発売のタイミングに騙されてはいけない。917のリリースから2年が経とうとしているが、2年という発売サイクルに合致するとはいえ、今回のタイトリストの「TSプロジェクト」は他のドライバーとは一線を画す。TSシリーズはまったく新しいプラットフォーム、かつ完全に新しい思考の元に開発されたのだ。
タイトリストは、社内でさまざまなヘッド、グリップ、シャフト重量を実験にかけ、あらゆる形状、素材、構造を組み合わせて競わせるNCAA(全米大学男子ゴルフ選手権)のような勝ち抜き戦方式をTSプロジェクトに採用した。これまでの考え方を捨て、コンフォートゾーンから一歩踏み出し、物事を多角的にとらえ、そしてこれまでのタイトリストの伝統にとらわれない斬新な思考で開発を進めることを、今回TSプロジェクトはタイトリストに強いたのだ。
結果は、少なくとも910以来の最も重要な進歩となった。いや、これまでのタイトリストにおいて、最高の跳躍と言っても過言ではないだろう。
「TS」の由来
ジャスティン・トーマスはTSを「the shit」の略だと思っていたらしいが、実際は「Titleist Speed(タイトリスト・スピード)」の略である。モデル名が一新されたことは、タイトリストがこれまでのビジネスのやり方とはまったく違うところを目指そうとしていることを表している。モデル名が違うのは商品が違うからで、商品が違うのは、そうせざるを得なかったからだ。
TSプロジェクトの10年に渡る研究をふまえて、あらためてタイトリストファンにフォーカスし、(マーケット全体として)シンプルだがいつになく大胆な約束を一つ果たそうとしている。それは、「スピード」を緩めないことだ。
ここ数回の商品サイクルにおいては、それがいつも守られているわけではなかった。
堅実で信頼性があり、誇大宣伝はしないというタイトリストのマーケティング戦略は、プロによる影響力というヒエラルキーに頼ってきた。ツアープロを利用することでタイトリストは長年うまくやってきたが、近年はその状況が変化してきた。ゴルフサイトやネットワークがより強い影響力を持つようになり、メーカーのコントロールの効かないところで勝手に評判や噂が広まる。良くも悪くも、それがタイトリストのドライバーの性能に対する認識や評判に影響を与えるようになってしまったのだ。
これが、ここ最近のタイトリストのドライバーが「飛ばない」「スピン量が多い」というレッテルを貼られてしまった理由である。
ここまでの道のり
タイトリストの熱狂的ファンの存在や、カスタムフィッティングへの挑戦があったにもかかわらず、タイトリストのウッド類のマーケットシェアはここ数回の発売を通じて落ち込んでいる。これまでの考え抜かれた発売サイクルや製品に対する高い評価は、宣伝に長けた競合相手によって影をひそめている。
市場が「2本の柱」や「ツイストフェース」といった技術を望んでいるとき、「伝統」や「漠然とした品質コンセプト」にこだわっていると、セールスは厳しくなる。そう考えると、タイトリストは競合メーカーと比べて、商品改革の着手が確実に遅れていると言える。
一時は、タイトリストのドライバーは市場で最もやさしいクラブの一つだった。ここ数年で競合メーカーが大急ぎでやさしいドライバーを開発している間、現状に満足していたのか、求められるものを提供しているという確固たる自信があったのか、タイトリストはわが道を行っていた。「アクティブ・リコイル・チャンネル)」や「ストレートフライトCG ウェイティング」などの新技術はボールスピードを少し速くし、フィッターの選択肢を増やしたことは確かだが、ボールを激しく打つゴルファーには、タイトリストのドライバーは物足りなかった。
タイトリストに一度は群がった上級者たちも、他ブランドに乗り換えてしまった。プロの世界には、メーカーとの契約金というものが存在する。多く払えるメーカーのクラブの使用数が多いのは当然だが、驚くことにタイトリストはNCAAやUSアマチュアチャンピオンシップのような大会においても使用数が落ち込み、一時はトップだったが4位まで転落しまった。
そうなると、一般消費者の市場でも同じことが起こる。ここ最近のタイトリストのドライバーマーケットシェアは、キャロウェイ、テーラーメイド、ピン、時にはコブラの後に続く。タイトリストも認めるとおり、917の小売販売は振るわなかった。
評判と現実
タイトリスト自身も、「飛ばない」「スピン量が多い」と言われていることは理解しているが、会社はこの評価を認めてはいない。「ゴルファーにうまく合えば、917は飛ぶ」とタイトリストのメタルウッド部門長ステファニー・ラトレル氏は言う。
タイトリストの開発エンジニアであるトム・ベネット氏は、その噂はある種の扇動だと断固として主張した。
「既製品には、構造上の違いがある。クラブ同士やシャフト同士を突き合わせてテストしても、遜色はなかった。しかし、巷では我々のクラブが『飛ばない』『スピン量が多い』という噂が立っている。我々はトータルパフォーマンスでクラブを評価している。もし既製品が叩かれるとしたら、それはトータルパフォーマンスの問題ではなく、計測機が吐き出したボールスピードの違いだ。屋外でのテストでは、違う数値が出たということだ。」
ベネット氏の言葉には多くの真実が隠されている。タイトリストのいくつかの過去モデルのクラブ長は45インチだった。一方競合モデルは45.5インチで、厳密に測ると46インチある。優れたクラブでは、たった0.25インチの差でも計測データに表れるという事実から考えると、この点でもタイトリストは不利ということになる。いいドライバーショットがほんの数球出れば満足するアベレージゴルファーは、偏差や分散といった統計的数値には興味を示さない。
タイトリストがドライバーをもっと売るには、別のアプローチが必要だ。
「我々が正しいかどうかとか、優れたドライバーを造っているかどうかは関係ない。室内の計測器で十分なボールスピードが出ないなら、消費者は屋外での計測数値まで見ようとはしない。」
タイトリストは、フィッティングが必要な設計を採用しているために小売分野でも大きく負けている。会社として多くの投資をしてカスタムフィッティングの仕組みを構築してきたため残念な結果ではあるが、ゴルファーの大部分はフィッティングにはまだ興味を持っていない。多くのフィッターは45インチシャフトが賢明な選択だと考えているが、一般的な既製品の場合、競合モデルのクラブ長や飛距離を無視すると確実に失敗する。
フィッティング環境では、タイトリストが競合より先に評判を得た。それが、タイトリストの上顧客からのフィッティング依頼にも影響した。しっかりフィッティングを行えば、タイトリストのドライバーはその性能を十分に発揮するかもしれないが、それを証明するチャンスが与えられなかったことになる。
「我々はフィッティングに絶大な信頼を置いているため、フィッティングの観点から完璧なクラブを造ろうと思うのは自然の成り行きだ。消費者の購買プロセスにおいて、タイトリストのクラブは最終地点にいるということが問題なのだ。買うクラブを決める時、ゴルファーは3~4本のクラブを選んで試打するが、我々のクラブがそこに入ることはなかった。」(ジョシュ・タルジ氏)
正しいかどうかさておき、「飛ばない」「スピン量が多い」という評判は続いた。タイトリストはTSドライバーがこの噂を断ち切り、上級者やタイトリストファンを呼び戻し、さらにはタイトリストドライバーをしばらく試していなかった(あるいはこれまで一度も試したことのない)ゴルファーの心を動かすクラブだと信じている。
その計画を理解するためには、最近のタイトリストドライバーとTSシリーズの違いを明らかにする必要がある。
タイトリストTSドライバー
メーカーから発売されるどのゴルフクラブにも当てはまるが、こんな言葉がある。
「どのクラブも、改善されている部分はあるはずだ。」(ミズノ クリス・ヴォシャル氏)
「はずだ」という言葉を強調したい。決して保証はないが、TSドライバーはさらに一歩踏み出すことで、以前より改善されていてほしいと私は思っている。TSドライバーに見られる多くの改良点は、単に新しいドライバーを造ったというだけでなく、たとえフィッティングがなくても、計測機で結果が出るドライバーの開発に取り組んできたことを表している。それが、タイトリストがゴルファーを取り戻す鍵になるはずだ。
「箱を開けた瞬間に、素晴らしいクラブだとはっきり感じてもらえるような商品を提供する必要がある。もしゴルファーにフィットすれば本当に優れた商品ということになるが、それは競争の中に飛び込むことを意味するのだ。」(ジョシュ・タルジ氏)
タイトリストの研究開発チームは、打音や打感、ルックスといったタイトリストファンのが望む要素を妥協することなく、もっとボールスピードが速く、長いドライバーを造ることに挑戦した。彼らはそれをやり遂げた、というのが私の評価だ。
TS2とTS3の違いを見る前に、共通点を見ていこう。
無駄のない流線型のヘッド
タイトリストは両モデルのヘッド形状を改良し、空力抵抗については20%の改良に成功した。ただし、急激な変化や改良という意味ではない。TSと917を比較すると明らかな違いがあるが、ほとんどの人は気づかないのではないだろうか。並べてみると、TSは明らかにドーム型だ。
シンプルなものを好む人は、クラウンにタービュレーターのようなものを施さずに性能が向上することを望むだろう。タイトリストはクラウンの特性に関して十分リサーチしてテストを行ったが、試作品に満足のいく定量的なメリットがなかったので、今回はそれを採用しなかった。
タイトリストによると、ヘッドスピードが38m/sのゴルファーでさえも、さらに0.45m/s速くすることができ、ヘッドスピードがもっと速ければ、もっと伸びるという。
ヘッド形状の改良の一つとして、タイトリストはヘッド後部をほんの少し低くすることで、重心位置がかなり下がった。
460CCヘッド
過去の慣例は捨て、TS2とTS3のサイズは460ccに変更された。ただし今回注目すべき違いはヘッド形状とパフォーマンス特性であり、決してサイズではない。
TS2は「モダンシェープ」として宣伝されており、シャローフェースとディープバックが長いのが特徴だ。TS3は伝統的なディープフェースの「洋ナシ型」と表現される。
超薄チタンクラウン
D-compの復活を望むゴルファーには残念な知らせだ。ピンのように、タイトリストは完全にチタンを使い続けるだろう。クラウンの自慢は0.4mmという薄さである(0.5mmから改善)。研究開発チームは「0.1mm薄くした」ことを誇りに思っているだろうが、マーケティング部門としては「20%薄くした」と言いたいところだろう。詳しい説明は割愛するが、ここでのポイントはタイトリストがTSのクラウンを業界で最も薄いチタンクラウンと謳っていることだ。
空力学的な実験からもわかる通り、タイトリストの研究開発部門は合成素材の実験をかなり行っているが、それによるメリットを見つけられなかった。
軽量化や合成クラウンの話の中でよく見落とされるのが、数値で示された重量にはクラウンを支える部分や、各パーツを定位置に固定する接着剤の重さだ。タイトリストはこれらをすべて加味し、チタン構造によって優れたパフォーマンスと打音が得られると確信できるところまで、軽量化を進めるのだ。
ご想像通り、他の部分で軽量化を行うことになるのだが、それはヘッド全体の重量を少し軽くできるチャンスとも言える。決して、軽いドライバーが良いと言っているわけではない。フィッティングと同様、適切な重量に関しても絶対的真実は存在しない。ただしタイトリストの調査によると、最初は軽いドライバーを好むゴルファーが多いという。
「必ずしも初心者全員に軽いドライバーが合うわけではない。もしあなたが試打をしに来た人のためにクラブを提案する立場だったら、まず打感が好きというポジティブな経験をしてもらった後でフィッティングを受けてほしいと思うはずだ。」(ステファニー・ラトレル氏)
重量配分を工夫した理由の一つは、タイトリストのクラブを試打の候補に入れてもらうもらうためだ。
薄肉化によってボール初速を上げるフェース
タイトリストがTSドライバーの写真を公開する前、営業部門から上がってきたレポートには、ボールスピードは落とさない自信があると書かれていた。その理由は、フェースの薄さにあるという。
薄肉フェースにまつわる一般論から逸脱するが、タイトリストによるとフェースが非常に薄いため、従来のようにスコアラインを彫ることができず、レーザーでエッチングしなければならないという。
タイトリストは、どのカテゴリーの製品でもUSGAの規定をクリアしている。それは、アマチュアゴルファーが買うTSドライバーのヘッドは、ツアープロが使用するものと同等のパフォーマンスが得られることを意味するのだ。
さらに安定性を増すために、TSのフォージドフェースのバルジ(フェースの水平方向の湾曲)とロール(垂直方向の湾曲)はCNCミルド加工が施されている。タイトリストは、溶接や研磨の工程でもフェースを一定の位置に保つため、独自のタブ構造を用いてヘッドを設計している。
さらに特筆すべきことは、型から取り出した後、ドライバーのホーゼル部分は他のドライバーよりもほんの少し体積が大きいことだ。最終的なホーゼルの寸法はフェース、特にフェースとソールのバランスを精密に調節することに関係してくるのだが、この余剰の体積があるため、ホーゼルを機械にかける独自のプロセスが可能になる。目利きのある人には、それが安定したビジュアルを生み出すと分かるのだろう。さらに重要なのは、各部分が安定したロフト角を造り出すことに役立っていることだ。
あなたは気づかないだろうし、気にも留めないだろうが、誰がどこで購入しても、またゴルフショップの試打ブースで打っても、それらはデモカートのドライバーとまったく同じように機能する。
「我々はベストな商品を確実に提供したいと考えている。JT(ジャスティン・トーマス)やジョーダン・スピースのためだけでなく、あらゆるゴルファーのために。」(ステファニー・ラトレル氏)
重量配分の最適化
TSドライバーは、どちらかと言えばマルチ(どの状況にも対応できる)なクラブであり、ある程度ドライバーを使いこなせるゴルファーが対象になる。各TSモデルの具体的な数字に関してシェアしようと思うが、ここでのポイントは、重心位置が劇的に移動したのは、タイトリストの過去数世代のドライバーで初めてだということだ。
クラウンやフェースを軽量化(計10g)したことにより、重心位置をさらに低く深くすることにことに成功した。TSドライバーは他社も含めたドライバー中でも重心位置が最も低い(地面に対して)とタイトリストは言う。重心が低く、後方にあるということは、ご存知のとおり、ボールが高く上がるということだ。そして、もちろんスピン量も減る(917より400RPM少ない)。
タイトリストはヘッド形状、フェース、重量配分を一つのパッケージとして「スピードシャーシ(Speed Chassis)」と呼ぶ。宣伝文句ではないが、スピードシャーシによりボールスピードは速くなり、ボールは高く上がり、スピンは減り、MOIは12%も上がる。
価値ある45.5インチ
重心位置の改良は「スピン量が多い」という意見に対応するものであり、新たに採用した45.5インチシャフトは「飛ばない」という評価に対する回答だ。45インチからシャフトを長くしたことは、TSのデザインにおいて最もタイトリストっぽくない部分かもしれない。しかし、必要性に迫られてのことだろう。
ヘッドの慣性モーメントが増えるということは、ボールスピードや精度を損なうことなく、少し大きめのフェースによりスイートスポットを外してもカバーしてくれるという話をエンジニアから聞いたことがある。では、ボールスピードを速くするためにシャフトを長くしたらどうだろうか?理にかなっている。
販売が振るわなかったことについては、すでに触れた。タイトリストは計測機における戦いには敗れた。キャロウェイやテーラーメイド、ピンに比べてシャフトが短かったからだ。
「もちろんゴルファーにはフィッティングをして欲しいが、たった38%しかフィッティングを行っていないことも理解している。」(ステファニー・ラトレル氏)
商品を競合モデルに近づけるためにシャフトを長くすることで、タイトリストはさらにボールスピードを上げることができる。そして、クラブの試打ではそれが非常に重要なポイントとなる。もしあなたがフィッティングを行い、45インチが合うならそれでいいのだが、タイトリストが今回45.5インチのシャフトを取り入れたことは、今後もフィッティングをするつもりがない多くのゴルファー(実際には大多数のゴルファー)を受け入れようとしていることの表れだろう。
タイトリストは、100%価値のあるシャフトを使っている。これだけ(ヘッドとの)相性が良く、他では見られないような素晴らしいシャフトはないだろう。
これまでと同じように、シャフトのラインナップは充実している。PGAツアーでのトップ5ブランドのうち4ブランドが採用されており、ゴルファーなら一度は使ってみたいと思うようなビッグネーム揃いだ。
Kuro Kage Black(50g/55g):高打ち出し・ミドルスピンが特徴のKuro KageブラックがDiamana レッドの後継シャフトとして採用された。このシャフトに変更したのは、主にボールの散らばりが改善され安定性に優れているからだ。レディースフレックスからXフレックスまでのすべてにこのシャフトを使っていることからも、タイトリストがテストで収集したデータをどれほど信頼しているかがわかる。
Tensei AV Blue(50g/65g):Diamana Blueを引き継いだAV Blueは、打ち出しも、スピンも中程度だ。Blueは新AV(Aluminum Vapor)シリーズでは初めて。AVの特性は手元部分のトルク(ねじれ)の値が高いことだ。タイトリストはAV BlueがTSシリーズの中で一番人気になると予想している。
補足:ストレート・フライト・ウェイティング
Kuro Kage Black とAV Blueの目玉は「ストレート・フライト・ウェイティング」という新技術だ。この技術はタイトリストが開発し、MRCにライセンスを与えたため他のラインナップにも使用できる。ストレート・フライト・ウェイティングは、超軽量シャフトから右バイアスを取り除く。望ましくない弾道を無意識に修正しようとする人間の習性を取り除くために真っ暗い中でテストしたところ、タイトリストは超軽量シャフトに右に行く傾向が見られることを発見した。
手元のすぐ下にある小さなタングステンリングは、インパクト時のフェースをスクエアにするのに役立つ。非常に優れた効果があったため、三菱は他のラインナップにも使いたがったくらいだ。
HZEDUS Smoke(60g/70g): HZRDUS Smokeは、他のHZRDUSシリーズより親しみやすい中弾道・低スピンを特徴としており、それがタイトリストの契約プロにも人気がある理由だ。スイングバランスが高く、それが長いシャフトの構造を支える。80gのオプションも追加料金なしで選べる。
EvenFlow T 1100 White(65g/75g):Diamana Whiteの後継シャフト。タイトリストによると、EvenFlow T1100 Whiteはパワーヒッターとの相性がいいという。T1100は先端が強化されているため、低打ち出し・低スピンのシャフトとして分類される。85gのオプションも追加料金なしで選ぶことができる。
TSシリーズのシャフトラインナップは、前モデルと比較して平均で0.5インチ長く、5g軽くなっている。
消えた「アクティブ・リコイル・チャンネル」
ARC(Active Recoil Channel:アクティブ リコイル チャンネル)はTSフェアウェイウッドには採用されているが、メインテクノロジーにもかかわらずTSドライバーには採用されなかった。ARCのような目に見えるテクノロジーはプロモーションで有利だが、それでもタイトリストがARCを使わなかった理由は簡単、ARCがないほうが優れたクラブに仕上がるからだ。
「我々メーカーの仕事は、最も効率的な方法を探し、速いボールスピード、高いパフォーマンスを実現することである。TSドライバーでは、ARCがないほうがうまくいった。」(ジョシュ・タルジ氏)
TSドライバーの重量配分により、すでにスピン量は落ちていた。そしてARCを取り除いたら、同じスピン量でボールが高く上がった。これによって重量を3~4g削減しつつ、望む弾道が得られるロフト角に調整することが可能になる。
TS2&TS3ドライバー
ここまで読んで、TSドライバー2モデルに共通する特徴をつかんでもらえたと思う。次は、2モデルの違いについて見ていこう。
TS2ドライバー
明確な違いは、TS2にはSureFit CGウェイティングがないことだ。1つだけ搭載されるウェイトの目的はスイングバランスの調整のためだ。ウェイトは、+6gから-4gまで2g刻みで用意されている。
前述のとおり、TS2はMOIを最大化するために必要なモダンシェープを特徴としている。TSドライバーの中でもやさしいほうで、ヒール/トゥMOI(慣性モーメント)は約5,250と謳っている。これまでのタイトリストのドライバーへの「やさしくない」「使うに値しない」という評価を覆せる素晴らしい数字だ。
トップ/ボトムの慣性を見ると、TS2のトータルMOI(慣性モーメント)は概ね9,000以内であり、現在のマーケットでは上位に位置する。
タイトリストは究極のMOIデザインを研究していたが、5300と5400の間で収穫逓減の法則が見られることが分かった。そのレベルで、ボールスピードは守れるが、守るだけのスピードが得られない。慣性が高いと、それに反応して速くスイングできないゴルファーがいることをタイトリストは発見した。
フィッティングでTSドライバーを両方試打したとき、感覚的にはTS2のほうがいい感触だったが、最終的には私にはTS3が合っていた。
TS2はSureFit ホーゼル(ロフトとライ角を別々に調整可能)を装備、ロフト角は8.5、9.5、10.5、11.5度。
TS3ドライバー
以前のD3のように、TS3はロフトごとにそれぞれ打ち出しは低く、スピン量は少なくなっている。TS3は、水平方向に重心位置の調整が可能な「SureFit CGウェイティング」が備わっている。調整可能ウェイトで興味深いのは、単にスライスやフックの修正や、ショットの最初の方向性を修正するためにあるのではないということだ。タイトリストの哲学によると、ライ角を調整するためにSureFitホーゼルを使用し、ボールが当たる部分の後部に重心を持ってくるためにCGウェイトを使うという。
これらは微妙だが、フィッティングには欠かせない要素だ。特に、現在市場にあるドライバーの大部分は、わずかにヒール側に重心が寄っている。調節機能も駆使してトゥ側に重心位置を移動することができれば、ボールの分散を改善でき、さらなるボールスピードも期待できる。
私の場合は、スピン量が少なく、トゥ側にウェイトを移動できる機能があるためTS3のほうが合っていたということだ。
ウェイトが複数になることを避けるため、CGウェイト自体はヒール、中心、トゥ寄りのウェイティングを容易にするためマグネット製へと改良された。
TS3のMOI(慣性モーメント)はTS2のそれとは同等ではないが、917 D2と同じくらいやさしいモデルだ。TS3は、過去のタイトリストで最もやさしいモデルと同等の扱いやすさとやさしさを持つ、スピン量の少ないドライバーだ。
TS3も調節可能なSureFitホーゼルを備え、ロフト角は8.5、9.5、10.5度に変えられる。
TSドライバーを試す価値はあるか?
言うまでもなく、TSドライバーを試そうと思わなければ、購入にも至らないだろう。TSシリーズが市場で成功を収めるには、まずゴルファーの関心を集めなくてはならない。
多くのプロがツアーで使い始めていることを考えると、控えめに言ってもツアーを利用したプロモーションにもまだ一定の効果があると言えるだろう。実際に17本の TSドライバーが全米オープンで使われた。プロに使用してもらうには、確実な性能が証明されている必要がある。単にメジャーで最新クラブを使ってみたいという物好きなプロもいるかもしれないが、そうだとしてもかなりの本数が使われている。興味深いのが、ツアーでのTS2とTS3の割合がちょうど50%ずつだったことだ。
タイトリストはTSドライバーにかなりの費用を投入する予定だ。その目的は、過去モデルよりもより多くのゴルファーに試してもらうことだ。この戦略には、タイトリストのドライバーに貼られたネガティブな評価を払拭する目的も含んでいる。
「もし我々のクラブが『飛ばない』『スピン量が多い』と思われているなら、それを覆すつもりだ。そのレッテルをはがして、従来のドライバーからは感じられなかったパフォーマンスを多くのゴルファーに提供するつもりだ。マーケットはまだ期待していないかもしれないが、我々は必ず注目を集めるはずだ。」(ジョシュ・タルジ氏)
「スピード」にこだわりつつも、タイトリストファンを遠ざけることなく、正攻法で上級者の共感を得ることが必要だ。世界のベストプレーヤーに選ばれるドライバーを目指して、そこに到達すれば、アマチュアゴルファーもそれに続くはずだ。」(タルジ氏)
タイトリストにとって、TSプロジェクトは会社を最大のクラブメーカーに導くものではないが、もしあなたがクラブを選ぶにあたって性能を最も気にするゴルファーなら、まさに今回のTSシリーズのターゲットだ。
ポイントはハンディキャップではなく、ゴルフに対する真剣さである。それこそが、タイトリストが繁栄できる場所だ。そこにいるゴルファーの存在が精密なクラブ造りや性能へのフォーカス、真のイノベーションに取り組むのに十分な発売サイクルの維持、これらすべてを導く。それがタイトリストのやり方であり、もちろんTSプロジェクトも例外ではない。
ジョシュ・タルジ氏は、最後にこうまとめている。
「タイトリストのクラブが競合品より優れていなければ、我々はここまでやっていない。なぜなら、神話のようなストーリーを創り上げるためだけに4,000万ドルもの費用を投入してきたわけではないからだ。我々のアプローチは、まずあなたに試してもらうこと。TSドライバーは非常に優れた商品だ。ぜひ試してほしい。」
本日よりTSドライバーの試打が始まり、小売販売は2018年9月29日から開始される。
小売価格は、両モデル共に499ドルだ。
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