600万人のゴルファーが絶えずゴルフを楽む国がどこだかわかるだろうか。もし「韓国」と答えたなら正解だ。韓国はアメリカ、日本に次ぐ世界第3位のゴルフ大国である。
もちろんルールも使うクラブも世界共通だが、韓国のゴルファーにはアメリカの平均的なゴルファーとは少し違う側面があるようだ。例えば、もし私が「ハンディキャップが8.2だとゴルフ仲間に言ったら尊敬された」などと言ったら信じるだろうか。おそらく信じてはもらえないと思う。しかし韓国のゴルフ事情を詳しく知れば、私がまるでロックスターのような扱いを受ける理由がわかるだろう。
韓国ゴルフのルーツ
韓国に初めてゴルフが紹介されたのは1897年で、韓国の海事局と観光局に勤めていたイギリス人たちが、暇つぶしのために税関オフィスの隣接地に6ホールの仮設コースを造ったのが始まりだとされている。第二次世界大戦や朝鮮戦争を経てもゴルフは韓国に浸透せず、1980年代後半まではほとんど手の届かないスポーツであった。
ほとんどの韓国人は、ゴルフはコースを歩きながら重要なビジネスや政治の話をする裕福なエグゼクティブや、政府や軍の官僚だけが楽しむ特権だと考えていた。
韓国ゴルフの大きなターニングポイントは1998年に、当時はまだ新人だったパク・セリがいきなりUSオープンで優勝したことである。彼女は後にメジャー大会で5勝し、LPGAの殿堂入りを果たすことになる。そのころ韓国は金融危機に直面しており、IMF(国際通貨基金)の監視下にあった。彼女の勝利とウォーターハザードからの見事なショットは韓国中でテレビ放映され、英雄を必要としていた国民にインスピレーションを与えた。
現在、韓国のゴルフ人口は国の総人口5,150万人のうち5.94%の306万人と推定され、最も急速に成長するスポーツの1つだ。ゴルフ場の数は1998年末には200であったが、2017年末には450にまで増えている。
しかし、ほとんどの人はいまだに「ゴルフ場でプレーするのは時間とお金がある人」だという。このことは、ゴルファー全体の44.5%が41~50歳の男性であることからも説明がつく。
韓国のゴルフ業界
2016年の報告書によれば、韓国のゴルフ市場は100億ドルを少し下回る規模だという。詳細は下記のとおりだ。
ゴルフ用品の内訳には、アメリカの大手ブランドや日本のブランドが含まれる。ゴルフクラブの価格はアメリカより10~15%ほど高く、これは輸送費や税金によるものだ。2006年以前はゴルフや関連商品は贅沢品とみなされ、税率が高かった。
ほとんどのゴルフ用品は既製品で主にオンラインで販売されているが、ここ数年でクラブに対する意識の高いゴルファーの間で「カスタムフィッティング」という概念が浸透し始めた。今でも9割のゴルファーは既製品を購入しているが、高価な輸入クラブのフィッティングを求めるゴルファーは確実に増えている。
韓国には、最新で上質なクラブを誰よりも先に入手するコレクターがいる。彼らは自分のコレクションを自慢したいのだ。私の知り合いには、ランボルギーニが買えるほどのクラブのコレクションを壁に飾っている人がいる。それなのにまだポルシェが買えるほどの余裕があるようだ。
ゴルフクラブとアパレルのカテゴリーには興味深い事実がある。チャートによるとこのカテゴリーに36憶ドルが費やされていることが分かるが、実はアパレルが60%以上を占めている。韓国人にとって、プレーの際のファッションは重要だということだ。
スクリーンゴルフ
アメリカや日本のゴルフ市場は縮小傾向にあるが、驚くことに韓国のゴルフ人口は増加している。
欧米ではサッカーやバスケットボールと同様に、若い頃にゴルフを始めることが多い。しかしゲームやスマートフォンの普及と共に、最近の若者の興味はゴルフから遠ざかっているようだ。ところが韓国では20代、30代の間でゴルフが普及しており、40代で始める人も増えている。このように、意外な年齢層が増えているのは「スクリーンゴルフ」と呼ばれるシミュレーションゴルフの急成長によるものだ。
国内最大のスクリーンゴルフ施設である「GOLFZON」はあらゆる都市にあり、年中無休で24時間営業だ。1人あたり15~25ドルを払えば、世界中のバーチャルコースから好きなコースを選び、プライベートルームで仲間と共にコンペや練習などを楽しむことができる。
このシステムはビジュアル、スコア、オーディオもシミュレーションできる。その上スイングの分析をし、全国の数百万人のゴルファーと比べてランキング表示することもできる。また、ゴルフクラブを持って行く必要はない。料金にはクラブ、シューズ、グローブ、ボールのレンタル料がすべて含まれている。
2006年にスクリーンゴルフが登場して以来、それまでゴルフに関心はあったがプレーする機会がなかった人たちが興味を示すようになった。その後すぐに韓国国内で数百万のバーチャルラウンドがプレーされるようになった。これによりゴルフに対するハードルが下がり、クラブの購入や実際にコースに出るきっかけを作った。
現在ではスクリーンゴルフは韓国のゴルフ文化に根付いており、スポンサーと多額の賞金をかけたプロリーグがテレビで放映されている。ゴルフを学ぶのに年齢は関係なく、どんな人でも楽しめることが証明されたのだ。
練習場
実際にコースデビューする前に、まずコツを覚える必要がある。韓国ではよほど郊外に行かない限り、天然芝で練習する場所はほとんどない。そのため、スクリーンゴルフは韓国のゴルファーにとって最も一般的なゴルフスタイルだ。スクリーンに向けてボールを打つのに飽きた人は、屋外の練習場を使うこともできる。
ボール代は1時間10~15ドルで打ち放題だ。ボールはマットの穴から自動で出てくるため、腰にやさしい。欠点といえば、多くの場合練習場の距離がとても短く(50~200ヤード)、両サイドにネットが張られている。残念なことに、ここではあなたの美しい300ヤードショットの弾道を最後まで見ることはできない。
コースでの一日
韓国では実際にコースでプレーするのは一苦労だ。入念な計画を必要とする1日がかりの大仕事になる。ここ数年はゴルファーの数に対してコースの数が少なすぎるため、1か月以上前に予約する必要があった。だが現在ではスマートフォンのアプリから3~7日前に予約できるようになった。
私の経験から、ゴルフシーズンは3月上旬から11月下旬が一般的ではないかと思う。7月下旬から8月までは、温度と湿度が極端に高い日にはラウンド数が減るものの、韓国のゴルフコースは高い利益を上げている。
ほとんどのコースではフォーサム以下や、その場で他のプレーヤーを入れることを許可していないため、前もって計画することが必要だ。もしメンバーの1人が当日来られなかった場合、残りの3人ですべての費用を負担することになる。
私の住むソウルからは、ほとんどのコースが車で1時間ほど離れた場所にある。比較的近くにあるコースは、費用が高いか利用者の制限があるためプレーするのはなかなか難しい。
多くのクラブハウスは、高い天井とシャンデリアがある5つ星リゾートのような建物だ。広々としたロビーやダイニングホールには高価な彫刻や絵画が飾られ、受付のスタッフはスーツや制服を着用している。ロッカー室と入浴施設は豪華で、メンテナンスが行き届いている。ゴルフコースというよりは高級ホテルのようだ。
なぜクラブハウスが高級ホテルのようなのか、しばしば疑問に思っていた。その理由は、ゴルフは昔からステータスシンボルだからだと教えられた。しかし最近では変わってきている。猛暑日にはショートパンツの着用を許可するコースもある。少なくとも正式なジャケット着用は不要になってきている。
韓国のコースは低い山の斜面に造られている場合がほとんどだ。ホール間が離れていることが多いため、5人乗りのカートで、キャディーと共に移動する。1組につき必ず1人のキャディーがつき、ペースを保ったり、ボールをきれいにしたり、クラブを取りにいったり、時にはパターのラインを一緒に読んでくれることもある。キャディーの費用は4人で分担するのが一般的だ。カートはキャディーが運転し、グリーンへの乗り入れは許可されない。またカートは自動化されており、リモコンで操作することもできる。
平均ラウンド時間は5時間ほどだ。進みの遅いグループの後はイライラするが、順番を前後することは許されていない。コースまでの往復にかかる2時間の他にも入浴の時間も必要だ。親しい友人やビジネスの接待でプレーする場合は、近くのレストランで夕食を一緒にとることも多い。
これら全てを250ドル以下で収め、8時間以内に家に帰れれば最高だ。
これほど時間や費用がかかるにもかかわらず、韓国ではゴルフ人気が衰える兆候はない。2016年の報告によれば、ラウンド回数はのべ3,300万回以上で、今後さらに増える見込みだ。
ゴルフへの敬意
これまで述べたことは、私の個人的な経験である。私の年間ラウンド数は12~15回で、平均的なゴルファーらしい数字だ。ハンディキャップは8.2で、シングルの仲間入りをしている。90を切るのに苦労しているゴルファーにはうらやましい限りかもしれないが、それでもロックスター扱いされるのは信じられない。
なぜハンディキャップがそれほど重要なのだろうか。
韓国人は、ハンディキャップはステイタスの表れだと考える。ハンディキャップが低いということは、練習やラウンドに多くの時間を費やしたということだ。難しいゴルフを習得するにはそれしかない。つまり、それができるお金と時間がある成功者だということを意味する。
私は、ローハンデがコース以外の場所でも「成功の証」となることを知った。それは単に自慢できるというレベルの話ではない。友人の中には私が裕福な家庭の出身だと信じている人もいる。なぜ多くの人がゴルフの上達を望むのか、これらの事実がその理由を物語っている。
余談ではあるが、私は裕福でもないし、時間に余裕があるわけでもない。
私はジュニアゴルフが盛んなカナダで育った。私がその頃学んだスキルは今でも残っていて、少しの練習で感覚が戻るのだ。
その秘密を打ち明けるのは、もう少し先にしようと思う。
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