ジョージア州では、ブリヂストンゴルフのファンが突然のニュースに驚いているようだ。ブリヂストンスポーツの米国法人子会社のCEOであるエンジェル・イラガン氏の退任が決定したというのだ。

さらに、ブリヂストンゴルフの屋台骨であるボールビジネスの本年度のマーケットシェアが4位(テーラーメイドの下)まで落ち込み、対策を迫られているという。ブリヂストンは昨晩、一連の動きに対してコメントを発表した。

 

「ブリヂストンゴルフと、CEOであるエンジェル・イラガン氏は、退任に関して同意した。この2年間にわたりブリヂストンゴルフを導き、尽力してくれたことに感謝するとともに、彼の今後の活躍を祈っている。ブリヂストンゴルフの推進を担う新しいリーダーに関しては、早急に決定し報告できるよう準備を進めている。」

 

通常、企業が後任者が未決定のまま「退任を相互に同意した」と発表する場合、解雇通告したことを丁寧に表現しているに過ぎない。ブリヂストンの経営陣は最近の北米市場でのパフォーマンスに納得しておらず、指導者を変え方向転換する必要があるとの決定を下したのだろう。

イラガン氏は、2016年にブリヂストンゴルフのCEOに就任した。その年の12月にはタイガー・ウッズを起用し、レクシー・トンプソンやブライソン・デシャンボーともボール契約を結んでいる。

イラガン氏は(少なくともプロレベルでの)ボール飛距離性能制限のサポーターであり、私が知る限りブリヂストンはこれを支持する唯一の会社であった。

ブリヂストンゴルフは今年の初めに、2017年度は過去最高のボール販売数と収益を記録したと発表したが、業界内での見方は違っていた。販売数が最高記録だったのは事実かもしれないが、実際には価格が大幅にディスカウントされていたため、収益は下落し損失を出したと言われている。

 

ゴルフクラブの事業に関しても、イラガン氏の在任中にはほとんど稼働してないに等しかった。2年前に発売されたTour Bシリーズは、発売当初はフィッターを通しての独占販売であったが、今ではブリヂストンのウェブサイトで販売されている。

オンライン限定で、フォージドドライビングアイアンやプレミアム価格のボックスセットなどの限定商品を発表したが、そのようなやり方は懐疑的に見られていた。クラブ市場のマーケットシェアに関してブリヂストンは、「その他のメーカー」に位置づけられたままだ。

退任が意味すること

企業トップの交代は計画的なこともあるが、今回は売上高や収益性、主力商品のマーケットシェアのすべてが下降傾向にあり、何らかの引き締め策を講じなければならなかったのではないか。下降傾向が続けば変化は避けられないのだ。

現在の状況を考えると、イラガン氏の解任は驚くべき話でもない。しかし後任者未定での解任には疑問が残る。ブリヂストンは自らを第一線のボールカンパニーと自負しているため、テーラーメイドに順位を譲ったことは屈辱だったに違いない。

 

ゴルフボールの売上は、リーチ(メディアの到達度)とマーケティングがすべてである。リーチに関してはタイトリストが群を抜いている。「#1 Ball in Golf」のコピーは、ツアースタッフやプロショップにまでしっかりと浸透している。

キャロウェイは一流のマーケティングにより、クロムソフトをマーケットシェア第2位に押し上げた。1位との差は大きいものの、キャロウェイは成長を続け、タイトリストのシェアを50%を割るまでに押し下げた。テーラーメイドは的確なリーチとマーケティングが功を奏し、第3位に入っている。

ブリヂストンに関して言えば一般的にボールへの信頼度は高いが、タイトリストと同レベルのリーチはなく、タイトリストが独占しているマーケットでは、他社同様苦戦を強いられている。

主要な競合3社やウィルソン、スリクソンのような挑戦者とは異なり、ブリヂストンはボール販売を後押しするだけの強力なクラブ販売やプロモーションを行っていない。

今シーズンのタイガー・ウッズの起用、広告宣伝費やツアースタッフなどへの多くの支出にもかかわらず、会社の方針は間違った方向へ向いているようだ。

ブリヂストンのマーケットシェアの低下を見ると、タイガー・ウッズの宣伝効果にも疑問が浮かぶ。タイガー・ウッズはドライバーの売上に貢献しているのだろうか。

シューズやアパレルの宣伝にも起用されているが、ナイキの経験では、彼のような世界的に有名なプロ選手もグッズの売上にはほとんど貢献しないという。今シーズン前半の好成績にもかかわらず「You’re Back There」の広告キャンペーンは、最近の記憶の中では最も皮肉な結果となってしまった。

 

今後のブリヂストンの方向性

今回の騒動が本当ならば、イラガン氏の解任は再生に向けての第一歩かもしれない。

ブリヂストンは320億ドル規模の世界的巨大企業であり、アジアのゴルフ市場における主要プレーヤーである。

イギリスへの進出は、苦戦の末数年前に撤退を余儀なくされたが、再び参入を試みているところだ。北米のボール市場から撤退することはないだろうが、ゴルフクラブ市場から撤退する可能性はある。

ゴルフクラブのマーケットシェアはごくわずかであり、過去2年間の懸命な努力にもかかわらず、イノベーションやマーケティングで状況を改善することはできなかった。

ブリヂストンは、大規模なボールフィッティングプログラムを通じてボールビジネスの基盤を作った。自分に合ったボールを判断する際に、ドライバーでボールフィッティングをするのが妥当かは議論の対象になるが、プログラム自体は有効である。

 

数年間にわたり、ボールフィッティングを提供してきたのはブリヂストンのみであった。だがマーケットシェアの低下に伴い、ボールフィッティングプログラムは事実上消滅している。これは偶然とは思えない。

ブリヂストンの現況は、興味深いビジネスの教訓になり得る。

優秀な人材を抱え、高性能のボールや高品質のフォージドアイアンを製造しているが、何らかの理由で北米での事業はうまく機能していない。

良い製品を提供することは大事だ。しかしマーケティングと流通の戦略がなければ、どれほど優れた製品を作っても苦戦することになる。

 

ブリヂストンは、販売数を増やすためには価格を下げるべきだという、安易な策を講じるのではないか。事実、昨年には2箱の購入で1箱を無料にするプロモーションを行った。

それにより販売数は伸びており注目に値するものの、「Smart Business 101」(ビジネスの保護と成長を促進する戦略)によれば、たとえ販売数が伸びなくても少数販売の方が、恒常的に薄利多売するより有利だという。

2018年後半以降、ブリヂストンがどのような方向へ進むのか、そしてどんな変化が起こるのか楽しみである。

イラガン氏の正式な後任者が決まるまでの間、ブリヂストンスポーツのシニアオフィサーであり、ブリヂストンゴルフの取締役常務執行役員の中山滋氏がCEOとして米ブリヂストンゴルフで指揮をとるようだ。

誰が就任したとしても、後任者には大きな課題が待ちかまえているようだ。