃えている。
遠藤製作所の場合、素材、プロセス、設計のすべてにおいて、国内の競合フォージドアイアンとの差別化を図っている。
主な欠点は「コスト」だ。それが、タイトリストやキャロウェイなどの大手メーカーが日本市場をターゲットにした高価格商品にのみ遠藤製作所を利用する理由だ。
日本の消費者は、たとえパフォーマンスが実証されていなくとも、プレミアム価格を払うのをいとわない。
ご想像の通り、エポンのアイアンは同じ施設で製造された大量生産モデルよりも高めの価格設定だ。
すべてのアイアンは完璧に設計されており、組織化された製造工程が「比類なき商品」を作り出すということを、商品名にAF(Absolute Forged)と名付けることで主張しているようだ。
これはエポンのアイコン的人物、35年のベテランであり開発部門長兼チーフデザイナーであるシュウイチ・ヤマミヤ氏によるところが大きい。多岐に渡る任務の中でも、ヤマミヤ氏は特に北米市場に向けたクラブのデザインに注力している。
余談だが、ヤマミヤ氏の部下の1人は、2017年WGCブリジストン・インビテーショナルの勝者で、世界ランク16位のプロが使うスリクソン965アイアンのグラインドと仕上げを担当している。どのプロかお分かりだろうか。
批判といえば・・・
エポンは北米市場では新参者である。2010年にAF 301/501/701アイアンをリリースしたが、控えめなスタートだった。
品質に関しては申し分なかったが、ルックスは北米の消費者にアピールするレベルには達していなかった。これこそがエポンの苦難の原因だ。
現行品と開発中の製品についてルックスを詳細に検討することで、この課題を乗り越えられるかもしれない。
アイアン
705モデルは、エポンの中で最もやさしいアイアンだ。性能は初心者向けアイアンだが、ボディの特徴は明らかに中級者向けである。
703モデルのスプリングスチールフェースを受け継ぎ、新にVFT(Variable Face Thickness)を採用することで、ミスヒット時のボールスピードを増す。505モデルと合わせて、これらのモデルの売上はアイアン全体の約2/3を見込んでいる。
505モデルは503の代替品だが、来春になってもまだ消費者の話題になっている可能性がある。少々大胆な意見かもしれないが、エポンがもっと注目されているとすれば、それは505がPXGのGEN2やピン i500アイアンのようなパフォーマンスを提供する真のフォージドアイアンだからであろう。
503モデルは2.6mmの厚さのスプリングスチールフェースで、ボールスピードは速いがインパクト時の打感が硬い感じだった。505モデルのフェースは1層フォージドアイアンの中では最も薄い2.0mmとなっており、「フォージド・ディスタンス」のカテゴリーでの新しいベンチマークになるとエポンは言う。次の「Most Wanted 中級者向けアイアン」が楽しみだ。
一方、キャビティーバックカテゴリーに入るのが303モデルだ。トップラインは302モデルより薄く、ソールはわずかに広めである。高い打ち出しが可能になったが、オフセットの増加に関しては意見が分かれるところだ。
1台の車を10年もたせるのは少々厳しいが、アイアンは永遠に使える。
エポンはAF-Tourモデルを2008年に発売し、AF-Tour MB IIをリリースしたばかりだ。
AF-Tour MB IIはブレード愛好家のための典型的なモデルだ。AF-Tourと比べてよりコンパクトで寛容性は低い。キャビティーは薄く、トゥは丸みを帯びている。往年のマッスルバックを思い出させるが、最新のCADと3D技術が生かされている。
この戦略でミズノは成功をおさめた。最近Mygolfspyで紹介した、P53というブランドの起源にもなっている。
2018年後半、エポンは903モデルの代替モデルとして905ユーティリティーアイアンを発売する予定だ。ロフト角は20度、23度、26度。18度のオプションも追加されるだろう。よりコンパクトで丸みが増した905は、エポンの上級者向けアイアンセットに馴染むのではないだろうか。
ウェッジ
エポンから2モデル(Tour及びTour Spin)のウェッジが48度から60度のロフト(2度刻み)で発売されている。Tourウェッジは小さめでティアドロップ型だが、Tour Spinは大きめでよりやさしく、Tourウェッジより1,000RPMスピン量が多い。
Tour Spinのフェースはトップからボトムにかけて1mm細くなっているが、これはCG(重心位置)を上げ、打ち出し及びスピンのコントロール性を増すためである。エポンは近い将来、ヤマハシ氏による仕上げのカスタムヘッドを提供する予定だが、当初の発売は日本国内のみになるだろう。
ウッド
フェアウェイウッドやユーティリティーは、日本のメーカーでは脇役だ。ドライバーの副産物としての位置づけで、パフォーマンスを実証することはほとんどない。
しかし、エポンは妥協しない。彼らは他メーカーよりも高品質な素材を使い、CT値(ボール初速に直接影響する値)を厳しく管理するためにコストをかけることをいとわない。その結果、USGAの規制値に限りなく近いヘッドができあがる。
エポンは2種類のフェアウェイウッドを発売する予定だ。スピン量の多いゴルファー向けのディープフェースで低い打ち出しが特徴のAF-205と、シャローフェースでよりやさしいモデルだ。
905ハイブリッド(ユーティリティー)は、よりコンパクトで操作性が増した。ロフト角は、18、21、24、27度。
AF-105ドライバーのフェースには2種類のチタン(ハイブリッド・フェース・テクノロジー)が使われており、より操作性の高いディープフェースになっている。KS120チタンでフェース周辺を強化する一方、ヒッティングエリアの大部分は航空産業レベルのT9 チタンで構成されている。
このテクノロジーのメリットは、打ち出し条件(ボール初速、打ち出し角、スピン量)の最適化や、ミスヒット時の打感を維持することだ。
155iドライバーは、数少ない調節機能付きドライバーである(今のところ日本でのみ発売)。調節機能のない中弾道・中スピン量の155ドライバー(iがつかない)もある。両モデルともに、複合カーボンクラウンとチタンフェースを採用している。HR(High Repulsion)バージョンは、ルール不適合のためアジアマーケットのみで販売される。
155ドライバーのUSスペックは、今夏終わりごろに発表される予定だ。(ロフト角9度、フェースは2度オープン、ライ角は1度フラット)。
エポンの挑戦
エポンの方向性はシンプルで、北米の消費者が購入したいと思う商品を作ることだ。しかし、「シンプル」は「簡単」という意味ではない。
エポンと遠藤製作所は、トリクルダウンマーケティング(徐々に広まるマーケティング)の難しさを認識している。
消費者は商品の名前やラベルで判断する。設計やデザイン、品質コントロールに誰がどのように関わっているかは関係ないのだ。中には遠藤製作所が何者か知らないまま、彼らのフォージドアイアンに惚れ込んでいる人もいるかもしれない。
エポンがどのカテゴリーでも一流の製品を造っていることは間違いない。エポンの課題は、世界に135以上あるフィッターや小売店の水準を厳格に保ちながら、消費者に彼らの高品質な製品を認知させることだ。
日本メーカーが北米市場でマーケティングを行う際に重要なのは、ある種の「神秘性」を持たせることだ。
好きか嫌いかは別として、ブランドの独自性は重要だ。マーケティング部門や広告部門は、メーカーの独自性を創造するために存在する。
遠藤製作所のクライアントリストは感動的だ。スリクソンやブリヂストンなどへの貢献度は、その品質の高さを証明している。
しかし、エポンがまず取り組まなければいけないのは、「時間やコストを制限しない」という遠藤製作所の理念をこえて、エポンが他のメーカーより確実に優れている点は何か、遠藤製作所にクラブ製作を委託するメーカーにはなく、エポンでしか得られないものは何か、という問いの答えを見つけることだ。
エポンの前進
エポンは最近まで自社ブランドの宣伝に積極的ではなかった。他のパートナーとの関係を維持するためでもあったが、それよりエポンブランドを成功させる明確な戦略がなかったのだ。
その戦略は依然として考案中だが、エポンは北米市場は成長の最大のチャンスだと考えている。2018年のラインナップを変更したのがその証拠だ。
どうやらエポンは「日本のデザイン、素材、品質管理、そしてアメリカのスタイル」というメッセージを準備しているようだが、果たしてそれで十分だろうか。
日本メーカーは、日本の職人技、伝統、非の打ちどころのないデザイン、プレミアム素材、厳しい製造条件など多くの「マーケティング材料」を持っている。効果的なものもあれば、ただの自己満足も含まれているが、いずれにしても他を大きく引き離すものではない。
プレミアムなフォージングハウス(鍛造製作所)としての遠藤製作所がこれまで築き上げてきたものは揺るぎなく、前述の日本メーカーに対する賞賛もそれに含まれる。
問題は、エポンが小規模ブランド愛好者の興味を引くブランドになれるかどうか、さらに日本メーカーを魅力的なものにしているDNAと、北米市場でマーケットシェアを獲得するために必要なことが、マッチするかどうかだ。
エポンに興味が湧いてきただろうか?
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