毎年のPGAショーで必ずする質問がある。「アメリカ市場を攻略しようともがいている日本のゴルフメーカーは?」と。今年、もしかしたら本間ゴルフがそのリストから抜けるかもしれない、と初めて感じた。

ヨネックス、エポン、フジモト、オノフ、フォーティーン、PRGR、その他多くの日本企業がアメリカ市場に進出した。ここアメリカで挑戦するには、固い決意とキャッシュが不可欠だ。

スリクソンや、ミズノ、ブリヂストンにはそれがあった。ミウラも、8AM Golfの傘下でニッチなプレミアムフォージドの展開を推し進めてきた。

これまで本間ゴルフを「ニッチな日本メーカー」扱いしてきたことは、少々謙虚過ぎたかもしれない。アメリカ在住アジア人をターゲットとした超プレミアムラインBERESは、特によく知られる存在だ。

本間ゴルフは2015年に上場し、アメリカでの成長が期待された。本間ゴルフは、他社と並びアメリカを攻略しようという動きに加わったのだ。

その後、5年の歳月とマネージメント体制を変えたことで、本間ゴルフは『アメリカ』という市場を理解し始めたようにみえる。実際、彼らに必要だったのは、「キャッシュ」と実行に移すための「3フェーズプラン」だった。

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フェーズ1:ビジョンを持った男

本間ゴルフの本格的な全米進出となる2017年は、大手ゴルフショップへの小売り展開からはじまる。棚を確保したものの、その年はそれで終わった。

1年後、本間ゴルフは明確なビジョンを持つある男を採用した。テーラーメイド前CEO、マーク・キング氏だ。彼は、「戦略アドバイザー」として会長の劉建国氏に引き抜かれた。

その当時、キング氏はこう述べている。劉会長が必要としていたのは、“ゴルフビジネス、さらにはアメリカ市場のゴルフビジネスをよく理解し、ブランド展開のノウハウを熟知している者”だったと。彼についてどう思おうが、彼のキャリアはまさにうってつけだ。

その後、キング氏は本間ゴルフを去りタコベルに移るが、後任には長年テーラーメイドの役員を務めたジョン・カワジャ氏にたすきが渡された。

「オーナーはグローバルプレーヤーを目指している。そのグローバルプレーヤーにアメリカでの成功が必要不可欠なのだ。」(カワジャ氏)

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本間ゴルフのアメリカマネージメントチームは、正真正銘、確かな目を持つ者ばかり。

カワジャ氏は11年間テーラーメイドにて指揮を執り、マーケティング部門統括責任者であるブラッド・ホルダー氏もまた長期に渡りテーラーメイドで手腕を発揮してきた人物だ。

グローバルプロダクト統括責任者のクリス・マッギンリー氏も、21年間タイトリストで経験を積んだベテラン選手であることは間違いない。

結論、本間ゴルフのアメリカ攻略フェーズ1とは?簡単な話だ。アメリカのゴルフ市場を熟知している者を雇い、彼らに任せること。そして、必要な資金を与えて仕事をしてもらうことだ。

アメリカのゴルファーを魅了する商品を彼らに開発させる。さらには大手ゴルフショップのセールスマンに頼らない、独自の供給モデルを作り上げることに尽きる。

 

フェーズ2:的確な商品ライン

日本のフォージングなんて聞くと、まるでテイラー・スウィフトのコンサートに来た少女のように興奮するゴルファーがアメリカにもいる。彼らは、エンドウゴルフという名を聞いても、まるで子犬のような反応をするゴルファー達だ。

なぜ、そんなことを知っているかって?ここでは伏せておこう。

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日本のゴルフメーカーの多くがアメリカ市場を攻略できない理由のひとつに、『商品』があがる。アジア人向けからアメリカの消費者向けにむりやり設計された商品自体が、彼らを窮地に追い込む結果になる。

「商品スペックがアメリカ人とは異なるプレーヤー向けに設計されていることが多い。主にヘッドスピードの遅い人や低身長向けだ。」(ブラッド・ホルダー氏)

「アメリカでビジネスになるのは、『プレミアム性能』を備えたクラブだ。上級者向けでも、中級者向けでも、この市場で“成功する商品“を作る必要がある。」とカワジャ氏。

そこで、本間ゴルフはマッギンリー氏を筆頭にUS設計チームを結成し、プレミアム性能を備えたクラブ開発を目指した。

彼ら本間アメリカチームは、酒田工場の設計チームと密に連携して働く。その成果として、今年1月、初のUSライン『TR20メタルウッド』と『TR20アイアン』を発売するに至った。

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「ブレードの長さや幅、トップラインの厚さ、いかにトップラインをホーゼルに溶け込ませるかなど、細部まで詰めることができた。驚くような知識や伝統を持つ日本の本間チームと協力し、その真髄を私達の知るアメリカ市場に紹介できたことは素晴らしい経験であった。」(マッギンリー氏)


 

ダブルリード

TR-20 460ドライバーは、2020年MyGolfSPyが行ったMost Wantedテストで総合4位(中級者向けXP-1は7位)という結果を残した。3位のテーラーメイドSIM MAX Dには僅差だったが、スリクソンZ785を上回るというビッグネームを巻き上るような結果に誰もが驚いた。さらに、ボールスピードに限っては、3位以内という好成績を残したのも印象深い。

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「この任務についてすぐに酒田工場を訪れたのだが、その時、本間ゴルフ独自の取り組みを私は目の当たりにすることになる。どのようにカーボンを使うか、どこに使うか、どのようにフレームに接着するかといった、彼らの着眼点は他とは少し違うものだった。その時、これはいいスタートが切れるぞと確信したんだ。」(マッギンリー氏)

「特に目を見張ったのが、彼らの『プロセス』だった。常識を覆すようなものだったよ。通常、設計に関してはカリフォルニアのカールスバッドで行い、それを酒田に送る。そして、匠と呼ばれる職人がミシシッピのパーシモンウッドを持ってきて、手作業で商品の模型を作る。それをCADに受け渡し、後は科学の力に任せるのが本間流プロセスだ。」(カワジャ氏)

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「Form(形式)」と 「Function(機能)」という観点で考えると、ゴルフ界ではそのバランスが変わることがある。「Function(機能)」より「Form(形式)」が先行する場合もあれば、「Form(形式)」より「Function(機能)」が勝る場合もある。ゴルフクラブにおいて、その両方を得るのは珍しいことだが、それこそが本間ゴルフが取り組み、目指すところだ。

「テーラーメイドが作るSIMは非常に美しいドライバーだ。新商品が出る度に、より革新的で斬新なシェープに進化している。本間ゴルフのドライバーをかまえた瞬間も、『美しい』の一言が出るはずだ。でも、本間のクラブはそれでは終わらない。さらにボールを打った瞬間に何が起こっているか分からないくらいの感動がある。」(カワジャ氏)

言い換えれば、「美しいルックス」と「優れた機能性」の両方が手に入るクラブというわけだ。

「私達は、それを『美しく丹念に作られた性能』と呼び、『美』という言葉が本間の商品には欠かせないのです。」

アートも重要だが、カワジャ氏とマッギンリー氏の両者はこう強調する。酒田チームの技術的なノウハウや非凡な才能に関しては、右に出るものはいないと。

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「1枚の絵から始まり、それを最高のノウハウや、技術、構成、設計テクニックで仕上げる。打ち出しの最適化に必要なクラウンを薄く仕上げる方法や、ウェイト配分を私達は熟知している。他の企業も同じことを追求しているが、職人の手作業から始めるメーカーがいくつ存在するだろうか。」(カワジャ氏)

 

フェーズ3:小売りのカラクリ

アメリカを攻略するには、基本を理解しなければならない。大阪で売れるものが、必ずしもネブラスカ州オマハで売れるとは限らない。西洋の顧客に合わせた商品開発はもちろん、マーケティングメッセージや販売チャンネルなども西洋仕様に順応させる必要がある。

日本のゴルフ界は、ブランド・ロイヤリティが浸透している。ブランドは独自の直販店舗を持っていて、独自のブランド展開をする。商品ラインは幅広く、商品名だけでなく、ブランドネームによって認知されるのが特徴だ。

男性用アパレルから女性用ゴルフウェア、帽子、バッグ、ゴルフシューズに至るまで、ブランドが非常に重要で、売上につながる要因にもなる。もはや、ゴルフというよりライフスタイル業界といっても過言ではない。

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ここアメリカでは、大手ゴルフショップが牛耳る。『ブランド』への親近感はあるかもしれないが、人気『商品』がマーケットを動かす世界だ。本間ゴルフも、全米の大手小売店への展開を試みたが、残念ながら、大きな動きをみせなかった。

「無名のブランドが直面する現実だ。PGA TOUR SuperstoreやGolf Galaxyなどのゴルフショップに行けば、本間ゴルフの認知度は決して高くない。多分、試打席に持っていってもらえるドライバーでもなければ、セールスマンがお薦めするドライバーでもないだろう。」(カワジャ氏)

その対抗策として、本間ゴルフは多様な販売チャンネルを使い、「プレミアムな体験」をアメリカで築こうとしている。例えば、カリフォルニア州サンタアナのRoger Dunnでは、本間ゴルフのショップインショップがある。

これは、新作TR-20から75,000ドルの光輝くBERESアイアンセットまですべてを陳列したフィッティングギャラリーだ。また、昨年の秋にはカールスバッドに「ホンマハウス」をオープンさせた。この施設は、アメリカにおける本社機能とカスタムセンターや、小売店、フィッティングスタジオも兼ねている。

さらに、オーランドのリユニオン・ゴルフリゾートとハワイのコオリナ・ゴルフクラブに「ホンマ・エクスペリエンス・フィッティングセンター」を、ブリティッシュコロンビアのビクトリアに「ゴルフ・パフォーマンス・プロジェクト」を設立。

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「アメリカ各地で本間のクラブを体験してもらうため、ハイレベルで、顧客ひとりひとりに合わせた1対1のフィッティングサービスを提供している。全米に自社ブランドストアをオープンさせることなく、限りなくプレミアムな体験、コンシェルジュのようなサービスをゴルファーに提供したいと考えている。」とホルダー氏。

今年1月、本間ゴルフは市場開拓戦略の要を立ち上げた。すべてを兼ね備えた移動式艦隊、「モバイル・フィッティング・バン」だ。

 

モバイル・フィッティング・バンへの挑戦

「私達の主な流通戦略は、プロとのパートナーシップを作り上げることだ。それとは別の方法で、1対1のフィッティング体験を一般顧客に提供したいと考えている。彼らの手にぴったり合うクラブを提供し、ゴルファー個人と直接的な関係を築いていきたい。」(カワジャ氏)

モバイル・フィッティング・バンプログラムは1月から全米9つの主要マーケット地域にて開始した。各バンにはフィッティングに必要なすべてが常備されていて、フィッティング経験のあるエリアマネジャーが配置される。

昨今のコロナウィルスの影響はあるが、誰もがセッションを予約することができる、という優れたコンセプトだ。フィッター自身がバンを運転して、あなたの近くまで来てくれる。

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単なる「デモ(試打会)」のようなものと思ったあなたは間違いだ。トラックマンを使用した1対1の本格的なアウトドアフィッティングだ。

「実際は、フィッターは2、3人の予約を取る。彼らが満足いくフィッティング体験を提供し、私達がフィッティングしたクラブを作りお客様の元にお送りする仕組みだ。ツアープロにクラブを、特にトップメーカー4社以外のクラブを持って行ってもあまり興味を持ってもらえないのは分かっている。だから、コミッション制でフィッターを雇用しているんだ。」

MyGolfSPyのコミュニティーフォーラムのメンバーである、ポール・ケールワッサーはルイジアナ州でこのフィッティングを体験した。最終的に、彼にはTR-20ドライバーがフィットした。

「インスタグラムの投稿を見て、個人的にフィッティング依頼をしたんだ。すぐに返事がきて、ロビー・トラウトとのフィッティングを設定してもらった。彼に1対1でフィッティングをしてもらったよ。」

ポールは以前、フィッティングでEpic Sub Zeroを選んだが、TR-20を使ってみたらボールスピードや、キャリー、方向性もより良くなったという。もちろん、ラウンドでも結果が出ているそうだ。

シャフトは、有料オプションの中からVentus Blackをチョイス。ポール曰く、フィッターが無理やり売りつけるようなことは一切なかったそうだ。

「ロビーは、オリジナルシャフトも試打させてくれて、僕に一番合う望むシャフトを選ぼうとしてくれた。決して、売りつけるようなことはしなかったし、本当にこのシャフトがいいのか僕の希望を何度も聞いてくれて、最終的には自分で決めたよ。」とポール。

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本間ゴルフは、今後さらに5つのエリアを追加する予定だ。目標は、6月中旬までに14台のバンを用意することだという。

「モバイルフィッティングに最適な場所は25-30あると考えている。本間独自のフィッティング体験を通して、ゴルファーに最高のフィッティングを提供することに全力をあげている。自分に合ったクラブを使ってもらい、生涯の本間ファンになってもらいたいと願う。」(カワジャ氏)

 

フェース4は来るのか?

本間ゴルフの歴史は1959年までさかのぼる。長年、最上級のパーシモンウッドと初のフォージング技術でその名が知られるが、本間ゴルフに限らず、すべての日本のゴルフメーカーが90年代中盤に厳しい時代を過ごした。

2005年に本間ゴルフは倒産を経験している。そこで、中国人投資家の劉氏が倒産から4年後に本間ゴルフを買い取り、すぐに状況は変化した。

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2016年には株式を公開。いくつかの障害を乗り越え、ホンマの財政は安定し売上2億6千億ドル、3千8百億ドルの利益を出す企業に成長した。どの業界のどんな会社でも利益率のためなら何でもするだろう。不思議なことに、日本の職人技は代えがたい価値があるのに、小売用に作られるアイアンはフォージドではない。

「日本にも、鍛造工場はある。ツアー向けの商品は日本で作っていて、すべての設計作業は日本で行なわれている。一方酒田では手作業による工程や、設計を行い、実際の製造は日本国外で行われる。」

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本間ゴルフにとって、ツアーは欠かすことのできない重要な取り組みだが、ジャスティン・ローズを抜きにしては語れない。ジャスティン・ローズは単にクラブが気に入らなかったから本間との契約を終了したのか?

それではあまりにも簡単なストーリーになってしまうが、ローズが密接に設計や試打にかかわっていたことを考えると、真実はわからない。

時にプロがメーカーを切ることもあれば、メーカーがプロを切る場合もある。それが、道具が要因になることもあれば、そうでないこともある。さらに、妥協できない相違によって、別々の道を選ぶこともある。この場合は、互いの合意のもとだ。

本間ゴルフによると、無契約でも本間のクラブを使っているプロがいるという。聞いたことのある選手もいるし、最近のメジャーを勝ち取ったプロもいるが、言えることは、彼らはみな徹底的に試打を行った上で選んでいる。

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本間ゴルフは何者になるのか?

核心をついた質問だ。つまり、「本間ゴルフがアメリカ市場に入り込める隙間はあるのか?」ということ。

これは実際、小規模ブランドが抱える現実だと思う。もし、完全に従来の小売りに頼っていたら、小規模からは抜け出せない。現状は行き詰るはずだ。しかし、これまで本間ゴルフの教えは明確だ。「成長すること。しかも急速な成長を」だ。

「日本のゴルフメーカーの中で、最も成功したのはミズノだ。彼らは、アイアンの王様だと思う。本間ゴルフが目指すのはそれだ。安定的に成功しているミズノにはリスペクトを抱いている。」(カワジャ氏)

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しかし、カワジャ氏の目標はミズノを超えること。彼は、将来アメリカでの売上が8000万ドルから1億ドルに到達すると確信する。

「ビッグ4には届かないが、世界的にみれば2.6億ドルのゴルフメーカーとなる。数字的にはコブラより大きい。あまり知られていなくても、これが事実なんだ。」

本間ゴルフの3フェーズプランは紛れもなく特異で大胆だった。「間違いを恐れず、チャンスを掴む」文化を作りだした劉氏が、日本ジャパンタイムスにこれらの取り組みについて自ら話したという。

「本間ゴルフ独自の作戦が差別化を生む。ゴルファーは永遠にポジティブな人達だ。プレーに役立つ新しいことを常に求めている。本間というブランドに対して新しい印象を持ってもらい、大手ゴルフメーカーとは一味違う関係を顧客と築きたいと思っている。」とカワジャ氏は述べた。