・「トリプル鍛造」のソリッドボディマッスルバックデザイン
・ターゲットゴルファーは「プロ」、または「シリアス」ゴルファー
・発売当初価格は、349ドル/本
数少ない“未来のPXGユーザー”のためのアイアン。そして、その鍵は「設計」に隠されている。
「0211 ST」や「0311 ST」アイアンはもちろん、今回のモデルも、「やさしさ」を犠牲にしても「コントロール性能」を優先したい上級者向けのモデルだ。
ところでPXGの創設者であるボブ・パーソンズ氏は、自身のブランドをフェラーリに例えることがよくある。「0311 ST GEN4」アイアンは「SF90ストラダーレ」を彷彿とさせる。
一方で、「スピード」重視で開発された車は特有のリスクが伴うが、アイアンにも共通する。「スピード」が速ければ事故も大きい。
PXG「0311 ST GEN4」の基本情報
まず、モデル名から始めよう。「ST」とは「Super Tour(スーパーツアー)」の略だ。別の名で「マッスルバック」とか「ブレードアイアン」と呼ぶことが多い。「0211 ST」と「0311 ST」ミルドアイアンはどちらも「0311 ST GEN4」よりもずっと前から存在するが、基本的には今回のモデルは「STアイアン」としての2作目にあたる。
「0311 ST GEN4」アイアンは、最小限のオフセット、薄いトップライン、短くなったブレード長、さらに「打感」と「操作性」を重視したデザインなど、より熟練した上級者をターゲットに、彼らが期待する要素を揃えている。
(ゴルフ業界では、一部のゴルファーにとって望ましい特性を敢えて排除し、別のターゲットゴルファー向けに変えることがよくある。例えば、「やさしい」アイアンが「操作性」に欠けるように。反対にショットメイクに欠かせない「コントロール性」と「精度」を優先するなら、「やさしさ」を犠牲にしているはずだ。 “ポジティブマーケティング”とでも言っておこうか。)
ソリッドボディの「0311ST GEN4」アイアンは、「8620炭素鋼」から鍛造(フォージド)され、手作業での研磨ではなく、精密なミルドマシーンで削られる。他のテクノロジーは至って一般的で、上級者が距離、弾道、球筋をより細かくコントロールできるように設計された「ツアーデザイン」に仕上げられている。
したがって、「GEN4 XP」や「P」および「T」アイアンに不可欠だった「薄肉フェース」「中空キャビティ」および「XCORポリマー素材」は、「0311 ST GEN4」の設計意図とは真逆のテクノロジーだ。
その他の「0311 GEN4」アイアンシリーズは2021年3月に発売されたが、「0311 ST GEN4」アイアンは確実に「GEN4」モデルを改良したものだ。つまり、同社が今後も継続的にブレード/マッスルバックモデルをリリースいくことを示唆しているのではないか?
PXG 「0311 ST GEN4」詳細情報
打感が「柔らかい」とはどれくらいの“柔らかさ”を言うのか?それは人それぞれだ。「打感」は本質的に主観によるものだが、「一体型のフォージドアイアン」ではしばしば重要な論点になる。
上手いゴルファーは(それが本当だとしても、たとえ本人の感覚に過ぎないとしても)、“柔らかくてしっかりしたインパクト”を好む傾向がある。
そのため、あまりにも多くの人が素材の種類にこだわる。PXGで使用されている「8620鋼」は、ミズノ、ミウラ、EPONなどのフォージドアイアンで定評のあるメーカーが使う「1025(日本ではS25C)」よりも硬い金属だ。
とはいえ、インパクトの感覚(打感)は、素材、デザイン、形状などの複合的要素で決定されるものだ。デザインが悪いと、柔らかい金属が、まるで“ブリキ缶の中で岩が跳ね返るような音”に感じる。逆もまた然りだ。
今回、PXGが「8620鋼」を選択した理由は、わずかに硬い性質の為、全体的な「耐久性」が向上し、グルーブ(溝)の寿命が長くなるからだ。軟鉄アイアンの最大の欠点は、「摩耗が早い」こと。さらに、柔らかい素材によって、「溝の鋭いエッジ」が時間の経過とともに摩耗するという点。
最近の例でいうと、ピンのブレードアイアン「Blueprint(ブループリント)」も一体型の「8620鋼鍛造」だ。
ウェイト
これまでの「GEN4」アイアンと同様に、「0311ST」は「Precision Weighting Technology」を搭載している。調整可能なセンターウェイトにより、フィッターはさまざまなヘッドウェイト試すことで、より最適なパフォーマンスを見つけ出すことができる。これら全てがスイングバランス調整の為だけと思っているなら、まだ話の続きがある。
ほとんどの場合、メーカーは各アイアンに対して1つのオリジナルヘッドウェイトを持っている。まれに長尺用として軽いヘッドウェイトが用意されていることもあるが、そこから、クラフトマンはチップウェイト(ホーゼルに入れるウェイト)を追加して、適切なスイングバランスを見つけていくことが多い。
PXGでは、ウェイト(最大18グラムまで2グラム刻みで利用可能)が、プラスアルファの役割を果たす。あるゴルファーは、「重いヘッド」を使って「打ち出し角」「スピン量」「ボール初速」の理想的な組み合わせを見つける。
一方、「軽いヘッド」を必要とするゴルファーもいる。とにかく、ほとんどのゴルファーはヘッド重量を変えるフィッティングを行ったことがないのではないかと思う。
ミーリング
「ミルド仕上げ」がアイアンの美学を映し出し、それを望む、そして喜んでその対価を支払うゴルファーから愛されているのは間違いない。しかし、PXGのアイアンを見れば、ミーリングこそが製品誤差を修正するための最も精密な手段であることがお分かりいただけるだろう。PXGは、常に厳しい「製品公差」をクリアしている。
オフセット
「0211ST」や「0311 Milled ST」アイアンと比較して、「0311 ST GEN4」はヒールからトウまでが短く、オフセットがわずかに少ないのが特徴。そのため、PXGは番手毎にブレードの長さを変えている。
ロングアイアン(3-5)ではミドルアイアン(6-7)よりもヒールトゥが長く、同じようにミドルアイアンはショートアイアン(8-PW)よりもヒールトゥが僅かに長い。また、ロングアイアンは上部キャビティ(構造)によってある程度の重量が取り除かれているために、ブレードを長くすることが可能になった。
「0311 Milled ST」アイアンのオフセットが特に大きいわけではないが、「0311 ST GEN4」のオフセットはさらに小さくなった。
正確には0.120インチ(3番アイアン)から0.015インチ(PW)といったオフセットの差がある。ミズノの「MP-20」マッスルバックアイアンと比較すると、0.102インチ(3番アイアン)から始まり、0.075インチ(PW)までオフセットが小さくなる。重要なのは、アドレス時にリーディングエッジがホーゼルの前面と一直線上に位置しているということだ。
オフセットを小さくした主な理由は、プレーヤーからの要望だ。PXGのツアープロがオフセットを小さくするよう要望したため、「0311 ST GEN4」アイアンでそれが実現した形だ。オフセットの話は以上になる。
ブラック仕上げ
PXG「GEN3」アイアンでは、その複雑な製造工程のため「X-treme Dark DLC」仕上げを採用することができなかった。
しかし、「GEN4」でついに復活した。
ブラック仕上げには注意が必要だ。既製クラブでも何でも、ブラック仕上げはゴージャスに見える。問題は、その仕上げがどれくらいもつのか?ということ。
ルール1:ブラック仕上げはクローム/サテン仕上げよりも摩耗が早い。
ルール2:すべてのブラック仕上げが同じ製法ではない。
薄いフィルムコーティングの層はこのようになっている。
「PVD(Physical Vapor Deposition)」は最も採用され最も安価な製法だが、他の製法よりも消耗が早いのが欠点。数ある「PVD(Physical Vapor Deposition)仕上げ」のモデルの中でも特段優れている商品が無いこともないが、メーカーがこの製法を採用する主な理由はコストだ。
「QPQ(Quench-Polish-Quench)」は、スチールの一番外の層に色を加工する方法。コーティングではなく、鋼を含浸させると考えてみよう。
このように、「QPQ仕上げ」ではクラブが芝(ソール)やボール(フェース)に当たる箇所が独特の黄金色を発するようになる。それ以外の部分(トップライン、キャビティ、ホーゼル)は、「PVD仕上げ」よりも長くダークカラーが維持する。
「ミウラ」と「SUB70」はどちらもこの手法を採用している。
「DLC(Diamond Like Coating)仕上げ」は、PXGが2016年にアイアンに使用し始めた方法で、ゴルフ業界では初の試みだった。「PVD」と同様に、「DLC」は一般的に真空室で行われるが、「PVD」よりも耐久性が高く、退色しにくいのが特徴だ。「DLC」の主な欠点は、高価な工程であること。
そのため、「0311 ST GEN4」アイアンの「DLC仕上げ」追加料金は、1本あたり50ドルかかる。
確かに、私はダーク仕上げにめっぽう弱い。できるだけコーヒーのような真っ黒なアイアンにしたいため、同じ価格なら、お気に入りのウェイトとブラック仕上げがあるPXGを選びたいと思う。
PXG「0311 ST GEN4」最終考察
「0311ST GENアイアン」でプレーする準備ができただろうか?この質問の意図はもうお分かりだろう。ブレード(マッスルバック)アイアンの主な性能とは、ゴルファーの意図通りのパフォーマンスを可能にする点。フェードやパンチドロー、難しいピンを狙うショットなど。
ただし、そこに届かないレベルのスキルでは、大きな代償を払うことになるだろう。
その代償が利益になるか不利益になるかは、あなたにどれくらいのスキルがあるかによって決まる。
自惚れで購入しても良い?それもアリかもしれない。けれど同社がSTアイアンをやたらに大量に売ろうとしているとは思えない。
おそらく「PXG 0311 ST GEN4」アイアンの密かな価値は、PXG愛用者に幅広くアイアンの選択肢を提供することだ。伝統的なブレードアイアンが欲しいなら、PXGが望みを叶えてくれるはずだ。
長年ミズノマッスルバックを愛用してきた者として、PXGがどれくらい匹敵するか楽しみにしている。
同社は「0311 ST GEN4」が、トラディショナルな「ツアーブレード(マッスルバック)」からの慎重かつ周到な“進化”だと考えている。もしそれが事実だとすると、この“マッスルバックアイアン”とその他のマッスルバックアイアンは何がちがうのだろうか?
「0311 ST GEN4」フィッティングと販売予定
「0311 ST GEN4」は右利きと左利き用の両方が揃う。
発売価格は、349.00ドル。「Xtreme Dark DLC」仕上げは50ドルの追加料金。
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