三菱ケミカルが約6年ぶりに新シャフトシリーズを発表した。シリーズ名の「KAI’LI (カイリ)」は、果て無く続く潮の満ち引きと波のうねりのような「深い力」を連想させる。
もうちょっと突っ込んで言うなら、「まだ見ぬ先にある青い海と同じような予測可能な力」とでも言えるかも知れない。何年も三菱ケミカルのシャフトを見てきた人なら、「KAI’LI」は慣れ親しんだ言葉のはず。
10年以上も前のこと、この「KAI’LI」は「ディアマナ」シリーズの「青マナ(中弾道/中スピン)」のモデル名だった。
今回の「KAI’LI」は前作とは全く異なるシャフトだが、お気づきのようにネーミングは全く同じ。ヒップホップグループの「Run-D.M.C.」が「bad」を「サイアク」ではなく「サイコー」という意味で使ったのに似ている。
それはそうと、これは三菱ケミカルにとってかなり重要発表といえる。同社の「Tensei(テンセイ)」シリーズが発表されたのは2015年後半。
そして、同社は基本的にPGAツアーの「週間シャフトランキング」で上位2位に入るトップブランドにも関わらず、「おたくは僕のために、最近どんなシャフトを開発してくれたの?」などと言われるのがシャフトビジネスだ。
「KAI’LI(カイリ)」の設計の目的
あらゆる商品は、なにがしかの“問題の解決策”である。言い換えれば、既存の問題に対するより良い答えをゴルファーに提供する場だ。今回の場合、設計の目的は2つあった。
まず、現在のツアープレーヤーの基準を満たす「ロートルク」のシャフトを作ること。つまり、昨今の競技アマチュアとプロは、より運動能力が高くスイングがメチャクチャ速いということだ。
2つ目は、「安定性」と「フィーリング」の間に時折存在する“機会費用”に対応することにある。要するに、「剛性」が非常に高いシャフトを作るのは容易だが、“鉄筋”のようなフィーリングにすること無く必要な「強度」を生み出すのはかなり面倒な作業なのである。
シャフト業界あるあるがこれ。シリーズにおいて、カラーリングに意味を持たせるケース。具体的には、「弾道/スピン」の特性をカラーであらわすことだ。
初代「ディアマナ」のシリーズを振り返ると、「白マナ」は「低弾道/低スピン」。「青マナ」は「中弾道/中スピン」、「赤マナ」は「中高弾道/高スピン」となっている。だいたいこんな感じ。
そんな中で、「KAI’LI」シャフト(KAI’LIホワイト)は、予想通り「低弾道/低スピン」が特徴だ。
しかしそれだけではない。理想のフィーリングを実現するため、三菱ケミカルは「青マナ」の特徴であるバット部分をテーパー(シャフトの手元から先端に向けてシャフト径を細くすること)にしている。
これを簡単に表現するなら、新しい「KAI’LIホワイト」は、「青マナ」のフィーリングと「白マナ」のパフォーマンスを併せ持つシャフトということだ。
近年、この分野では競合他社が成功を収めているため、三菱ケミカルは最新テクノロジーを搭載した“要“となる製品を必要としていた。
そして、いち早く使い始めるプレーヤーの出現が良い前触れであるなら、ダニー・ウェレットがダンヒル・リンクス選手権で「KAI’LIホワイト」を使い優勝したことは順調な滑り出しと言えるだろう。
細かいこと
三菱は基本的に「素材」の会社だ。つまり、シャフトを構成する複合材となる「原材料」を生み出している。もっと言えば、同社の多くの競合も、同社の材料を活用している。
今回の場合、採用している素材は「高強度」、「低樹脂プリプレグ」の「MR70」となっている。
三菱の「KAI’LIホワイト」は、同社史上最強の「チップ(先端部)」が特徴だ。これにより、「ロートルク」かつ安定した性能を実現している。そして、「樹脂含有率20%」となっているようだが、一般のゴルファーにとっては「だから何?」って話。
というわけで、本題はここからだ。
強烈なパワーに耐えられる設計のシャフトを作ることは簡単だ。難しいのは、求める性能を実現しつつ、望ましいフィーリングをあるキープしながら軽量化することだ。さらにコストもかかる。
そして、軽量で高剛性の素材は比較的高価。しかし、大幅にウェイトを増やすことなくシャフトの特定部位を補強するためには、こうした素材が必要になるというわけだ。
テーパーされたバット部
シャフトのバット部分(グリップエンド側の末端)の「パラレル」と「テーパー」の違いは、ご想像通りだ。一方は、シャフトの手元部分の直径が一定になっているもの(パラレル)。もう一つは、徐々に直径が細くなっていく(テーパー)。
それはさておき、三菱がバット部分に「テーパー」を採用した理由については、よくよく検証してみる価値があるだろう。「フィーリング」は本来、主観的なもの。「良い」「悪い」という基準がないので、ゴルファーは定量化可能な異なるシャフト構造を好む傾向がある。
三菱の場合、インパクト時に起こる「振動」に対応している。フィーリングを良くするとは、「振動」を完全になくすことではない。必要な「振動」だけを、最適な周波数で伝えることにある。三菱によれば、これこそがバットデザインにテーパーを取り入れた機能面での目的だという。
全ては「グッド・バイブレーション」にあるということ。ビーチ・ボーイズを思い出しても良い。あるいは、映画「俺は飛ばし屋/プロゴルファー・ギル」でケビン・ニーロンが演じたゲイリー・ポッターの「悪いことは考えず、良いエネルギーを使え」が一番合っている。
ちょっと付け足すと
三菱は、プロツアーや一般消費者向けの小売環境においてもシャフト業界のリーダー的存在だ。そうした状況を考えると、フジクラの「VENTUS(ヴェンタス)」のような競合シャフトに対抗する強力な一撃が必要だった。
別に、「Tensei 1K Pro White(テンセイ1Kプロ ホワイト)」、「AV RAW」、そして「CK Pro White」のような「低弾道/低スピン系」シャフトが高性能ではないというわけではない。
しかし、技術革新は進んでいくものだし、シャフトメーカーがそれをユーザーに伝え続けていくのであれば、メーカーにはその“証拠”を示す義務というものがある。
それ以上に、三菱による「KAI’LIホワイト」のテストにおける特徴の説明を見ると、私が「Ventus Black 6X(ヴェンタス ブラック6X)」で体験したことと非常に似ていたのだ。
「芯で捉えられるようになる」、「相対的スピン量の減少」、さらに「バラつきの少なさ」というフレーズは、三菱が、なぜ「VENTUS」のような特定のシャフトが人気となっているかを理解していることを示している。
また、そうしたフレーズのいくつかは、シンプルながら漠然としたシャフト用語でもある。
それでも三菱は、「KAI’LI」シリーズで、最先端素材とデザインを活用し、より「パワー」があり「スピード」があるプレーヤーに向けたシャフトを作ろうとしているように見える。
もしそうなら、これから楽しみになりそうだ。
「KAI’LIホワイト」の価格と発売時期
三菱の「KAI’LIホワイト」は2022年初頭に発売予定。ラインナップは60(R、S、X、TX)、70(S、X、TX)、そして80(X、TX)を予定している。
メーカー希望小売価格は300ドル。
Leave a Comment