ゴルフ界の2大カンパニーが、コロナウィルスによる計り知れない影響を公にした。
キャロウェイとアクシネット、各企業がどのようにパンデミックという不測の事態に対峙しているか、それぞれの第一四半期決算レポート(以下、Q1決算レポート)から興味深い洞察を得ることができる。
また、どれほどこのウィルスが幸先良い今期のスタートを狂わせたか、いかに来月の予測さえままならない状況か、彼らの決算レポートが示している。
その、他の企業と同じように。
先にお伝えしておくが、私達は決して財務の専門家でなければ、投資コンサルタントでもない。レポートから見える状況を予測できる範囲で、共有したいだけだ。
売上や利益の低下はやむを得ず、両社ともに乱高下にそなえて準備を余儀なくされている。
キャロウェイ、アクシネット共に、今期(Q1)のスタートダッシュは非常によく、結果的にプラスの純利益を計上。しかし、3月中旬までに実質の事業の見通しは消え失せたという厳しい現実に直面することとなった。
キャロウェイ Q1レポート
キャロウェイは、2019年ようやく『ゴルフ界の王者』のタイトルをアクシネットから奪い取ることができた。
今年は幸先良いスタートを切ったものの、今期(Q1)の売上は対前年マイナス14%という結果に終わった(4.42億ドル対5.16億ドル)。
内訳は、クラブの売上が4%、ボールが35%、アパレル20%、ギア(キャディーバッグ、グローブ、アクセサリーなど)が24%減少したことによる。
最終的に計上した利益は2,900万ドル。これは前年の4,900万ドルから40%以上もの減少に値する。しかし、プレスリリースの内容は予想どおり事態を前向きにとらえるようなものになっていた。
「2020年第一四半期のゴルフ用品マーケットシェアは堅調を維持したことを嬉しく思う。コロナウィルスによるマイナスの影響にもかかわらず、今期は利益をあげることができた。」とキャロウェイCEO チップ・ブリューワー氏。
今期(Q1)の全米売上高は12.6%のマイナスとなり、ヨーロッパでは約24%落ち込んだ。一方、日本の売上は5.6%プラスに転じたが、その他の地域は25%減少という結果となった。
他のメーカーと同様、キャロウェイも3月からコストカットを開始した。レポートによると、売上減少に伴い、1千4百万ドルの営業経費の削減。
また、ジャックウルフスキン社(Jack Wolfskin)買収に関連するコストも反映されている。シャットダウンによる一時解雇や、給与カットなどを実施したが、削減にかかるコストがQ1に充てられたかは不明だ。
4月には、CEOであるブリューワー氏が基本給90万ドルを放棄すると伝えられた。2019年のブリューワー氏の報酬額は、給与、ボーナス、ストックオプションすべて含めて580万ドルと推定される。
また、ブリューワー氏以外の取締役を含む経営陣の給料も返上される。
王道のキャッシュ
ビジネスでは潤沢なキャッシュこそ、荒波を乗り越える武器となる。
キャロウェイは、第一四半期中に2.5億ドルに値する転換社債を発行した。そこから得た収益は、運転資金や企業活動に充当される。社債は主に適格機関投資家に提案され、年率2.75%の利子が付く。
「追加流動性資産の確保が解決につながるわけではなく、資本と費用を維持するためしっかりとした取り組みを今後も続けていく必要がある。これまで私たちが取り組んできたブランドや商品の強化、地理的な拡大への取り組み、経営改善と併せて、追加で流動性資産を確保したことにより株主価値を高めることができると信じている。」
キャロウェイは、2019年のアニュアルレポート内で起こり得る脅威としてコロナウィルスを具体的に挙げている。レポートでは、アジアでのサプライチェーン崩壊に焦点を当てているが、今では全世界への警告となってしまった。
「コロナウィルスによるインパクトは、日に日に、地域から地域へと変化し、これ以上拡大すれば経済悪化を助長させることもあり得る。この事態は、世界経済、製造や流通、消費財の需要にさらなる影響を与えることになるだろう。」
キャロウェイの株価は、1月は1株22ドルあたりだったが、3月18日には5.34ドルまで下落した。その後、買い戻され現在(5月11日)は13ドルあたりで推移している。
アクシネット Q1レポート
タイトリストの親会社であるアクシネットも、2020年のビジネスを脅かす“可能性”としてコロナウィルスを指摘した。しかし、自然災害と同様に“可能性”リストの上位から外した。
アクシネットのQ1レポートによると、前年と比べて売上高は6%の減少に留まった(4.08億ドル対4.34億ドル)。比較的、悪くない。しかし、懸念は純利益である。昨年の4,500万ドルに比べて、今年は890万ドルとおおよそ75%も下落している。
アクシネットほどの安定した堅調なビジネスでこの数字は驚きだが、基盤のしっかりした企業ほど納得できる説明があると信じたい。
予想に反して、今期(Q1)のゴルフクラブの売上は2%増加。主にボーケイ新作「SM8ウェッジ」と「スコッティーキャメロン・スペシャルセレクトパター」による効果だ。
一方、ボールの売上は18%の減少(1.16億ドル対1.43億ドル)。フットジョイも8%ほどマイナス(1.3億ドル対1.41億ドル)、タイトリスト用品(バッグや帽子、その他アクセサリ)も4%減少という結果となった。
「アジアマーケットが初めに影響を受け、現在は回復の段階にいる。続いて3月に北米とヨーロッパにその波が到来したため、これら地域の影響は非常に大きい。」とアクシネットCEO デイビッド・メア氏。
内訳は、アメリカ市場の売上が8%以上のダウン、日本は7.6%、その他の地域は18%近く減少した。その中でも韓国市場は5%アップしたが、これはKJUSビジネスによるところが大きい。
アクシネットは、昨年の夏にスイスをベースに高級ゴルフ、スキー、アウトドアウェアを展開するKJUSを買収したばかりだった。
アクシネットの株価は、1株33ドルでスタートし、3月23日には21.15ドルまで下落した。現在(5月11日)は、29ドルまで回復している。
シャットダウンとレイオフ
現在マサチューセッツにあるボール工場は閉鎖されたままで、工場のスタッフやカールスバッドの組立作業員も一時解雇となった。アクシネットの損益決算書には、固定費と間接費の削減が反映されている。
純利益は890万ドルと大幅ダウンしたが、今期のEBITDA(イービットディーエー)は5,300万ドル。ちなみに昨年のEBITDAは6千4百万ドルだった。対前年で17%減少したことは一目瞭然だが、EBITDAマージンは前年比たった13%減に留まった。
EBITDAは、Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略で、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益のことで、通常売上高と経費の比率を表す。
一方のキャロウェイのEBITDA(キャッシュ以外の株式報償に関わる費用を含む)は、5,800万ドルで、昨年の7,900万ドルと比べて27%の減少だった。
アクシネットのQ1 EBIDTAレポートに記載された2つの補正予算には、「リストラクチャリング費用」と、いわゆる「その他の想定外の経常外費用」が計上されている。
レポートによると、リストラクチャリング費用には退職金や“リストラクチャリングプログラムに伴うマネージメント費用”が含まれる。
経常外費用は、今回のシャットダウンによって働けなくなったスタッフへの補償や給料、一時解雇した社員に支払う付加給付などを含む。
また、使えなくなった原料の廃棄や、リモートワークをサポートするための増分費用、衛生と安全対策にかかわる費用なども含まれる。
これらの埋め合わせには、約2,000万ドルが充てられる。つまり、どのようにこれらの費用を割り当てるのかによって、純利益の減少率は変わるということだ。
各企業の損益計算書を読むと、キャロウェイの販売量及び、一般管理費は、アクシネットより1,100万ドル低いことがわかる。
さらに、アクシネットは10万枚のマスクを地域の病院に寄付し、前線で治療に関わる人達のためにPPE(個人用防護具)を製造した。また、チャリティーオークションを開催し、オンラインでの売上の一部(80万ドル以上)を寄付するといった取り組みも行っている。
最終考察
最終的に、キャロウェイとアクシネットのQ1決算レポートから何が読めるのか?アクシネットは、Simon Sinek氏の著作『The Infinite Game』からの言葉を2019年アニュアルレポートに引用した。
「ビジネスとは、無限のゲームという言葉がぴったりだ。終わりのない戦い。無限のビジョンに向かっている時、イノベーションが加速され、数字もついてくる。さらには、無限のマインドを持つリーダシップがもたらすインスピレーションや、イノベーション、コーポレーション、ブランドロイヤリティ、利益は、会社が安定している時に限らず、不安定な時にも会社を救うことになる。回復力のある会社は、永遠に存続する。」
アクシネットとキャロウェイはとりわけ「回復力」がある企業だ。とはいえ、彼らであっても繁忙期の3ヵ月にビジネスが中断されるほど過酷な試練はないだろう。
事態を察知したキャロウェイは、事前に経費カットを進めていた。つまり、在庫委託を減らし、供給先への部品の発注もキャンセルか延期にしていた。アクシネットもまた、世界中の在庫に目を見張っていた。
このような状況下でも、現在オンライン販売は期待以上だとキャロウェイはいう。そして、ゴルフショップが再開されれば、初期の小売上は、昨年までとはいかなくても期待を超えるのではないかと予測する。
どちらも第二四半期の大打撃は避けられないと認識しているようだが、その対応策には触れていない。
消費者としては、今年のギアが大セールになるのではと期待したいところだが、両社とも在庫管理を徹底し、在庫超過を回避しているようだ。しかし、小売店が買った発注済み商品は別の話である。
元の質問に戻って、キャロウェイとアクシネットのQ1決算レポートから何を読むか?
分かっていることは、先行き不透明な状況下、コロナの影響は計り知れない、ということだけだ。
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