「『HOT METAL(ホットメタル)』はモンスターになった」。こう語るのは、ミズノの米国ゴルフプラダクト&マーケティングマネージャーのクリス・ボーシャル氏だ。

ミズノにとって今回の「HOT METAL」シリーズの登場には大きな意味があるが、物事を大局的に見るために、まずは時を巻き戻そう。

ミズノは、「上級者(競技志向者)向け」アイアンの分野では優れた能力を発揮したにも関わらず、「初・中級者(スコア改善)向け」の分野では相手にされなかった。

その証拠として…。

証拠A

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「HOT METAL」が発売された2017年、販売実績における市場シェアは3.51%だったが、リリースごとに着実にそのシェアは拡大している。

そして2020年になると、ミズノはアイアン市場で8.5%以上のシェアを占めるほどに成長し、さらに、2023年には市場シェアが12.5%にまで拡大。内訳としては9.71%が「JPX」によるもので、そのほとんど(市場シェアで言うと7.19%)が「HOT METAL」だった。

この数値を見る限り、ミズノのアイアン販売量は「HOT METAL」がほぼ全てを占めていたということになる。


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しかしこうした成功を収めているが、JPX「HOT METAL」は、「初・中級者向け」分野ではやや例外的な存在だと言わざるを得ないだろう。

それは、このカテゴリーのアイアンのほとんどがストロングロフトで、様々な素材と充填材などを詰め込んだ、あからさまにハイテク盛り盛りのデザインだからだ。

逆に、ミズノはロフトに関してはより敏感(ウィークロフトを最初に採用したのはJPX 923「HOT METAL HL」)で、「HOT METAL」が市場の多くの製品に対して性能面で差別化されおり、競合他社がデザイン強化に利用していた手法をミズノは一切使わなかった。

他社がマルチピースや複合素材のデザインを採用していたのに対し、ミズノのJPX「HOT METAL」は完全にシングルピースだったのだ。

しかし、「JPX 925 HOT METAL」で変化が訪れた。


ミズノ「JPX 925 HOT METAL」シリーズ3モデル

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「JPX 923」シリーズ同様、ミズノは「JPX 925 HOT METAL」でも3モデルをラインナップしている。

中心的モデルとなる「JPX 925 HOT METAL」、より上級者向けの「JPX 925 HOT METAL PRO」、そしてより「寛容性」が高くヘッドスピードが遅い方でもスイングしやすい「JPX 925 HOT METAL HL」だ。

前回と同じように、今回の3モデルも搭載している基本的な「テクノロジー」、「素材」、「構造」は同じ。つまり、どれかに当てはまるものは、3モデル全てにも当てはまるということ。違いはヘッドサイズとスペック(長さ、ロフト角など)だけとなる。


「JPX 925 HOT METAL」で見えること

「JPX 925 HOT METAL」の特徴として、フェース全体での「一貫性(寛容性)」の向上、センターに当たった際の初速アップ、そして高打ち出しが挙げられる。

では、ミズノが同社の売れ筋アイアンシリーズのパフォーマンスを向上させるために行ったことを見てみよう。


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新コアテック

簡単におさらいしておくと、『コアテック』はミズノのフェーステクノロジーのことで、フェースの大部分でより初速アップさせるという業界共通の目標を実現したものだ。

みなさんも、ミズノが「JPX 923」でヘッド素材に高初速素材の「ニッケルクロムモリブデン鋼」を初めて採用したことは覚えているだろう。新素材に関する暗黙の了解は、工学技術に対して保守的な手法を取ることであり、ボーシャル氏は「高くなり過ぎないことも考慮しつつパフォーマンスを最大化した」と言う。

特に気にしていたのは、ボーシャル氏曰く「JPX 923」の「HOT METAL」フェース下のヒンジ部分だ。慎重に慎重を重ね、ミズノはこの部分を必要以上に、あるいは理想より厚くしたが、結果としていくらかの性能を蔑ろになした。

しかし「JPX 923」の発売から2年経った今、ミズノは「ニッケルクロムモリブデン鋼」に高い信頼を置いており、この素材をより積極的に活用できると考えているようだ。

この自信は、『可変厚フェース』設計で採用した 新手法で見て取れる。新フェースの形状は、ミズノが“フレックスゾーン”と呼ぶ厚さわずか1.2mmの肉厚設計がそれだ。前作フェースの同等部分は1.7mmで、この周辺部分も薄くなっている。


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フェースデザインのセオリーは、”薄いほど初速アップする”ということ。薄肉フェースは、大きなトランポリンのように作用し、一般的にボール初速がアップする。ミズノではスイートエリアと周辺部分の両方を薄くすることで速さを出しているわけだ。

「可変厚」のコンセプトはソールにも組み込まれている。「JPX 923 HOT METAL」に比べて、肉厚部分は必要な部分が強くなり、薄肉部分はフェース下部の性能が向上している。

この点で「ニッケルクロムモリブデン鋼」なら、何も補強しなくてもフェースの強度を向上させることが可能。つまり、破損防止のために、ストレスがかかるエリアに過度な厚みを持たせる必要がないということ。

これらは全て、大きな目的の一つであるフェース上の可能な限りの部分で「COR」をピーク(あるいは少なくともそれに近い値)にするため。ミズノのデータによると、新「HOT METAL」と新「HOT METAL HL」はこれが業界最高レベルのようで、USGAからの注意文書もそれを裏付けているらしい。

なお、3モデル中でも「HOT METAL PRO」はやや例外。初速は十分だが、フェースが小さいためスイートエリアがそこまで大きくない。

フェースが大きいということは、トランポリン効果も大きいということだ。


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(隠れた)タングステン

確かにタングステンについて伝えるべきだが、タングステン自体は通常、それほど注目に値するものではない。何よりタングステンを積極的に目立たせたいのは、私ではなくてメーカーの方。ヘッドに“タングステン”と刻印するチャンスは絶対に逃したくないようにみえる。

これはタングステンを使用する場合、誰もが見える場所にそれを刻印しなければならないというライセンス問題のような気さえするほどだ。

まあ、それは良いとして…

ヘッドをできるだけすっきり見せるために、どこにもタングステンと入れないことにしているミズノの手法は他とは違っているが、タングステンが採用されていることは間違いない。

ただこれでは、「JPX 925」の4番から7番アイアンの特徴が内部にあるタングステンウエイトであることを伝えるにはまだ不十分だろう。


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ミズノのタングステン搭載の効果により、重心が低く後部ではなく、明らかに低めで前方になる。「HOT METAL」の哲学の通り、ミズノではスピンを常識以上に減らさず打ち出しを上げるようとしているのだ。

そしてその目的が扱いやすさであることも変わらない。

またタングステンを追加することで、ミズノでは他のメリットも実現している。まず、慣性モーメント(MOI)が向上。また、タングステンウエイトにより重心がホーゼル側(センター近く)に近づくので、新しい「HOT METAL」のヘッドが返りやすくなっている。

これを他モデルと比べややドローバイアスとしたければ、多分それでも問題はないはずだ。


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左から「JPX 925 HOT METAL PRO」「JPX 925 HOT METAL」「JPX 925 HOT METAL HL」


向上した打感


ミズノでは同社鋳造モデルであっても「打感」を大切にしている。ゆえに、“ミズノのような「打感」は真似できない”が同社鍛造シリーズの元になっている一方、「JPX HOT METAL」の「打感」がカチカチしているのはダメ。

同時に、ミズノは「HOT METAL」の「打感」を完全に抑えるために充填材を注入してもいない。

「打感」に関して言うと、我々の経験では、大部分がヘッドの表面形状に帰着する。「JPX 925 HOT METAL」の場合、「打音」をチューニングするための支持構造の配置を指す。

具体的に言うと、ミズノでは、剛性をもたらすトップラインに沿って並ぶ「サラウンドリブ」と、バックキャビティの中央を走る「サラウンドバー」を採用している。


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我々は、「打感」の科学について以前も取り上げたことがあるが、基本的な考え方としては、適切な間隔で適切な周波数にすることができれば、ゴルファーは自身のアイアンの「打音」と「打感」を好きと言うはずだ。

具体的な数値を言うと、ミズノの場合、6,000から9,000Hzの周波数内で音圧をコントロールしている。

これはミズノが新しい「JPX HOT METAL」は以前のモデルよりも、「打感」がさらにソリッドで反発も大きく軽くは感じないと言っていることだろう。


見た目

ミズノ「JPX 925 HOT METAL」の3モデルは全てすっきりとした見た目をしている。色をたくさん使った華美なキャビティバッジもない。刻印も最小限で、キャビティバッジの隅に小さなカラースプラッシュがあるというのが、ここで言いたい変更点だ。

スタンダードな「HOT METAL」はホワイト、「HOT METAL PRO」はブラックで「「HOT METAL HL」はブルーのアクセントがついている。

こうする意図は、キラキラにしたいからではない。フィッティング中にフィッターがヘッドを見つけて引っ張り出すのを少しでも簡単にしたかっただけだ。


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ミズノ「JPX925 HOT METAL」のスペック変更

2025年モデルにおいて、ミズノは「HOT METAL」シリーズを通じていくつかのスペック変更を行なっている。


ストロングロフト化

「JPX925 HOT METAL」では、9番アイアンとPWのロフト角が0.5度ストロングになっている。「HOT METAL PRO」だと7番からGWまでが0.5度ストロングに。これは厳密に言うとロフト変更ではないだろうが、「HOT METAL HL」では4番アイアンが加わり、LWがなくなった。

この変更により、「HOT METAL」が業界標準のロフト角として大体通じるようになっている。


さらなるアップライト化

同様に、ミズノでは標準のライ角を、全体を通じて0.5度アップライトにしているが、アイアンも同じく0.5度アップライトになっている。これでも大抵のモデルよりはややフラットだ。

「HOT METAL」は好きなように調整できるので、これはそこまで大切なことではない。


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長めの設定*

カタログを見ると、「JPX925 HOT METAL」アイアンシリーズはこれまでのモデルより1/4インチ長くなっているが、実際の長さは変わらない。

ゴルフ用品業界にけるおかしなことの一つとして、独自の物差しが珍しくなく、それ故、みんなが同じ方法で測定しているわけではないということが挙げられる。

以前のミズノは、独自方法で測定していたが、「JPX925」ではUSGAの方法で測定しているので、実際の長さは変わらないものの公表されている数値は変更されているのだ。

例外はウェッジで、実際のところ「JPX925 HOT METAL」はやや短くなっている。


ウェッジといえば…

ミズノはこれまでの「HOT METAL」において、ウェッジに共通アプローチを採用していた。「HOT METAL」ウェッジのデザインは一つで、それぞれのモデルを(ある程度)差別化していた。

しかし今回は「HOT METAL」と「HOT METAL HL」で別のウェッジにしている。これで、セッティングにマッチしたウェッジを好む人が、スムーズな流れで組み合わせることができるはずだ。


「JPX925 FLI-HI」ユーティリティ

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さらにクラブに助けてもらいたいゴルファー、特にロングアイアンを使用しているゴルファーには、「JPX925 FLI-HI」ユーティリティがロングアイアンの代わりとなる。前回同様、価格は入れ換えようとしているアイアンと同じだ。

「FLI-HI」ユーティリティは、同一条件で代替できるようにデザインされており、基本的には「HOT METAL」のアイアンセットと同じシャフトを装着することができる(ただし、希望すれば別のシャフトにすることも可能)。


プログレッシブ形状

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「JPX925 FLI-HI」ユーティリティで前作までと最も変わったことは、上から見た時の形だろう。このシリーズは、より流れるようなデザインになっており、ロフト角が大きくなるにつれて、前部から後部の幅が徐々にコンパクトになっている。これにより、不必要に大きなヘッドにすることを避けるだけでなく、「FLI-HI」のスピン特性を代替対象のアイアンに近づけるようにしている。


「スピードべベルソール」

「JPX925 FLI-HI」ユーティリティでは、ミズノ曰く『スピードべベルソール』が採用されている。バウンスが作られるようにリーディングエッジの形状が調整されており、クラブの芝の抜けが良くなっているのだ。

別の言い方をすると、『スピードべベルソール』により、「FLI-HI」ユーティリティは、アイアンショットに関連するマイナスの入射角に対しても使いやすくなっている。


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改良された「ウエーブテクノロジーソール」

各メーカーには、メタルウッドでフェース下部に当たったときの初速を向上させるテクノロジーがある。「FLI-HI」だと『ウエーブテクノロジーソール』のこと。ミズノは「JPX925 FLI-HI」において、『ウエーブテクノロジーソール』のパフォーマンスを向上させ、フェース下部に当たった時でも初速をキープできるようにした。

そして最後に、アドレスでボールに対して構えやすくするために、スコアラインの見た目も少し変えている。


「JPX925 FLI-HI」のオプション

「JPX925 FLI-HI」ユーティリティのロフト角は、19度、22度、25度、そして28度となっている。

代替となるアイアンは、どの「HOT METAL」アイアンを使用しているかによるが、4番から7番アイアンの代替オプションと考えると良いだろう。こうすることで、「FLI-HI」をセットに組み込むだけの十分な柔軟性も確保できるし、大金を払う必要もない。


ミズノ「JPX925 HOT METAL」「FLI-HI」のスペック・価格・発売時期

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<日本発売モデルのスペック・価格・発売日>


◆「JPX 925 HOT METAL HL」アイアン 5本組(No.6~9、PW)

シャフト: 22 MFUSION I カーボンシャフト(R/51g)

価格:¥121,000(税込)


「JPX 925 HOT METAL」アイアン 5本組(No.6~9、PW)

シャフト:「N.S.PRO 950GH neo」 軽量スチールシャフト(S/98g、R/94.5g)

価格:¥115,500(税込)


「JPX 925 HOT METAL PRO」アイアン 5本組(No.6~9、PW)

シャフト:「N.S.PRO 950GH neo」 軽量スチールシャフト(S/98g)

価格:¥115,500(税込)


「JPX925 FLI-HI」ユーティリティ

シャフト:N.S PRO 850GH neo 軽量スチールシャフト(S/88g)

価格:単品 ¥23,100(税込)


発売日:2025年春夏


各モデルの詳細はこちら、ミズノ「JPX 925 HOT METAL」アイアンシリーズ


※下記はアメリカのスペック情報

「JPX925 HOT METAL」の純正シャフトは日本シャフトの「NS Pro 950 NEO(スチールシャフト)」とUST「Recoil Dart ESX(カーボンシャフト)」。グリップはラムキンの「UT+」が装着されている。

「JPX925 HOT METAL PRO」の純正シャフトは「ダイナミックゴールド 105(スチールシャフト)」と三菱ケミカル「MMT(カーボンシャフト)」で、純正グリップはラムキンの「UTX+(コード入り)」だ。

「JPX925 HOT METAL HL」の純正シャフトは「ダイナミックゴールド 95(スチールシャフト)」とUST「Recoil Dart ESX(カーボンシャフト)」。純正グリップはラムキンの「UT+」となっている。

そして「JPX925 FLI-HI」は、多くのゴルファーがアイアンシャフトにマッチするシャフトを選ぶことが想定されるが、純正シャフトはUST「Recoil Dart ESX」となっており、純正グリップはラムキンの「UT+」となっている。

「JPX925 HOT METAL」アイアンの右打ち用と左打ち用がラインナップ。「JPX925 FLI-HI」のレフティモデルはロフト角が19度と22度のみとなっている。


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「JPX925 HOT METAL」シリーズ(「FLI-HI」も含む)の小売価格は1本150ドル。

先行販売は9月5日からで、店頭販売は9月19日にスタートする。