「こんなのは全部でたらめだ。」「ドライバーの飛距離はもう限界に達した。メーカーはこれ以上何もできない。」

 

新しい記事がアップされる度に、このようなフィードバッグを数えきれないくらい受け取ってきた。

私は少なくとも6~7回は彼ら個人に対して返事をしてきた。そして今回タイトリストTSドライバーの記事に対しても同じようなコメントが来たため、いつものように返答した。

このようなやり取りが頻繁にあることを考えて、コメント欄から私の返答を削除し、その代わりに詳しい情報を加え、少し整えてトップページに載せることにした(それがこの記事だ)。

 

USGA規定が何を意味するのか、また飛距離の「現実」と「神話」の境界線がどこにあるのかを読者の皆さんに理解してもらう時が来たのだと思う。

 

まず、正しいフィッティングがなされていないことと、ヘッドが新しいからといって10ヤードが約束されるわけではないという事実から説明しなければならない。「時すでに遅し」かもしれないが、これまで責任ある立場であるメーカーは数値化可能な表現に対して、何ら確約をしてこなかった。

マーケティングの観点では、「(ボールスピードが)速い」と謳うことは「1ヤードを約束する」よりもインパクトがある。伸びしろは大きくないかもしれないが、「ドライバーの飛距離は決して限界に達していない」ことを断言させてもらおう。

 

繰り返しになるが、「ドライバーの飛距離は決して限界に達していない」。

 

今日の記事では飛距離に焦点をあてると同時に、やさしさ(MOI:慣性モーメント)にも軽く触れたいと思う。

USGAのMOIの上限は5,900である。最もMOIの高いモデルは、ヒール/トゥのMOIが最高5,700であるピンG400 MAX。上限までの余地は少ないが、上限に達していないことは明らかだ。つまり、他のメーカーがピンを超える可能性は十分にあるといえる。

いつかMOIの恩恵が先細りしていくことについて議論される日が来るかもしれないが、現在はUSGAの上限までまだ余地がある。

では、何がドライバーの飛距離アップにブレーキをかけているのだろうか?

 

CT値 VS COR

ここまでは理解できたと思うが、実際にUSGAがどんなテストしているのか説明しよう。

CT(characteristic time)値の限度は239μs(マイクロセカンド)。USGAは18μs(マイクロセカンド)の許容誤差を認めているため、その合計257μまでが適合品となる。

CT 値の測定方法は、ゴルフクラブをテスト装置に装着し、ペンデュラム(振り子のような重り)をフェースの上に落とし、ペンデュラムがフェースに接触する時間を測定する。同じプロセスがフェースの何箇所かで繰り返される。フェースのたわみが大きいほど、より反発することを意味する(理論上は、ボールスピードが上がる)。

CT値の規定は2004年に開始された。それ以前は、USGA規定はCOR(反発係数)を基本としていた(1988年に開始)。

CORの上限は0.822、許容範囲が0.008なので、その合計の0.830が実質的な上限ということになる。COR(反発係数)とは、「2物体の衝突において、衝突前に互いが近づく速さに対する、衝突後に遠ざかる速さの比」である。

USGA規定は、かなりシンプルだ。例えば、44.7m/sのヘッドスピードでボールを飛ばしたら、ボールが反発する速度は37.1m/sを超えてはならない。

USGAによる最近のボールテストのように、CORテストは厳正であり、操作することは極めて難しい。フェースやボディーに関する技術においてメーカー各社が何を目指そうが、CORの上限は絶対的だ。

ただし、テストにおいて常に高い精度が求められることがCORの欠点だ。すべてを精密に比べることは時間も労力も要するし、いつも100%同じことを再現できるわけではない。そこで「CTテスト」が生まれたというわけだ。

 

なぜCT値が重要か?

 

今の市場では、少なくともドライバー4モデルがCORテストでは適合外だが、CTテストはパスしたとされている(他にもまだあると思うが)。各メーカーはこの話題を公にしたがらない。USGAに目をつけられたり、怒られたりしたくないからだ。

私は、USGAは彼らの裁量でCORテストを行っていると思っていたが、私が話した内部の人間はそのような事実はないと認識していた。

ここで重要なのは、CORテストは「絶対」に近いが、CTに関しては規定に少し余地があるということだ。これで実際にUSGAが何をテストしているのか理解してもらえたと思うが、ここで業界の誰もが257μsの上限を遵守していると仮定してみよう。

CTが最大限に発揮されるのは、フェース全体のほんの数パーセントのエリアでしかない。スイートスポットを数ミリ外してしまえば、ボールスピードは落ちる。フェースの中心から離れるほど、さらにボールスピードは落ちる。

そのためメーカー各社は、ミスヒット時のボールスピードをできるだけキープするためのフェース技術を駆使する。それによってMOI(慣性モーメント)も大きくなるため、実際の飛距離も確実に伸びている。

きっと多くのゴルファーは「オフセンター」をトゥやヒール下部にボールが当たることだと思っているに違いないが、ボールスピードへの影響において、「オフセンター」とは文字通り「中央ではない部分」を意味する。

スイートスポットから外れれば、ボールスピードは落ちる。ドライバー製造技術の発展を通してスイートスポットが毎年拡大し、ボールスピードのロスが小さくなることで、飛距離が伸びているのだ。

要するに、フェースのスイートスポットのCT値が257μsだったとしても、それ以外の部分はそれに満たないということだ。

 

「飛距離=ボールスピード」ではない

また、実際にUSGAがテストするのはボールスピードのみである点にも注意したい。

飛距離の要素はボールスピードだけではない。重要な要素ではあるが、打ち出し角やスピン量も飛距離に大きく関係する。例えば、低スピンで高い打ち出しのドライバーを打てば、たとえボールスピードが一定でも飛距離は伸びるだろう。

USGAは、打ち出し角とスピン量の関係性を規制するためのテストは行っていない。CG(重心位置)の改良が重要なのは、そのためだ。

5年前のドライバーのCGと現在のそれを比較すると、その進化は否定できない。

こう考えてみよう。COR規制が始まったのは1998年で、2004年にCT規定にとって代わった。

正直なところ、1998年や2004年に造られたドライバーが2018年のものと同等の性能を持っていたとは思えない。そう考えると、14年前に「飛距離の伸び」は終焉を迎えているはずだ。

確かに、メーカーは飛距離を売りにしているが(より速いとか、よりやさしいとか)、そのような神話が蔓延しているにもかかわらず、ここ10年近くのドライバーカテゴリーでなぜどのメーカーも「10ヤード伸びる」と確約してこなかったのだろうか。

実際の飛距離の伸びは、宣伝文句よりも小さかった。これが真実だ。

これらはすべて、空力学的技術以前の問題だ。もしヘッドの空気抵抗が少なければ、より速く振ることができる。つまり、「ヘッドスピードが上がる=ボールスピードが上がる」という関係性が成り立つ。

ヘッド形状や容積を規制する基本的なルールとは違い、USGAは空力学的技術に関する規制を設けていない。

ここでもやはり飛距離のメリットは小さく、ヘッドスピードが速いゴルファーが圧倒的に有利だが、その小さいメリットでも「ドライバー飛距離限界説」を封じるには十分だろう。

飛距離に貢献する別の要素に、「重量」がある。軽いクラブを使うとヘッドスピードが速くなるゴルファーもいる。繰り返すが、「ヘッドスピードが上がる=ボールスピードが上がる」だ。

 

そしてもう一点、「ドライバー飛距離限界説」を論じる際にゴルファーが見逃しやすいのが、「シャフト」だ。

 

私達が振るのは「ヘッド」ではなく「クラブ」であり、すべてのクラブにはシャフトが付いている。もしシャフトがもっとエネルギーを蓄えることができれば、インパクト時にそれがボールに伝わり、飛距離アップに貢献する。

シャフトメーカーでさえ、シャフトの設計を改良することで何を達成できるかを理解し始めたばかりだ。シャフトはドライバーの飛距離を「開拓する」次なる一手になると、私は思う。

 

最後に、なぜフィッティングが飛距離アップに重要なのかを少し話そう。

ゴルフメーカーは多くの場合、市場のボリュームゾーンをターゲットに商品を開発するが、フィッティングを受けたり、自分のプレースタイルに合うように上記のすべての要素を上手く組み合わせたりすれば、飛距離アップにかなり近づくことができるはずだ。+10ヤードも夢ではないかもしれない。

 

業界の裏側 ~CTの秘密~

最後に、どのドライバーも257μsの上限に達しているという仮定に戻ろう。そんなのは馬鹿げていると言わざるを得ない。今日CT値が257μsに達しているドライバーは、全体のほんの数パーセントだ。

クラブ分野のすべてについて言えることだが、ドライバーのCT値にも許容範囲がある。どんな製造プロセスであっても、実際のCT値の分布はベルカーブ(確率・統計で用いられる正規分布)を描く。

どのブランドでも、最終的に小売まで辿り着くクラブのうち、「規定の上限」に近いものはほんの数パーセントだ。あるメーカーでは、高いCT値もしくは最大CT値のヘッドの多くが、ツアー部門や特別な顧客に割り当てられる。

聞きたくない人もいるかもしれないが、これはメジャーブランドが確実に有利な分野だ。CT値はブランドの厳正な品質管理の指標の一つなので、メジャーブランドは工場に対して厳格に品質管理を徹底するし、それを担保するスタッフも抱えている。

小ロットでしか製造できないマイナーブランドは、品質のコントロールも劣り、製品のばらつきが多くなる。誤差を縮めるにはコストがかかるため、メジャーブランドが持つ量的メリットがなければ、CT値の許容誤差を維持しながら必要な利益を上げるのは難しい。どの製品でもある程度のばらつきは生じるが、メジャーブランドではその幅は小さくなる。

MyGolfSpyのテストでも同じようなことがあった。少し前、性能が過去のテストでの性能と一致しないヘッドがいくつかあったので、第3者機関に送ってテストを依頼した。そこで、重心位置やMOIがそれぞれに異なっており、CT値はわずかに少ないことがわかった。これがクラブ製造の現実である。

そう考えると、規定値の上限を超えるようなヘッドが入手できるとしても、規定値を少し下回る安全なヘッドが欲しくなるはずだ(最悪の場合、それが偽物でも)。

 

他の例を紹介しよう。最近私はCT値を計測したヘッドを手にいれたのだが、測定値は219~254μs、平均値は236.3μsだった。このように、すべてのヘッドが規定の上限にあることは不可能なのだ。

横道に逸れてしまったが、これが私が常々「試打したクラブそのものを買うべきだ」と勧める理由である。

許容誤差を改良する(縮める)理由は何だろうか。

それは、マーケティングあるいはパフォーマンのストーリーの一部として、「製造の一貫性」を謳うという最近の動向に起因する。昨年のコブラF8のストーリーもそうだった。タイトリストは、すべてのTSヘッドがスペック通りになるように対策を施しているという。

2019年にはその他のブランドも彼らの後を追うだろうが、許容誤差を完全になくすまでの道のりは長い。結果として、上限は257μsだが、実際の設計では239~240μsあたりを目指すことになる。

実際に誰もこの規定値を超えるドライバーを設計していないのは、安全策を取っているからだろう。なぜなら、250μsに達するとUSGAが眉を上げるからだ。

先週私が話をしたUSGA内部の人は、250μsだとUSGAから警告の手紙が届くと教えてくれた。さらに、販売予定のヘッドを取り寄せて、他の項目も含む大々的な調査を行うという。

誰もそのようなことは望まないと思うが、一方で製造法を改良して一貫したCT値(250μsをぎりぎり下回るような)を実現しようと、メーカーはより意欲的になるかもしれない。

もしそうなった場合、多くのゴルファーがCT値にばらつきがあるドライバーでなく、上限に近いドライバーを手に入れることになるだろう。つまり「製造の一貫性」というのは、飛距離を伸ばす手段の一つなのだ。

「ドライバー飛距離限界説」を理解するのに重要なことは、USGAは飛距離アップの要素のたった一つを規制しているに過ぎないということだ。重要でないとは言わないが、飛距離を決める要素は決してこれだけではない。

メーカーがさらに飛距離を絞り出す方法は無数にある。チタンのような画期的な素材が出てきていないとも言えるが、飛距離の改革は少しずつ(毎年1ヤードくらい)前進するだろう。

 

メーカーがやれることは、まだ残されている。