母親からの人生の教訓はいつだって凄くシンプルだった。「野菜を食べろ」「万一の備えをしろ」「外見だけで判断するな」。言い換えると「見た目でゴルフクラブを判断するな」だ。
本間ゴルフの「BERES(ベレス)」のように。
この日本メーカーの超高級品の見た目は…なんというか、かなりド派手。挑発的で上っ面がギラギラだ。24Kでプラチナをふんだんに使ったキラッキラのメタルウッドとアイアンで、価格は1セット6万ドル近くする。
「6万ドル」は誤字ではなくて本当だ。金持ちにとって「BERES」を持つということは、フェラーリに乗ったり、ロレックスのサブマリナーをつけることに匹敵するほど特別なことで、優雅さがある贅沢な遊びなのである。
とはいえ、性能の方はどうなのだろうか?金と貴金属の装飾がなかったとして、「BERES」は、実際にゴルフをより楽しくし、より良いショットを打たせてくれるのだろうか?肝心なのは、この見た目に合うだけの“中身“はあるのか?ということだ。
歴史を紐解こう
本間のクラブ創りは芸術だ。これは本間兄弟が1959年にブランドを立ち上げたときからの基本理念。当時のビジョンも、現在と変わることなく、「侍のために刀を作る日本の技術」に基づいている。刀の刃を熱し、折り返して、叩くというような、精密で手間と時間がかかる作業のことだ。
「BERES」はいわば「刀」である。
本間の中で最も経験を積んだ「匠(20年から30年の経験を持つ日本の職人)」によってのみ設計・製造されるこのシリーズは、世界で最も高級なゴルフクラブと位置付けられている。そのため、スポーツ界のセレブやハリウッドスター、王族、そして大統領たちが使うクラブとなっているのだ。
2016年に日本の安倍晋三元首相が、ドナルド・トランプ前大統領と会談した際に、約4,000ドルの本間「BERES S-05」ドライバーをプレゼントしたことでも記憶に新しいだろう。
適材適所
重要なポイントは、「BERES」がツアープレーヤーや上級者、あるいはヘッドスピードが平均かそれ以上のゴルファー向けのモデルではないということだ。
この手の層に対応しているのは「TR」シリーズ(2019年に本間と契約したジャスティン・ローズが使用した)と中級者向けの「Tour//World GS」で、「BERES」は「飛び」と「易しさ」を追求した製品なのだ。
初心者や初級者向けモデルと言っても良いが、ターゲット層は明らかにその傾向がある。
・ヘッドスピードが中程度から低めのプレーヤーや、落ちたヘッドスピードを取り戻したいシニアゴルファー
・アウトサイドインのスイング軌道でスライスする、ヘッドスピードが中程度から低めのプレーヤー
・スコアにこだわらずゴルフを楽しみたい、ヘッドスピードが中程度から低めのプレーヤー
それぞれの「スター」の意味
本間では「BERES」を見た目とシャフトテクノロジーのレベルに応じて「2スター」から「5スター」まで分類している。具体的に言うと、「4スター」と「5スター」モデルは、「2スター」「3スター」に比べてより多くのゴールドと宝飾があしらわれている。
また、本間独自の「ARMRQ(アーマック)」シャフトの素材も、スターの数字が大きくなるに従って、より魅力的でパフォーマンスが高く、そして高額でもある。「2スター」の「BERES」で6,000ドル程度。そして前述した通り、「5スター」は60,000ドルに及ぶ。
このモデルともなれば、(気化させたドイツ製の金粉による)金のペイントやアイアンには24Kのバッジ、24Kの金とプラチナのフェルール(つなぎ合わせる部品)と24Kの金のグリップマークなどが採用されている。
本間は、特に仕上げとシャフトにおいて、メタルウッドにも同様のスター分類をしている。しかし、「BERES」ウッドの見た目を超えるほどの素材や技術の違いはない。ドライバーのクラウンとソールには、「Ti-811チタン」を採用し余剰重量を削減。
これにより、「低重心化」が実現し、「低スピン」と「高打ち出し」を可能にしている。放射状にデザインされたフェースは、オフセンターヒット時の結果が向上(ボール初速がアップ)するように薄肉化。
ソールの前面と両サイドをグルっと囲むようにある「スピードスロット」により、「BERES」のフェースの柔軟性が出て、ヘッドスピードが遅くてもフェースがたわみ最大飛距離を実現してくれる。そして「バルジ&ロール」と呼ばれるフェースの湾曲によって、より直進性のある弾道を可能にしている。
※フェースの上下方向(縦方向)の曲がりを「ロール」、水平方向(横方向)の曲がりを「バルジ」という。
フェアウェイウッドとユーティリティのヘッドに採用されているのは「SUS630マレージング鋼」だ。
アイアンのヘッドも一緒
驚きはないが、「BERES」のアイアンヘッドはどのモデルも全く同じものが採用されている。驚いたのは、これらのアイアンのアドレス時の見え方だ。通常、初心者や初級者向けの鋳造アイアンのデザインは、トップラインが分厚く、ワイドソールでオフセットがあるものだが、このアイアンは違う。
「BERES」は全くもって無駄がない。かつてのホーガン「Radial」アイアンを思い出して欲しい。ワイドソールではあるが、そのヘッド形状はよりコンパクト。オフセットも小さく、トップラインも想像以上にかなり薄くなっている。間違いなく、みなさんが嫌な顔をすることはないだろう。ボディ自体は鍛造だ。薄い『3Dラップ・Lカップフェース』と(内部に2つ、外側に1つある)3つの『マキシマム・アクティブ・スピードスロット』により、さらにフェースがたわみ、ヒールとトゥ部分の低い部分に当たった時のボール初速が向上する。
また「超低重心」になっていることで、ヘッドスピードの遅いプレーヤーがもつ典型的な特性である浅い入射角にも対応している。
スピードアップのカギは「ARMRQ(アーマック)」
「BERES」のスピードアップのカギは、全体のデザインコンセプトのいくつかに焦点を絞っている。その中でも特に重要なのは本間独自の軽量「ARMRQ」シャフトだ。すべてのシャフトがそうであるように、このシャフトも曲がるし、ねじれるし、そしてたわんだりする。
だが、この「ARMRQ」が違うのは“元の形状に戻る早さ”なのだ。例えるなら、フェンシングの剣も同じ動きをしている。今回本間のエンジニア陣は、高強度で形状記憶性が高く、ねじれに強い素材を採用。
東レの「トレカ M40X」と高弾性の「T1100Gカーボンファイバー」をブレンドすることで、ワンランク上の複合素材を実現している。
実際、「ARMRQ」はミート率が高くなる設計となっている。このシャフトは、クラブのヘッドスピードとボール初速の向上に重きを置いており、高トルクの47g(R)と42g(A)の2種類がある。
軽量シャフトは柔らかいことが多いが、「ARMRQ」は、柔らかいということはなく安定性が抜群。中間部が柔らかく、グリップの上部15インチには『ハイブリッド・メタルアーマー』が配置されている。
これにより、クラブの重心がグリップ側に寄せられ、カウンターバランスとなっている一方でバット部分が非常に安定する。カウンターバランスにすることで、手元がしっかりと安定し、クラブ全体が軽く感じられヘッドスピードが遅いゴルファーがより速く振れるようになるのだ。
他に何かあるかって?シャフトは通常よりやや長めにカットされているが、バランスは同じ、ドライバーで「D0」か「D1」。女性向けドライバーは「C1」となっている。
「ARMRQ(アーマック)」におけるグレード分け
ご想像通り、「ARMRQ」シャフトは価格がアップするとパフォーマンス/飛距離、そして素材もよくなる。
以下で細かく見ていこう。
・「ARMRQ 2スター」:柔らかい中間部とバット部分のメタルハイブリッド7軸シートにより、安心してスイングができ、より安定したバックスイングが可能になる
・「ARMRQ 3スター」:ここから高強度「M40X」を採用。シャフトが変形して元に戻るまでが速く、シャフトのストレスを柔らかい中間部に押し下げる目的でバット部の剛性が増したことで、インパクト時のフィーリングが向上する
・「ARMRQ 4スター」:「3スター」と同じだが「4スター」はキックポイントが先調子になっておりヘッドスピードがアップする
・「ARMRQ 5スター」:高品質の「T1100G」を上から下までバイアス層にしていることで、シャフト全体のトルクが減少し、コントロール性と剛性が向上する一方、柔軟性をキープしたことで最大飛距離とバラつきの抑制を両立することができる
「BERES(ベレス)」の試打テスト
先入観にとらわれることなく、「BERES」を初体験してみると目からウロコだった。自分の弾道測定器の数値は大体わかっているので、変化は如実だった。
それは、「BERES」だとヘッドスピードが(少しのウォーミングアップで)簡単に0.89m/sから1.34m/sほどアップし、ドライバーで試打した「ARMRQ 2S」シャフトがいかに安定していて(スピン量がほぼ変化しない)「速い」。
そしてアイアンがストロングロフトなのに「高弾道」だったということ。7番アイアンはピッチングウェッジのような弾道で、かなり打ち出しが高いということが分かった。
その他のポイントは以下の通り。
・「BERES」ドライバーの打音は素晴らしくはなかったが、悪くもなかった。ただ私が慣れ親しんだものとは異なっていた
・超軽量モデルは、これまでにも複数のメーカーのモデルをテストしてきたが、パフォーマンスという点で目立ったものはなかった。しかし「BERES」は別。「ARMRQ」シャフトシリーズには、このモデルを買うだけの理由がある
・コンパクトなアイアンは、初心者や初級者向けというよりも中級者向けにマッチしている。全体的に非常に洗練されている
・「BERES」の軟鉄(8620)ウェッジシリーズのロフトは50度から60度で、ソールのグラインドは「I」と「C」、そして仕上げは「ブラックニッケル」と「ニッケルクローム」がある
将来を占う
「BERES」はアジアをはじめ世界各地で高い評価とシェアを獲得しているが、北米ではそうとは言えない。まだまだだ。3年前にカリフォルニア州カールスバッドに米国本社を設立するなど、消費者とブランド認知は進んでいるが、「BERES」は本間の「TR」シリーズや「T//World」に遅れをとっていた。
以来、本間はブランド戦略を何度か変更している。コロナ禍での新規ゴルファーや復帰組によるゴルフ業界の急成長に乗じて、幅広い層を対象としていることから、「BERES」のマーケティングとプロモーションを大幅に拡大している。
北米地区の新たなトップ
カールスバッドにある本間の新しい最高執行責任者(COO)は、ジニアン・ラニング氏。20年以上ブリヂストンゴルフに在籍した後、2021年6月に本間に入社。
彼女は、北米で「BERES」がブランド向上において重要な役割を果たすことで、本間には「ビッグチャンス」があると考えており、「本間は、最高の品質、優れたパフォーマンス、プレミアムデザインの製品を求めるゴルファーに、戦略的にそして直接訴求することで、今後3年間で飛躍的に成長できる」とコメントしている。
米国とカナダにおいて、オンコース、直販、強化されたオンラインのプラットフォームを通じて、それらを遂行するはずだ。また今後は、試打会や「BERES」の体験会も増えていくだろう。
「BERES(ベレス)」の体験をまとめると…
予測とは全く異なるものだった。超軽量クラブは、クラブに自分のスイングを合わせないといけないと感じていたので、これまでほとんどテストしたことがなかった。
しかし、「BERES 2スター」と「3スター」では、そうしたスイングにする必要がなかった。その理由は「ARMRQ」シャフトの安定性にある。本間が主張するように、軽量モデルとは思えない安定感だった。
「BERES 4スター」と「5スター」は、お金持ちで高級ロレックスやフェラーリを好む人たちに任せておくこととする。
しかし、「BERES」の見た目でわかる、非常に多くの機能がある。24Kの金や宝飾の仕上げはともかく、本間はプレミアムレベルの頂点かそれに相応しい製品を作り出しているということ。「BERES」の体験は、「外見で中身を判断するな」という人生の教訓を再確認させてくれた。
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