これは特にドライバーに関して言えることだが、ゴルフ業界特有の横文字で表現されるような“テクノロジー用語”なしでは語ることのできない、従来の常識を覆す革新的ドライバーが世に出るとなったら、間違いなく多くのゴルファーを巻き込む騒ぎになる。
しかし、USGAががっちりと手綱を握っているため、クラブエンジニア達は来る年の改良に苦労を重ねているのが現実だ。
この業界にとって、「ボールスピード」は切り離すことのできない最重要事項であることは間違いないが、圧倒的なスピードの改良は正直難しい。
したがって、“性能の改善”とは素材や構造の小さな改良の積み重ねでしかないのだ。
「肝心なのは反発係数(CT値)ではなく、重心位置(CG)だ。」(コブラ開発部門 副社長 トム・オルサスキー氏)
要はスピードではなく、ドライバー性能を押し上げる「ウェイト配分」に注力するという意味だ。
「No Limits (限界なし)」。これがコブラの2020年商品ラインナップのキャッチコピーだ。
決してUSGA適合ルールをすり抜けようとしているのではない。限界まで性能を押し拡げるため、あらゆる可能な方法を探りたいというブランドの意思表明のようなものだ。
そうではなく、これが大胆な戦略を意図するなら、それはそれでよしとしよう。
設計上の問題もあるが、内蔵ウェイトや精度を改良したところで業界を動かすほどの大改革とはいえない。
求められるのは、「スピード」である。さらにドライバーはスピードだけでは不十分で、加えて“スピードが出そうなルックス”も求められる。そして、それに付随する「ストーリー」も必須だ。
SPEEDZONE インスピレーション
Speedzoneシリーズの設計にあたり、Formula 1(F1)からインスピレーションを得た。スピードを競うF1スタイルと、レースカーの性能を上げたいなら、ドライバーの性能を向上させるという概念の基、Speedzoneに活かしている。
つまり、特性を6つの分野に分け、それぞれの改良を目指した。
それを、「スピードゾーン」と呼ぶ。これらは「パワー」、「強さ」、「低重心」、「軽量素材」、「エアロダイナミクス(空気抵抗)」、そして「安定性」の6つに分けられる。
Speedzoneのストーリーはロジックとマーケティングがうまく融合されていると感じたが、これは最近のコブラのメディアイベントでランボルギーニを試乗させてもらった弁明もあるのだが…
コブラの「6ゾーン」の中で多くが重複するため、今回は2つのストーリーに絞ぼることにする。
インフィニティ・フェース
改良に挑んだ新ミルドフェーステクノロジー「インフィニティ・フェース」は、レーシングカーとは無関係で高級リゾートにあるインフィニティプールが由来だそうだ。
このミルドフェース設計はF8ドライバーでデビューし、フェースのエッジまでのびたミーリングパターンが特徴。そして印象的なのは、フェース中心に彫られた∞マークだ。
なぜこれが重要なのか?マーク自体は重要ではないが、CNCミルドフェースによる効果に加えてエッジまで延びたミーリングには更なる効果がある。
さらに驚くべき改良がこちらだ。
エアロダイナミクスの改良
アドレス時のアライメント以外に、「マイクロ・フロー・エナジャイザー(Micro Flow Energizers)」と呼ばれるトップラインに沿ったミーリングマークがエアロダイナミクス(空気抵抗)性能を押し上げる。
私は航空力学のプロでもないし、有効性を確かめる風洞を見たことすらない。
正直、後に競合メーカーに真似されそうなアイディアだが、コブラによるとリーディングエッジのミーリングラインは“ミニ エアロダイナミクス”として機能し、引っかかりを減らしボールスピードを維持するという。
F8、F9に搭載されたポリマークラウンがSpeedzoneに見られないのはそのためだ。
クラウンのリーディングエッジ効果によって、アドレス時のフェース角が際立ち、全体的にすっきりとした顔になったため空気抵抗をより実感できるだろう。
また、何度も述べていることだが、エアロダイナミクス効果は特にヘッドスピードの速いゴルファーに有利だ。45m/s以下のスピードだと、この性能はあまり活かせない。
ボールスピード性能
大切なトピックを後回しにするのもなんだが、ボールスピード性能も忘れてはいけない。ボールスピードといっても、さらに速く、数ヤード飛ばすといった話とは微妙に異なる。
他のドライバー同様、Speedzoneのストーリーにも“スピード要素”は盛り込まれている。
名前からも分かるように、それはインフィニティ・フェースのミーリング部分が前モデルより95%拡大された話から始めなければならない。つまり、F9よりフェース面積を2倍近く精密に設計することに成功したということだ。
エッジを超える範囲までミーリングを拡げ、エッジの上下部中央をCTパッドで補助することによって、フェース全体のボールスピードがさらに上がるという。
フェース中央でスピードが出せない限りは、フェース周りでのスピードは望めない。そのため、ひし形のe9パットを利用してフェース中央部分の厚さを増し、USGA適合のCT値に収める事に成功した。
基本的に、これは“ミスヒット”時のボールスピード維持の話で、ボールスピードを維持できるフェース面積を増やしたということだ。
たとえフェース全体がUSGA適合内で設計されていても、ミスヒット時にはスピードを失う。
ミスヒットはヘッドのたわみにも影響し、スピードロスは避けられない。フェース全体のCT値の話になったら、これを頭の片隅に入れておくといい。
他のブランドと同じように、コブラもボールスピード(CT値)の限界に挑んでいるのだ。時々ツアーでCTテストに適合しなかったといった議論が持ち上がるが、この意味にも触れておきたい。
ドライバーCT値のUSGA規定は、239マイクロ秒だ。クラブには製造上の誤差や、CTの規格差、実際の計測誤差が発生するため、18マイクロ秒の許容範囲が存在する。
つまり、257マイクロ秒までは規定内とみなされる。また、250マイクロ秒あたりの規定は曖昧だともいう。万一、規定を超えた数字が出た場合、USGAはそのヘッドが世に出ないように目を光らせることになる。
USGAには残念だが、どのメーカーも大人しく239マイクロ秒に留めようとはしない。239が限度でも、クラブデザイナーはそれを超える値を目標とする。
通常、目標CT値は242~246マイクロ秒の範囲だ。10CT差はそれほど大きくないが、弾道計測器上の数字バトルでは、わずかな差が物を言う世界であることはメーカーが一番熟知している。
コブラにCT値をたずねたところ、正確な回答は得られず単に「コブラのCT値は規定内」と答えるに留まった。
おそらく、その範囲は239マイクロ秒以上、インフィニティ・フェース性能が最大に発揮される範囲なのだろう。
安定性の向上
“ミーリング”は、ポリッシュ(研磨)より明らかに精密で緻密な削り出し法だ。ポリッシュ(研磨)は、クラブ(ドライバー)フェースの最終工程に使われるグラインディング(削り出し)より繊細で精密に聞こえるため、誤った認識が広まっている。
ミーリングの精度は非常に高い。小難しい話になるが、クラブの安定性に差がでる大切な工程であるため知っておいて損はない。
例えば、コブラの機械研磨の上部ロールの標準偏差は、手作業でミーリングした場合の13.2mmに比べて3mmとわずかだ。
この数字はバルジ(フェースの水平方向の湾曲)と似ている。さっぱり分からないという人のために、ロール(垂直方向の湾曲)が打ち出しやスピンの安定性に影響する一方で、バルジは方向性の役目を果たすと覚えておいてほしい。
コブラは、自社のフェースミーリング技術により、手作業で削る競合モデル以上のデザインスペックに仕上がったと強調している。
CNCミーリングがもたらすのはそれだけでなく、フェースの厚みを精巧に調節できる。つまり、CT許容範囲に対するコントロールができるという意味だ。
実際、ベルカーブや標準偏差に注目すれば一目瞭然だ。
ミーリング効果によるフェース全体のコントロール性能や、安定性の向上により、CT値の限度に挑むと同時に製造上の誤差も狭めるという。理論上ではCT値が257を超えることもなければ、逆に239を下回ることもないということだ。
巷ではドライバーCT値はもはや限界だと言われるが、そうではないという。ある程度の製造上誤差は避けられないため、ヘッドスピードと許容誤差が互いに関係するのは仕方がない。
コブラのミルドインフィニティ・フェースは限界を超えたボールスピードを保証するものではなく、すべてのヘッドが確実に規定で許される限りのスピードを出すことがウリなのだ。
「私達が目指したのは、構造を再設計すること。重心や、MOI、フェースミーリング、エアロダイナミクス(空気抵抗)をわずかに改良することで、全体の性能を向上させる。これらが集まって、実際のプレーに貢献する。」(コブラ トム・オルサスキー氏)
T-BARの骨組
F 1ほどのエレガンスさやスタイル性はないが、Speedzoneドライバーに採用されるT-BARの骨組はジョーダート トランスAm(アメ車)からインスピレーションを得ている。
アメ車の話は現代のデザインとかけ離れ過ぎているため、これ以上語るのはやめておくが、このような要素も新デザインにうまく溶け込ませているのもコブラの戦略といえよう。
これまでの複合ドライバー構造は、チタン製ボディに溶接した複合クラウンが特徴だった。Fly-Zでは、ウェイト削減のための複合パネルをソールに結合する設計が採用された。
これらの構造は、複合構造を採用するドライバーに共通するようになった。
F9 Speedbackでは、「カーボン・ラップクラウン」を採用。ドライバートップに負担をかけず、複合素材をスカート部分まで拡げることにより(クラウンのすぐ下)、ヘッド形状を根本から変えた。
その結果、ウェイトの低深部配置に成功。カーボンファイバースカート設計とSpeedbackヘッド形状が、Speedzoneができる布石になったということだ。
カーボンファイバーの目的は、不必要な箇所からウェイトを取り除き(通常、ドライバーのトップ部分)、必要な場所にウェイトを再配置すること(低深部配置)。そして、Speedzoneではもっと抜本的なヘッドデザイン改良に挑んでいる。
新360カーボン・ラップ設計では、2つの大きなカーボンファイバーでT-BAR周りを包み、中心部分でつなぐ。
その結果、半分がカーボンファイバーのドライバーが出来上がり(F9より10%多い)、6.3gのウェイト削減に成功した。数字的には少なく感じるだろうが、ヘッドウェイトの3%と考えれば大きい。
新しい骨組やデザイン改良によるウェイト削減が成功した後は、ヒールとトゥにウェイトパッドを固定し、モデルによってウェイトと素材を変えられるイグゾースト・ウェイト(Exhaust Weight)が加えられた。
レースカーテーマに沿って、イグゾースト・ウェイトは後方に隠すように設計されている。
結果、全体的に69gを低後部に配置する事に成功(Speedback底部)。
この種のウェイト改良(重心位置とMOI)は、コブラのドライバー論争では常に最前線だった。それが可能になった今、高打ち出し、低スピン、MOIの向上が期待できる。
もちろん、CNCインフィニティミルドフェースによる安定したショットも手に入る。
派生モデル
昨年のF9 Speedbackは1モデルのみの展開だった。今回もある意味そうなのだが…
F9 9度モデルの重心設計は前方配置が特徴で(低スピンを生み出す)、前作のPlusモデルの役割を果たしていた。10.5度と12度モデルの重心設計はそれとは異なり、以前の標準モデルに近く高弾道ややさしさがウリのスペックだった。
タイトリストにならってか、今年は2モデルラインナップに戻った。Speedzone標準スペックは、ロフトによって微妙な差があるものの従来のPlusモデルを引き継いでいる。
では詳細を見ていこう。
SPEEDZONE
Speedzoneは、Plusモデルに最も近いと思われる。9度と10.5度は、可動式フリップゾーンウェイト(14gと2g)を特徴としている。
もうお分かりだと思うが、ウェイトを前方配置にすると、打ち出しやスピンは低くなり、より貫通性のある弾道になる。反対に、後方配置は高い弾道を招き、スピンやMOIも高くなるのが特徴だ。
9度モデルには5gのスチール製イグゾースト・ウェイト(Exhaust Weight)、10.5度は7.2gチタン製イグゾースト・ウェイトが搭載される。F9 Speedbackと同様に、このウェイト特性はロフト角に合わせて性能の最適化を図る目的に過ぎない。
SPEEDZONE XTREME
今年の新モデル名は「Speedzone Xtreme」だ。Xtremeは低スピン性能の標準Speedzoneを高MOIで補う。すわりが大きく、可動式ウェイトの装備はない。
やさしさがメインのため、かなり重めの17gタングステン製イグゾースト・ウェイトを搭載している。
MOIは約5500と高いため、2020年ラインナップの中でも一番やさしいドライバーになるだろう。
Speedzone Xtremeのロフト角は9度、10.5度、12度。A12.5度ジュニア用も販売される。
AMP Cell Proや、テーラーメイドM5 430、タイトリストM4に従い小さめサイズのドライバーが発売されるかどうかだが、期待しないほうがよさそうだ。「私達は利益を求める会社だ。」とコブラはいう。
Speedzoneドライバーはすべて3度のMyFly Loft 調節機能(両方向に1.5度ずつ)を搭載し、ニュートラル、+1度、-1度のドロー設定が可能だ。
重量(CGNA&MOI)
これら全てが重量の視点で語られているが、このチャートはさらに分かりやすく説明している。
初めてチャートを見る人に、MyGolfSPyの2019 CG・MOIレポートを読むことをすすめる。これを読めば、チャートの意味や、重視する理由が解るだろう。
2種類のシャフトレングス
上の重量チャートから、コブラはSZ TLドライバーも販売するようだ。モデルの種類というより、TLは「Tour Length」の略で標準シャフトより1インチ短い(45.5が44.5インチ)ことがポイントだ。グリップにはコブラ独自のコネクトセンサーが搭載されている。
短いシャフトでスイングウェイトを維持するには、ウェイトが必要不可欠だ。バランス維持のため、SZ TLは18gと6gのウェイト、SZ Xtreme TLは14gのウェイトが搭載される。
ヘッドにウェイトを追加すると、重心は低く底く(高打ち出し・低スピン)、さらに後方(高MOI)に押しやられる。
やさしさとコントロール性能を高めたい人には、SZ Xtreme TLをおすすめする。短めのシャフトが精度を高め、ウェイト追加によりMOI5700以上が実現する。
2色展開(メンズ用)
コブラお馴染みの黒と黄色に赤のアクセントがブランドを象徴している。もう少し落ち着いた色合いを好むゴルファー向けに、今回も他のカラーオプションが揃う。
昨年のオフホワイトアバランチに続き、マットブラック・ホワイトだ。もちろん、アクセントには赤が利かせてある。
レディース用はグロスブラック・ローズゴールドが用意される。
シャフト4モデル
Speedzoneにはあらゆる打ち出し角やスピン特性に対応するシャフトラインナップが用意される。もちろん、フィッティングは欠かせないが。新色ブラックペイントのUST Helium (L/R)は、主に高弾道・ミドルスピン向け。
三菱 Tensei AV Blue 65(R/S)は、中弾道・ミドルスピン。Project X HZRD US Smoke Yellow 60(S/XS)は中弾道・低スピン用だ。Aldila Rouge Silver 65の 110MSI(S/XS)は低い弾道、低スピンが特徴だ。
どちらも当てはまらない場合は、20種類以上のシャフトから無料で変更可能。
コブラコネクト搭載
従来どおり、アーコス協賛のコブラコネクトセンサーが無料でつく。
またコブラコネクト付きドライバーを購入した場合、他のクラブ用のセンサーを特別価格で購入できる。アーコスの年間使用料は、99.99ドル。
販売予定
私の予想ではSpeedzoneドライバーの人気に火が付くのは間違いない。
実際、読者の皆さんはすぐにでもSpeedzoneを試打したいと思っているはずだ。ここ数年、ドライバーの改革に取り組んできたのは、他でもないコブラだ。
メディア広告では語られないが、ウェイトの改善を通して性能の向上を図るという確固たる決断があった。
ツイストフェイスほど美しくはないが、資金力や多くのファンを抱えるメジャーブランドと同等、もしくはそれより優れる高性能ドライバーとして足並みをそろえるきっかけになるのではないか。
これだけ読めば、次の試打会でコブラSpeedzoneを試さない理由はないだろう。
コブラSpeedzoneドライバーの販売価格は450ドルと比較的手頃だ。タイトリストやピンより50ドル、キャロウェイより75ドル安い。テーラーメイドと比べると、100ドルも差がある。
無駄な出費を抑えたいなら、真剣にコブラを検討した方がいい。
SpeedzoneやSpeedzone Xtremeを含むすべてのSPEEDZONEドライバーは2020年1月17日より販売開始。
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