PINGの新しい「i530」アイアンと、その仲間となる新しい「G730」で、PINGの2024年アイアンラインアップはほぼ出揃ったと言える。
すでにPINGの「G430Max 10K」ドライバーや「ブループリント」アイアン、さらに多くあるパターの新モデルに加え、まさに“PINGの大量出品“という感じ。
新しい「i530」アイアンは、PINGの「上級者(競技志向者)向け飛び系」アイアンの出だしとなった「i525」アイアン(発売から2年)の後継版。「i525」と比べこの「i530」はさらにコンパクトになっており、ほぼブレードアイアンのようなルックス。
もしあなたが“反ストロングロフト派”の一員なら、このPING「i530」アイアンにもやかましく言いたくなるはず。
だが、あなたがもう少し飛ばしたいそれなりのボールストライカーかもしれないし、あるいは昔の飛びを取り戻したいゴルファーかもしれない。だとすると、このPING「i530」アイアンはあなたを笑顔にしてくれる可能性がある。
PING「i530」アイアン:コンパクト形状の上級者(競技志向者)向け飛び系
「上級者(競技志向者)向け飛び系」アイアンには、注目すべき特徴がいくつかある。まず、このカテゴリーのアイアンは、厳密に「上級者(競技志向者)向け」アイアンではないが、「初・中級者(スコア改善型)向け」でもない。
「中級者」を卒業したけど“最高潮の手前”にいるプレーヤーに適している。また、全盛期を過ぎたもののかつての優れた「ボールストライカー」にも適している。彼らは飛距離を取り戻したいだろうからね。「上級者向け飛び系」アイアンは、一般的に「初・中級者向け」アイアンよりもコンパクトだが、「上級者向け」キャビティアイアンよりも大きく、オフセットもややついている傾向にある。
また、基本的に複合素材の中空構造で、フェースのたわみを向上させるテクノロジーをいくつも搭載されている。さらに毎度ではないが、「打音」や「打感」を改善するため中空ボディの内部の消音材が搭載されることや、鍛造フェースもマルチピース(複合)構造の一部として採用される場合もある。ロフト角は「上級者向け」アイアンよりもストロングだが、「初・中級者向け」アイアンよりもウィーク(寝ている)だ。
厳密に言うと「i530」アイアンは、PINGのトレンドの一部。カーステンが、初めて方眼紙に鉛筆で「1A」パターをデザインしてからというもの、PINGは形状を気にせず、機能ファーストの設計哲学を掲げてきた。
1982年にPING「Eye2」が発売された時は、一番醜いアイアンと呼ばれたが、このアイアンは、“史上最高に売れたアイアン”にもなった。PING「i530」アイアンには多くの機能が搭載されている。しかし、1月に発売された「ブループリント」アイアンや、先月デビューの「S159」ウェッジのように、今回の新モデルはそれだけに止まらない。
ボール初速優先
「『i530』は我々の『ブループリント』アイアンとは対極にある」と語るのはPINGのデザイン工学技術マネージャーのトラヴィス・ミルマン氏。「このクラブを使うゴルファーは、より飛距離を求めている。だからボール初速が上がるように設計されている」。
PING「i530」アイアンは全て「ボール初速」重視だ。鍛造マレージング鋼のスチールフェースは、PINGがウッドで採用しているものと同じテクノロジー。重心は10%低く、機械加工された後壁は40%薄くなっており、ロフト角は全体的に「i525」よりも1.5度から2度ストロングになっている。
そうロフトが立っている。とはいえ、ちょっとした歴史のお勉強の前に反ストロングロフト派の火をつけるにはもう少しお待ちを。
低重心にして周辺に重量配分することでクラブが易しくなることを発見したのは、カーステンとその前のマクレガーのトニー・ペナだった。問題は、この組み合わせにするとボールが高く上がり過ぎて、スピンもかかりあっちこっちに飛んでしまう。
その解決策が「ロフトを立てる」、言ってみれば「ストロングロフト」だった。ところが、低重心と周辺重量配分せずにロフトを立てると使い勝手が悪いクラブになってしまうのだ。「ストロングロフトにするとボール初速はアップする」とミルマン氏。「確かに我々は業界での競争力を高めようとしているが、ここで重要なのは“扱いやすさ”。そしてポイントは、一貫した弾道の高さ(頂点)にある。コース上で同じ“弾道の高さ(頂点)”をキープすることができれば、“グリーンで止める力”も同じになる」。
確かに今回のモデルはストロングロフトになっている。例えば7番アイアンは29度。「i525」の7番アイアンは、多くの「上級者向け飛び系」の7番同様、30.5度だった。
「もちろん、フィッティングで他社のモデルに負けないようにする必要があることは分かっている」とミルマン氏。「しかし同時に、“コースで使える(扱いやすい)ようでなければ意味はない”という事実は見失わないようにしたいのだ」。
目に見えない低重心化
お伝えしたように、PING「i530」アイアンの番手あたりの重心は「i525」アイアンよりも約10%低くなっている。これはかなりの低重心化だ。
「我々は、可能な限りウエイトを低くしようとしている」と説明するミルマン氏。「以前の設計から得たことは、低重心化を進めていくと高MOIにするよりもストロークス・ゲインドのパフォーマンスが速く向上するということだ」。
具体的に言うなら、PINGが得たことは「MOI(慣性モーメント)」と「重心位置」は相反するということ。高MOIだと常に低MOIよりパフォーマンスが良くなるが、ボール初速アップは「低重心」が要因だ。これにより飛距離が伸び、ストロークス・ゲインド向上の大きな要素となる。
厳密な話をすると、PINGは重心を低くするために内部の空洞部を再設計した。アイアン上部の後壁は精密加工されておりウエイトを約10g削減。そして、そのウエイトをソールにある大きく突き出たウエイトパッドに再配置した。
「中空ボディデザインには、前壁と後壁がある」と言うのはミルマン氏。「後壁を適切に鋳造するためにはある程度の質量が必要だ。質量をセーブするために、『i530』の各番手を30/1,000インチの正確な厚さに個別に加工している」。
この厚さは紙10枚分に相当する。
「各ヘッドを個別にスキャンして加工している」とミルマン氏。「よくあるプログラムでヘッドを入れて後はお任せというものではない。機能的でありつつも、ミーリング(削り出し)より美的にも優れている」。
そして、PINGでは内部空間に衝撃を吸収する『スタビライジングリブ』を追加することで、後壁の耐久性と薄肉化を確保している。
打音、打感、EVAポリマー
メーカーは「打音」と「打感」は深い関係にあるというはずだ。しかし、ほっておくと彼らの多くが、皆さんが「打感」と感じるものは他ならぬ「打音」だと言うと思う。当然素材は大切だが、中空ボディ構造、形状も同様に留意しなければならない。
形状的に見るとPING「i530」内部のキャビティは、「i525」よりも小ぶりで内部の『サウンドリブ』は音響シミュレーションに基づき計画的に配置されている。
またキャビティ部に注入された『EVAポリマー』は、フェースのたわみへの影響を最小限にしながらも、「打音」と「打感」を向上させるために精密に配置されているようだ。「打音は表面の振動によって決まる」と説明するのはミルマン氏。「とはいえ重心は打感にも影響する。トップやフェース上部で打つとその違いが分かるはず。低重心にするとより“芯に当たった打感”になるので、打音は、形状、ポリマー、リブで影響を与えるようにしている」。
ここで大切なのが、キャビティ全体をポリマーで満たしていないということ。これだとフェースのたわみ、ひいてはボール初速に悪影響を及ぼす可能性がある。
「『EVAポリマー』で打音を軽減しつつも、フェースのたわみを制限しない部分が必要だ」というのはミルマン氏だ。
お伝えしたように、低重心化には形状が大きな役割を果たすことになる。またこちらもお伝えしたが、アイアンでは「低重心」と「高MOI」は一般的に両立しない。
「ところが、形状を変えて内部のウエイトパッドを強化し、後壁を精密加工すると、通常は低重心化により発生するMOIの損失を抑えることができる」とミルマン氏。「『i530』のMOIは基本的に『i525』と同じだ」。
PING「i530」アイアン:PING流のストロングロフト化
PING「i530」アイアンは、確かにストロングロフトが特徴だ。とはいえ、間違ってもPINGが6番アイアンに“7”をつけておしまいとは思わないで欲しい。
「番手の数字に意味はない」とミルマン氏。「アグレッシブに立てたロフトセッティングのアイアンセットであっても、番手間ギャップをおろそかにはしたくないのです。我々は、セットを通じて13ヤードの番手間ギャップを目標にしている」。
驚くこともでもないが、PINGのプレーヤーテストによると、「i530」の7番アイアンは「i525」よりも3ヤードキャリーが伸びているという。これはボール初速に置き換えると0.63m/s速くなったことになるが、打ち出し角は0.5度低く、スピン量も200ほど少なくなっているそうだ。
しかしここで一番重要なことは、PINGがグリーンを狙う上で一貫した弾道の高さ(頂点)と十分にスティープ(鋭角)な落下角度を示したことだ。またPINGでは、スピン量の一貫性をキープするために独自の『マイクロマックスグルーブ』を「i530」にも搭載している。『マイクロマックスグルーブ』は、フェースの溝本数を増やしそれぞれを近づけることで、あらゆるコンディション、特にラフからのスピン量の向上を実現しているテクノロジーだ。
「我々のデータによると、ストロングロフトを使うゴルファーはラフに良く入る傾向がある」とミルマン氏。「またそれに対しての手助けが必要だ」。
では3ヤード伸びるということは、「i525」アイアンをやめて「i530」を買うべきなのか?これはこの“飛距離アップをどの程度重視するか”にもよるが、PINGですらそれを理由に「i525」アイアンから買い換えろとは言わないはずだ。
この数字が示しているのは、世代を超えた進化にある。確かに3ヤード増は、もっぱら“ストロングロフト”の結果だ。そうすることも難しくはないだろう。しかし、PINGが“打感の向上”と表現していることはさておき、「番手間ギャップ」と「弾道の高さ(頂点)」、そして「落下角度」をキープしていることに価値があるのだ。「大切なのは『i525』と比べて際のゴルファーの満足度だ」とミルマン氏。「ボールを遠くまで飛ばすだけでなく、『i530』はより心地よいアイアンであると認識されたのだ」。
PING「i530」アイアン:スペック・価格・発売時期
<日本発売モデル>
ロフト角(度)は、#4/18度、#5/21度、#6/24度、#7/27.5度、#8/31.5度、#9/36度、W/41度、U/46度。
価格は、標準スチールが¥31,900(税込)で標準カーボンが¥34,100(税込)。
標準グリップは、「GP 360 TOUR VELVET AQUA(ツアーベルベットアクア)」
発売は、2024年4月4日。
詳細は、PINGのホームページより。
※ここより下記はアメリカ発売モデルのスペック
PING「i530」アイアンのスタンダードのロフト設定だと十分にストロングではないという方のために、PINGは、各クラブのロフト角を1度から1.5度ストロングにして“パワースペックロフト”も用意している。
逆に、飛距離は不要だがグリーンでもっと止めるために高弾道にしたいという方には、ロフト角を1度から2度寝かせた“レトロスペック”も試すことができる。どちらを選んでもバウンス角は異なる。純正のスチールシャフトはトゥルーテンパー「Dynamic Gold(ダイナミックゴールド) Mid 100(RとS)」。PING「ALTA CB Black(アルタCBブラック)」が純正のカーボンシャフトだ。また「Dynamic Gold Mid 115」やPING「AWT 2.0」など追加料金なしで他のシャフトラインナップもある。
純正グリップはゴルフプライド「360 Tour Velvet(ツアーベルベット)」。
PING「i530」アイアンは右打ち用と左打ち用があり番手は4番アイアンからUWまで。
価格はスチールシャフトが1本205ドルでカーボンシャフトだと1本220ドルだ。
フィッティングと先行販売は本日からで発売日は4月4日。
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