ギアに夢中になるゴルファーたち

ゴルファーというものは、ゴルフクラブについていろいろ悩むものだ。ゴルフは非常に難しいため、厳密に設計されたクラブに頼りたくなる時がある。

「正確にフィッティングされたクラブが成功への近道である」という通説だけが頼りだ。ゴルフクラブにおいて、些細なことが大きな差となって表れることはゴルファーなら誰で知っている。

クラブにこだわる人は、ロフト角や長さ、ライ角、フレックス、アライメント、グリップの素材や握り方などをミリ単位で調整するほどだ。

プレーデータがあれば、こだわりはさらに加速する。正確にフィッティングされたクラブは、より良いスイングやスコアに直結する。だから、クラブフィッティングが不可欠なのだ。

最近はウッドやアイアンのフィッティングを受ける人が増えているが、パターではまだ少ない。パターはルックスが重視され、キャディバッグの中の装飾品のように扱われることが多いからだろう。

しかし時代は変わり、ゴルファーたちはルックスや打感だけでパターを選ぶべきではないことに気づき始めた。

また、自信を持って長く使えるパターは、適切な長さやトゥハング、ライ角、ロフト角が重要であることも理解し始めている。ゴルファーが、ドライバーやアイアンと同じようにパターを選び始めているのは素晴らしいことだ。

そこで、今日は「パターを選ぶ際、自分の好みのMOIを考慮するべきか」という問題を議論したい。

 

なぜ慣性モーメントを考慮すべきか

今日掘り下げたいのは、フランス語の「moi(私)」ではなく、「MOI(慣性モーメント)」だ。MOIとは、Moment of Inertiaの略である。近年のクラブ設計においてMOIは重要な要素であり、クラブの話をしていると自然とMOIの話になることが多い。

MOI(慣性モーメント)の一般的な考え方は、「より大きく」である。MOIの数値が大きいほど、クラブが「やさしく」なるからだ。昨年、MOI値が10,000を超えるイーブンロール ER9が話題になった。

スコッティ・キャメロンは、MOIを上げるために複合素材構造を駆使し、新しいPhantom Xを最近発表した。Cure Puttersのウェブサイトでは、RX5の重量配分をカスタマイズし、18,000超えのMOI値を実現している。

では、ゴルファー全員がCure RX5に変えるべきなのだろうか?

パターのMOIを考えるにあたって、実際は何を見るべきなのだろうか?

 

MOIが際立つEXOパター

オデッセイ,チーフ,パター

この質問は、専門家に任せたほうがいいかもしれない。昨年12月にオデッセイ本社を訪れた際、パターの専門家と話す機会があった。

新Stroke Labシャフトの話題が中心だったが、2019年モデルの EXOの話になると、MOIに関する説明がいくつか出てきた。簡単に説明すると、EXOパターが初めて発売されたのは2018年で、複合素材構造を利用して高MOI値を実現した。

これまでのオデッセイのパターもMOIを上げる設計になっているが、EXOはMOIをメインストーリーに仕立てた最初のパターだった。

MOIとはいったい何だろうか。

そして記事のテーマに戻るが、なぜパターでは慣性モーメント(MOI)が重要なのだろうか。

2019年モデルのEXOパターの発売が近いこともあり、オデッセイのチーフパターデザイナーであるオースティン・ローリンソン氏に、これらの質問に答えてもらった。



MOIとは何か ~その定義と計測方法~

慣性モーメントとは、物体の回転のしやすさのことだ。ニュートンの「運動の第2法則」では、「F = ma」のmは質量、Fは加速度aを変化させるのに必要な力の量をいう。

物体が重いほど、加速させるのにより大きな力が必要になる。つまり、これは物体の直線運動を表している。

ゴルフのインパクトのように物体が衝突する場合は、開閉する動き(ローテーション)に着目しなければならない。

オフセンターヒットでは、ヘッドにねじれが生じる。ねじれによって、ヘッドの重心位置を軸にヘッドが回転してしまう。インパクトが重心から離れるほど、ねじれは大きくなる。また、スピードに比例してヘッドの回転率も変わる。

ヘッドの慣性モーメントが大きいほど、オフセンターヒット時にヘッドの回転率は小さくなる。その結果インパクトでヘッドの回転が少なくなり、ショットやパットが真っ直ぐになる。

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では、どのようにMOI値を測るのだろうか。

MOIに関して知っておくべき重要事項は、ニュートンの第2法則(直線運動の法則)では物体の質量(または総重量)が公式で使われていることだ。

しかし回転運動では、物体の総重量だけでなく、物体の回転軸からの距離も関係する。物体が回転軸から遠くなるほど、MOIは高くなる。

そのため、サイズの大きい中空構造のヘッドのほうが、小さくて中身が詰まっているヘッドよりMOIが高くなる。

最近の3D CADは、物体の質量や重心位置、MOI値を計算することができる。プログラマーが素材の密度を入力すれば、あとはコンピューターが自動で計算してくれる。

ヘッドさえあれば、MOIや重心位置を測定できるというわけだ。試作品が、CADで設計した質量特性と合っているか確かめられるのは便利だ。

 

なぜパターでは慣性モーメント(MOI)が重要か

ドライバーやアイアンでミスヒットした時にMOIが役に立つが、パターも同じだ。パットのヘッドスピードは、ドライバーやアイアンとはまったく違う。

一般的なドライバーのヘッドスピードは40~54m/sだが、25~35フィートのパットにおけるパターのヘッドスピードは、せいぜい4m/sまでだ。

しかし、高MOIのパターでもオフセンターヒット時はボールスピードは落ち、インパクト後にボールが進む方向も変わる。完璧にインパクトできるゴルファーはいない。これらのミスを減らせば、パット数を減らすことができるのだが。

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MOI値の高いパターに変えるとどうなるか

距離のコントロールが向上するだけでなく、意図するライン上にボールを転がせるようになるだろう。これらには精度と安定性が関係する。

ヘッドスピードとフェースアングルが安定しないとMOIが定まらず、ボールスピードと方向性も安定しない。MOIは不安定なインパクトを改善してくれるのだ。

 

パターのMOIが上がることで起こるデメリット

一般的に、MOI値を上げるにはヘッドサイズを大きくする必要がある。またMOI値を高めるためには、接地面積を小さく保ちつつ、形状をリング状にしなければならない。

また高MOIを追求すると、ヘッドの重心が深くなってしまうというデメリットがある。

これによって、ミスヒット時にフェースが横方向に動いてしまい、ボールの進行方向にずれが生じる。優れたパター設計では、重心をできるだけ浅く保ちつつMOIを最適化していることがわかる。

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EXOパターはどのようにベストな値を実現したか

EXOパターは、スチールとアルミを駆使して高MOIを実現しつつ接地面積を小さくすることに成功した。すべてのEXOパターの中心にはアルミトラスが使われ、重量をヘッドの外周部分に配分している。

例えばEXO SEVENでは、ステンレスが総重量の88%を占めているのに対して、アルミトラスはわずか8.8%だ。

この設計によって、大型の#7モデルよりMOI値が21%高くなっている。EXO SEVEN MINIは、#7モデルより26%もMOI値が高い。

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MOIはフィッティングのどの過程で考慮すべきか

フィッティングの際は、自分のミスの傾向を明確にするべきだ。ラインから外れやすく距離のコントロールができない場合は、MOIが大きいパターを選ぶべきだ。

このミスは、インパクトが安定していないことによって起こる。MOIが大きいと、エネルギーのロスとパターのねじれを減らし、安定したパットができるようになる。

ボールがラインから外れるのは、ターゲットラインに対してパターをスクエアに構えていないことが原因だろう。

高MOIを謳うパターの多くは、クラウンに優れたアライメントデザインが施されているため、積極的に利用するべきだ。

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ルックスを犠牲にしないEXOパター

ここまででMOIをしっかり理解できただろうか。オースティン氏は言及していなかったが、オデッセイはMOIの向上しながらルックスの良さや伝統的なパターデザインを残すことにも成功している。

前述のCure RX5のような高MOIパターは、どうしてもルックスが犠牲になってしまう。パターはパットを沈めるためにあるが、見た目がいいパターを持ちたいというのもゴルファーの正直な気持ちだろう。

高MOIと引き換えにルックスが犠牲になったパターを買いたいとは思わない。ナイキ Sumo SQ 5900ドライバーをまだ使っている人には理解できないかもしれないが、同意見のゴルファーは多いはずだ。

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これがEXOパターの素晴らしさだ。パターに数百ドルかけるなら、いろんな角度から何時間でも見ていられるものを選びたい。

私のパター愛が異常なのは分かっているが、細部までこだわり抜かれたルックスの美しさに、感謝の念を抱かずにはいられない。

性能の向上を目的とした設計が、EXOパターのルックスをより高次なものにしているのだ。壁に飾って楽しむのも悪くないが、パターはやはりグリーンで使いたい。

パターの「MOIストーリー」は今後もっと進化するだろうが、2019年モデルの EXOパターはそれを待たず3月29日に発売される。新しいマレットは、アーク型ストロークに合うSネックだ。

また、新しいオデッセイStroke Labシャフトも選べる。349ドルのパターが安いとは言わないが、それだけの価値とテクノロジーが詰まっているのだろう。

MOIの一般論とEXOパターについて、どう感じただろうか。好みのEXOパターは見つかっただろうか。オンラインでチェックしたら、ぜひショップで試打してもらいたい。