テーラーメイドがこの分野のアイアンをリリースして来るとは予想もしなかったので、正直ちょっと驚いている。誤解の無いように言っておくが、それは良い意味で、ってこと。
「ステルスHD」アイアンは、同社が未開拓だったゴルファー層に新たな分野を切り開くクラブとなっている。通常は高ハンディキャップ向けの「初心者向け」クラブとされることが多いが、このアイアンの新名称は「超初心者向け(超スコア改善型)」。
とは言え、この「ステルスHD」アイアンは、ゴルフを楽しむ上で明らかにテクノロジー頼りになっているゴルファー層に向けて設計されている。そしてテーラーメイドにとって一番大切なことは、これでゴルファーのヘッドスピードとレベルに対応する完璧なアイアンシリーズのラインナップが揃ったということだ。
「ステルスHD」の出発点
この製品の開発サイクルで最もラッキーだったのは、テーラーメイドが、“答え”よりもはるかに多くの“疑問”を持った状態で開発をスタートできたことだろう。
「ステルスHD」は全くの新製品なので、開発陣は最終の製品がどうあるべきか、あるいはパフォーマンスや見た目がどうあるべきかという先入観を持たずに着手することができたということだ。
そのため、今までとは違う形でこの手のゴルファーをより良く理解するためには、“何をもってナイスショットなのか?”というシンプルな疑問から始めることこそ一番筋が通っていたのだ。
そして、このゴルファー層のショットをいくつか診断し、各ショットがうまくいったのかそうでないのかを評価するところからスタートした。
「ストロークス・ゲインド」分析やボール初速の標準偏差といったことは、基本的に高ハンディキャップのゴルファーには関係のない。
そして、その診断や評価からテーラーメイドが発見したのは、「ボールが適度に上がり目標方向に飛ぶか、目標から15〜20ヤード左(右打ちの場合)にミスしたか」という基準の片方か両方を満たしていればOKということだった。ボールが浮いてスライスしなければ、ナイスショットというわけだ。
そのため課題も、「その2つを達成する自信を持たせるクラブを生み出す」と明確だったのだ。
たかいたかい
テーラーメイドでは、ボールを上げやすくするために5番から7番アイアンのヘッド形状をシャロー(上下方向に薄く)にした。重心を低くし、後方にすることで安定した打ち出しが可能になる他、ソールの半径を大きくして「ラウンドソール」も採用。
ソールが適度に湾曲していることでどんなライにも対応できる。これは、ヒールとトゥが削られたウェッジを思い浮かべると良いだろう。インパクトがちょっとスティープ(鋭角)あるいはシャロー(鈍角)になっても、それなりにしっかりとボールに当てられるようになる。
またプレーヤーテストでは、新しいソールデザインになったことで、フェースの高い位置で当たるようになった。そして、「ラウンドソール」を採用したことで、芝と接触する面が少なくなるが、これもターゲットゴルファーにとってはプラスの要素となっている。
合計ではなくキャリー
ゴルフ業界は、みんなを騙していたのだから謝るべきだ。メーカーは、ずいぶん前から遠くに飛ばすことは一様にメリットがあるという前提で、“飛び系アイアン”を売ってきた。
スピン量、打ち出し角、キャリー、合計飛距離は全て状況によって変わるが、とあるゴルファーが10ヤード以上“手に入れた”場合、少なくとも7番アイアンで前の日よりも10ヤードアップしたと言えたということになる。自尊心は強力な販売ツールなのだ。
他のブランドも後に続いているが、「ステルスHD」の7番アイアンの静的ロフトは30度という設定になっている。これだと全然、初・中級者向けのスコア改善型アイアンっぽくないだろう。
テーラーメイドは、ロフト角が26度から31度までの「ステルスHD」の7番アイアンを作ってテストを行った。テスターの中には、7番アイアンのヘッドスピードが33.5m/s以下のゴルファーもいた。
結果は、一番ストロングロフトと一番ウィークロフトのキャリーの差はわずか1.5ヤード。つまり、ロフト角を増やしても、スピン量と打ち出し角、高さ(頂点)が増える一方で飛距離ロスはほとんどなかったということだ。なお、「ステルスHD」のセッティングで一番ロフトが立っているのは5番の23.5度。PWは44度だ。
ドローバイアス
フェースのたわみ特性を変えることで、インパクト時のボールにドロースピンがかかるようになっている。これはトゥ側を硬くすることで実現する、『アシンメトリック・ドローフェースデザイン』を採用。
プレーヤーテストでは、このフェーステクノロジーにより右打ちのゴルファーがさらに5ヤードほどドロー系の弾道を打てることが可能になる。また、同じフェース素材と設計を採用していることで、ルール限界のCOR値(拡大解釈すると“ボール初速”)もキープしている。
信頼感
ゴルファーによっては、アドレスでキャビティが見えた方が良く、フェースが寝ていて、そのフェースが見えていると視覚的にプラスに感じるという場合がある。また、テーラーメイドによれば、「ステルスHD」の方が「ステルス」より良いフィーリングが得られるとのこと。
ちなみに「ステルス」は、空のコーラの缶の中でビー玉が跳ねているように感じた。つまり、フィーリングはそこまで良くはないということだ。
送る言葉
「ステルスHD」はシリーズの“追加モデル”であって、2022年に発売された「ステルス」アイアンの後継モデルではない。だからテーラーメイドは両方のアイアンセットの価格を一緒にしている。
以前のテーラーメイドは、ピラミットの頂点が一番重要という哲学のもとでラインナップを展開していた。ここで言う頂点は、ツアープロや高いスキルを持つ競技ゴルファーやクラブのプロが含まれる。
しかし、a) 高ハンディキャップのゴルファーは存在するものであり、クラブを買う意思がある、b) 彼らは基本的にローハンディキャップのゴルファーとは異なるソリューションを必要としている、ということを理解することで、今回の新商品で寛大でより歓迎できるテーラーメイドを表現した。
そして、高ハンディキャップゴルファーにとってロフトフィッティングが不可欠な要素だとするなら、誰にでもやるべきではないだろうか。みなさんは、自分の7番アイアンのロフト角を知っていますか?
価格と発売時期
テーラーメイド「ステルスHD」アイアンの先行販売は1月10日から。店頭では2月17日から発売スタート。
メーカー希望小売価格はスチールシャフトがセットで999ドル(約132,000円)、カーボンシャフトが1099ドル(約145,000円)、番手は5番からPW、AW、SW、LWがラインナップしている。
純正シャフトは、KBS「Max 85 MT」(スチール)とフジクラ「NX Red/Silver」(カーボン)だ。
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