ゴルフ用品の価格は全体的に上がっている。これは、賃金の上昇やインフレによるものなのか、それともゴルフ業界で何かが起こっているのだろうか?
いわゆる「真剣なゴルファー」は、この価格上昇を受け入れるしかない。ゴルフはほんのわずかな違いが勝敗を分けるスポーツであるがゆえ、彼らはスコアのためならより優れた道具を喜んで購入する。
ところで、いくらまでが許容範囲なのだろうか?すでに限界に達しているのだろうか?
過去に学ぶ
明らかな価格の上昇が始まったのはいつだろうか?
そこで、2012年秋までさかのぼり、主要メーカー5社のドライバーの価格の動きを見てみた。
理解しやすいように、発売日と小売価格が同じモデルは区別しないことにした。例えば、テーラーメイドM3とM3 440は1つのモデルとして扱うが、ピンG400 Maxは発売日が違うため他のG400シリーズとは分けて考える。
また、今回は小売店で通常販売されたモデルのみを対象とし、タイトリストConceptシリーズやMOTO D4のようなモデルは除外した。また伝説のモデル、テーラーメイドSLDR Cのような大型小売店限定モデルも対象外とした。
上の表は2012年11月~2018年2月の発売月別の価格帯、下の左の表は同期間に発売されたモデル数、下の右の表は同期間に発売されたドライバーの発売時の平均価格だ。
2013年以降、どのメーカーでもドライバーの価格は上昇している。最も控えめなピンが2012年以降50ドルしか値上げしていないのに対して、タイトリストは発売するたびに50ドルずつ値上げし、今では1本500ドルに達している。
価格上昇の最大の要因は、「300ドルのドライバー」だ。キャロウェイ、テーラーメイド、コブラが初級者向けのドライバーを300ドルで販売していたのはさほど昔の話ではないが、ヘッドスピードの遅いゴルファー向けにテクノロジーを盛り込んでいないシンプルなドライバーを提供することをやめた2014年以降は、価格は300ドルから340ドル前後にシフトしていき、今では400ドルまで上昇している。
シニア向けのコブラ MAXシリーズを除き、主要5社の中で2018年に400ドル以下のドライバーを発売したメーカーは1社もなかった。現在業界では「400ドルのドライバー」はエントリー価格になっており、モデル間のコストの差はほとんどない。
ゴルフ用品業界で何が起こっている?
急激な価格変化について、メーカーの見解を聞いた。タイトリストのマーケティング部門バイス プレジデントであるジョシュ・タルジ氏は、業界全体に見られる価格上昇について以下のように答えている。
「改めてこの問題を考えてみた。発売のたびにより良いクラブを造るにはどうしたら良いだろうか、と。我々の発売サイクルは2年であり、前モデルを改良する時間としては十分だ。」(ジョシュ・タルジ氏)
そしてタルジ氏は、多くのメーカーがドライバーの価格を上げてきた理由をタイトリストの見解として以下のようにまとめている。
・発売ごとに性能の改善を求めている(新素材のリサーチや実験など)
・高性能なパーツを提供する業者を使っている(シャフトやグリップなど)
・前モデルとは異なる方法でクラブの組み立てを行っている(アメリカで販売されるタイトリストのクラブは、すべてカリフォルニア州オーシャンサイドで組み立てが行われている)
・年々上昇する人件費
・インフレ
理由としてはもっともらしく聞こえるが、それだけで価格はこんなに上がるだろうか?
キャロウェイの初代「Great Big Bertha」ドライバーは1996年の発売当時500ドルだったが、2017年のEpicも同じ価格で発売された。よって大局的に見ると、インフレが原因で価格が上がり続けたとは断定しがたい。
労働統計局によると、2017年の物価は1996年と比べ56%上昇している。つまり、1996年の500ドルは2017年の780ドルに相当するということだ。
「釣りは魚のいるところで」
コブラゴルフの開発部門バイスプレジデントのトム・オルサフスキー氏は、ドライバーの値段を何年もかけて少しずつ上げてきた。
「マーケットは凄まじい勢いで変化している。我々は市場の過渡期を見ているのかもしれない。最近ではゴルフ用品にまで複雑なテクノロジーが使われるようになったが、同じくらい大切なのは釣れる場所で魚釣りをする、ということだ。」(トム・オルサフスキー氏)
別の言い方をすれば、メーカーは最近いわゆる「真剣なゴルファー」にフォーカスしている。これまでよりもずっと、だ。
ゴルフを娯楽として楽しむ層は、ゴルフに大きな投資はしない。したがって、性能が良い商品がそれに投資することを惜しまない真剣なゴルファーに向けられるのは必然なのだ。
伝えておかなければならないのは、プレミアムドライバーの価格はここ数年大きく変化していないが、低価格帯のドライバーは明らかに値上がりしているという事実だ。初心者用ドライバーは、かつてないほど劇的に高くなっている。
例えば、テーラーメイドは今年2種類のドライバーを499ドルと429ドルで発売した(M3/M4)。2013年にさかのぼると、テーラーメイドはRBZ Stage 2ドライバーを手の届きやすい300ドルで発売している。業界のトップメーカーでも300ドルというエントリー価格でマーケットを沸かせていたのだ。
コブラでは、MAXシリーズ以外のエントリー価格は299ドルから329ドル、さらに349ドルまで上昇し、今や399ドルである。
TRUE Linkswear という人気靴ブランドの創始者であり、テーラーメイドと仕事をした経験のあるロブ・リッグ氏は、値上げの決定はゴルファーの傾向によるものだと言う。
「メーカーは、顧客を満足させるためには300ドルのプライスポイントが望ましいと考える。しかし、新しいテクノロジーに喜んでお金を払うアーリーアダプターやコアゴルファーを最初のターゲットにするほうが簡単に稼げることに気づく。その後値下げをしてターゲットを変えて販売し利益を維持する、という戦略が取れるからだ。」(ロブ・リッグ氏)
「正しい価格に関する過去の『叡智』に背いてプライスポイントを変えることは当時とても大変な決断だったが、このままでは立ちいかなくなると思った。ゴルファーの15%がゴルフ用品の85%を消費しているからだ。」(ロブ・リッグ氏)
「釣れる場所で魚釣りをした」結果だ(ターゲットを絞ることで高い利益率が必要になることも分かった)。
マーケットが「真剣なゴルファー」に支配されていることは、業界では暗黙の了解になっている。今では、主要メーカーが初級者向けの商品開発をまるごとスキップしてしまうこともあるくらいだ。
今後初心者や娯楽目的のゴルファーは、中古や型落ちのモデルを安く買うなど他の選択肢を探すことになるだろう。一方で、コアゴルファーは最新の素晴らしいクラブを今まで以上に心待ちにすることになるのだ。
PXG効果
PXGが戦略としてとってきた少量生産・高利益率のモデルが長期に渡って成功するかどうか疑問視する人もいる中で、PXGはますます拡大するニッチマーケットを自力で切り開いてきた。これまでのところは、PXGの戦略が正しかったことが証明されたのだ。
では、PXGは業界全体の価格戦略に影響を与えたのだろうか?
PXG 0811Xドライバーは、850ドルという高価格で発売された。これはテーラーメイドM3、キャロウェイRogue、タイトリスト917 D2/D3よも350ドルも高い。PXGは自分たちが、自ら作った独自のマーケット、つまり価格によって支持されるポジションにいると述べている。
2016年4月、タイトリストはC16ドライバーとC16アイアンで構成されるConceptラインを発売した。生産された1,500本のドライバーは、999ドルにもかかわらず瞬く間に売り切れた。
また、2,700ドルのアイアン1,500セットも売り切れとなった。Conceptラインがツアー向けではなく、それによる売上への影響がほとんどなかったことを考えると驚きの結果だ。C16は予想を上回る人気で、タイトリストは2017年にフィッティングセンターのネットワークで再販することを決めたほどだった。
2017年、キャロウェイは2,000ドルのEpicアイアンセット(3番~PW)やヘッドスピードが遅いゴルファー向けに設計した700ドルのEpic Starを携えてマーケットに進出してきた。この2モデルの例は、プレミアムブランドとして位置づけることで、超プレミアムマーケットへ進出するためのテストだと考えられる。キャロウェイが今後も超プレミアムマーケットに挑戦し続けることは間違いない。
PXGの挑戦がなければ、C16やEpicアイアンは生まれなかっただろう。
結論
総括すると、ゴルフ用品のコストは過去5年で上昇しているが、天井には達していない。業界関係者の予想は、「あと2~3年は安定するだろうが、価格上昇は避けられない。最近の関税を考慮すれば、さらに上昇する可能性もある」。
つまり、価格上昇は商品開発や製造にかかるコストと、メーカーがターゲット層を変えた結果ということだ。現在のドライバーのスタンダードは500ドルであり、少なくとも主要メーカーにとって「300ドル」はすでに色あせた記憶になってしまった。
このトレンドを、あなたはどう見るだろうか?
コスト上昇は、ゴルフという素晴らしいスポーツへの参加費だと思えるだろうか?
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