・タイトリストがボーケイ「SM9」ウェッジのラインナップを発表
・重心位置が高くなった新モデルでは、弾道はよりフラットになりスピン量も増加
・小売価格は179.99ドル3月11日発売
アメリカ、カナダ、東京、ソウル…世界中の至る所でボーケイウェッジを目にする。PGAツアーではウェッジの2本に1本がボーケイで、昨シーズンのツアー優勝者の60%が少なくとも1本のボーケイウェッジをバッグに入れていた。ボーケイ「SM9」のリリースにより、同様のことがまた起こるはずだ。
もちろん、成功には挑戦が伴う。ウェッジ部門において革新性を発揮できる余地はドライバーとは比べものにならないほど狭い。今は“カーボンウェッジ”の時代ではないのだ。このカテゴリーでの進歩、改善(どう呼んでも構わないが)は元来体系的なものだ。
ボーケイにとっての挑戦は、現状に非常に満足している契約ツアープロたちの存在により、さらに複雑なものになっている。
とにかく、製品を台無しにしないだけでも十分だというのに、製品の改善を継続的に推進しているボーケイチーム全体に称賛を送る。
ということで、タイトリストが考えるボーケイ「SM9」ラインナップの3つの大きなメリットを紹介しよう。
ボーケイ「SM9」:飛距離と弾道のコントロール
ゴルフクラブ設計の本質を要約すると、「より効果の高い場所を求めて重心位置を設定すること」。ドライバー設計に限って言えばその年の“ストーリー”に適した場所を見つけることとなる。
ドライバーの場合、設計者は「低深重心」にすることで「高打ち出し/低スピン」を実現しようとすることが多いが、ウェッジの場合はその逆だ。ほとんどが(全員ではないが)「高浅重心」からもたらされる「低打ち出し/高スピン」特性を理想的だと考えている。
そのことが、特にロフト角の多いウェッジでは課題となる。
ロブウェッジのロフト角を考えてみよう。重心をフェース上部に移動させると、物事の自然な摂理によって重心も後方に移動する。
(ボーケイがやってのけたように)重心位置を深くすることなく高くすると、実質的に重量がロフトより前方に集中し、真の重心位置がフェース前方に置かれることになる。
事情通以外の人々に向けて、ボーケイ「SM9」がどうしてこのような球を繰り出せるのか、また、ギャップウェッジやピッチングウェッジに比べてロフト角のあるウェッジではどうしてホーゼル(ネック形状)が長くなるのかを説明するために、少々オタクレベルまで掘り下げてみよう。
ホーゼル(ネック形状)が長いほど重量が高い位置に配分され、クラブフェースの前方にホーゼルが位置することで重心が後方に下がらないようにしている。これによりクリーンに打った時によりフラットでスピンのかかるショットになるのに加え、フェースが少し開いて当たった際に高浅重心によって高弾道で右にぶっ飛ぶのを防いでくれる。
厚くなったトップライン
ボーケイ「SM9」のロフト角がギャップからサンド、ロブウェッジへと進むにつれてトップラインに厚みが出てくる。
基本的な部分は「SM8」から変わらないが、ボーケイ「SM9」では一部の純粋主義者から不評を買いそうなよりアグレッシブな手法をとっている。ロフト角が増えるにつれて重心高を上げるのに役立つ『プログレッシブホーゼル』システムに加え、ボーケイはよりロフト角のある番手のトップラインを厚くした。
わあ、なんてオソロシイ!
重量を足すことで重心位置は高くなるが、巧みな面取りにより太めの胴周りがアドレス時に気にならないようになっている。ほとんどの人が気づかないだろうし、そもそもツアーの連中が見た目を気にしないのであれば我々がそこにこだわる必要もない。
『プログレッシブホーゼル』と厚めのトップラインとのバランスをとるため、ボーケイはトゥ側前方に重量を追加。そうすることでボーケイ「SM9」は“ややヒール寄り”の重心となっている。ボーケイウェッジの前6世代と同じように。
確かに、重心をクラブフェースの実際の中心と合わせることはウェッジ(およびアイアン)の設計ではよく言われることだ。しかしこれは唯一の正解が見当たらないときの哲学的な設計思想のひとつにすぎない。
ボーケイの立ち位置は、もしロボットに完璧なウェッジショットを打たせるのが目的ならば重心位置はど真ん中が理想的だが、ゴルファーに打たせるのが目的ならば“少々のヒールバイアス”がより効果的だというものだ。
では、こういった設計上のあれこれが実際我々にどう影響するのか?
一周回って飛距離と弾道コントロールの話に戻るわけだ。
「飛距離コントロール」とは、より高い頻度で目標とする距離(少なくともその近く)まで飛ばすことを意味する。繰り返すが、おかしな当たりを取り除くことが目的となる。
よりフラットで高スピンの弾道
ウェッジ分野における弾道コントロールについては、おそらくあまり理解されておらず議論もされていないだろう。
ドライバーでは、高打ち出し/低スピンが飛距離最大化のレシピとなる。アイアンの場合、ゴルファーは扱いやすいスピン量と、ソフトランディングをもたらす適度にスティープ(鋭角)な落下角度を求めているはずだ。
ウェッジにおいては、かなりの人がスピンでピタっと止まる高い球がカッコイイと思っているに違いないし、まあ、それはそれでいいんだろう。
別にそれが間違っているとは言わないが、ツアープレーヤーの球を見てほしい。
彼らがウェッジを使うとき、特にコントロールショットではトッププレーヤーは“ほどほどのスピンがかかったフラットな弾道”を好む。ウェッジゲームにおいてはそれがコントロールの定義であり、これまでに貴方が(意図的にせよ偶然にせよ)そのようなショットを放ったことがあるならその魔術は理解しているだろう。
ボーケイ「SM9」の飛距離コントロールと弾道の話の中心となるのは、「SM9」はよりフラットな弾道かつ高いスピン量をゴルファーにもたらし、さらにキャディバッグの中でもアドレス時でも“マヌケ”っぽく見えないということ。
観察からの感想に過ぎないが、「SM9」を「SM8」と一緒に打ったところ、弾道は特にロフト角のあるウェッジでは明らかにフラットになっていた。そうなるように設計されているわけだし、たったひとりの意見で事実が決まるわけではないが、ほとんどのゴルファーが同じ事を経験すると思う。
ボーケイ「SM9」の多様性
ボーケイの世界では、多様性はグラインドに集約される。ボーケイウェッジのマーケティングディレクター、コーリー・ジェラードは「グラインドとはソール形状のこと」と言う。あまりにシンプルすぎて引用符で囲むのが少々気恥ずかしいほどだが、これはかなり重要な言葉だ。
我々は通常、「バウンス角」と「グラインド」をほぼ別物として話す。少なくとも両者は連携して働くが、グラインドこそが重要でバウンスはそのための道具に過ぎないと考えることもできる。
ボーケイ「SM9」(そしておそらく私が覚えている全世代のボーケイ)の“教育的目的”のひとつは、ウェッジフィッティングについてロー、ミドル、ハイバウンス以上の領域に踏み込み、ゴルファーにより良い結果をもたらすグラインドについて考えてもらう(そしてフィッティングしてもらう)ようにすることだ。
ソール形状(つまりグラインド)が合っていないと、刺さったりダフったりで距離を損することになりかねない。グラインドと芝のコンタクトがうまくいかない場合、薄い当たりが問題となってくる。
正しいグラインド。これを「求めるショットに見合ったグラインド」と言い換えれば、より安定した打球が得られるようになるだろう。だからこそ、グラインドはウェッジに「寛容性」をもたらすものだと考えられるのだ。
ここまでの話に問題がないなら、多様性の定義を一本のウェッジ以上に拡げ、ウェッジのセットアップ全体における多様性について考えてみよう。
適材適所の道具
完璧なウェッジを追求する中で、おそらく自分のスイングを「ディガー(ダッファー)」、「ドライバー」、「スライダー」のいずれかに分類するという方法に思い至ったことがあるだろう。
これらの用語の背後には、ディボット(削り取られた芝の跡)の深さを見て、自分にはハイ(ディガー)バウンス、ミドル(ドライバー)バウンス、ロー(スライダー)バウンスのウェッジが必要だと決定できるという考えがある。
物事が危険なほど単純化されがちな世の中では、そのようなアプローチも理にかなっているが、ここでは一歩引いて考えてみよう。
過去数回のラウンドで放ったウェッジショットを思い返してほしい。自分がディガーだったか、ドライバーだったか、スライダーだったか?
賭けてもいい。3つ全部が出たはず。
ボーケイのフィッティングの信条のひとつに、コースが求めるいかなるショットも打てる道具(ウェッジ)を道具箱(ゴルフバッグ)に入れる、というものがある。
自分がディガー、ドライバー、スライダーのどれに当てはまるかは、最終的にはライによって決まる。本当の意味での多様性は、道具箱の中の道具によってもたらされるのだ。
そう考えると、現実には多くのゴルファーが自由にグラインドを組み合わせて使えることが恩恵を施すだろう。「SM9」ウェッジのラインナップでは、ボーケイは23種のロフト角/グラインド(ということはバウンス角も)を組み合わせから選択できる。
これにより、多様性が増し様々な用途に対応できるようになるが、カタログは「SM8」からまだ更新されていないということを一応指摘しておく。
全体的にボーケイ「SM9」ウェッジのラインナップは、ミドルおよびハイバウンス寄りだ。これはローバウンスの需要がそこまで多くないことを考えると理にかなっている。つまり、市場が求める選択肢ということ。これが主流なのだ。
これまでの経緯から考えると、「SM9」の追加オプションはWEDGEWORKS(ボーケイのカスタム部門)から提供されることになるだろう。個人的にはラインナップにもう少しバランスをもたらすことになると睨んでいる。
自身のローバウンスのお気に入りは「Tグラインド」だ。狭いソールの「Tグラインド(私の名前に由来するわけじゃないが、そうじゃないとも限らない)」は乾いて硬いコンディションに最適。締まったライの強い味方だ。
もし私が勝負師なら、バンカーで炸裂するローバウンスの「Kグラインド」の復活にも賭ける。他のあまり目立たない「A」とか「W」、「Vグラインド」に関しては優先順位が低いだろうが、2年サイクルなのでなんとも言えない。
「SM9」ウェッジフィッティング
ボーケイによると、ウェッジのフィッティングをしたことがあるゴルファーは全体の10%程度だという。理想を言えばもっと多くの人が屋外でフィッティングを受けて…となると、幸運が必要かもしれない。理想的なウェッジフィッティング環境は極めて稀なのだ。
グッド、ベター、ベストで考えると、屋外でのフィッティングがベストで、ボーケイのウェッジセレクターツールがグッドということになるだろう。その中間のどこかに「ベター」があるのだが、そのあたりはまた今度。
ボーケイ「SM9」ウェッジのスピン
ボーケイ「SM9」ラインナップの3つ目のメリットは、これまでの全ウェッジラインナップと同じく、「スピン」だ。
スピン性能を追求する中で、ボーケイは競合他社と同じようなことを数多くおこなっている。低ロフトウェッジではより「狭く深い(アイアンに近い)溝」を持ち、高ロフトウェッジはコントロールショットでスピンをかけやすくするためにより「広く浅い溝」となっている。
「SM9」のスピンに関しては、ボーケイのスピンミルド切削工程の改良が大きな役割を果たしている。ボーケイによると、この切削工程の改良によりもともと厳格な審査基準だった同社の公差が大幅に改善されたという。
これはつまり、ゴルファーにとって、世界のトッププレーヤーが手にするものと、地元の専門店の棚に並んでいるものとの差は事実上存在しないということを意味する。ロンドンでもパリでもストックホルムでも世界中のどこでも。
新『マイクログルーブ』
もしボーケイのラインナップに弱点があるとすれば(実際あると思う)、それはウェットコンディションでのスピン性能だ。我々のウェットテストにおいてボーケイのスピン保持力は通常、平均値まで落ちる。平均値ならいいじゃないかと思うだろうが、ウェッジのトップブランドとしてそれでは不十分なのだ。
「SM9」でボーケイは湿気対応の改善について特に主張はしていないが、フェースに『マイクログルーブ』が追加されていることで何かを察するべきなのだろう。
『マイクログルーブ』は多くのウェッジ設計において一般的で、その効果がどれほど保たれるかは製品によるが、目的は通常、コントロールショットにおけるスピン性能の最大化だ。そして、これは水分を逃がす水管としても非常に役に立つ。
耐久性のための熱処理
ボーケイ「SM9」では、スピンの話はスピン性能についてだけではない。スピン量を維持するということはウェッジの寿命を延ばすことと同義である。溝をより長い間シャープに保つため、ボーケイはすべてのフェースに熱処理を施している。
スピン量の低下は避けられないものだが、熱処理によって時計の針を遅らせることはできる。
新しいウェッジ(SM9であれなんであれ)は必要か否か
ボーケイ「SM9」でも何であっても、新しいウェッジが発売されるたびに「新しいウェッジが本当に必要?」と自分に問いかけているかもしれない。
残念ながらウェッジのスピン量は使い始めてすぐに劣化し始めるというのが現実だ。これはゴルファー全員とブランド全部に当てはまる事実だが、では一体どの時点で新しいウェッジが必要になるのだろうか?
ボーケイはその目安を75ラウンドとしている。ゴルファーに現実を知ってもらうため製品テストを通じて得られた結果を共有しているだけで、必要もないのに新しいウェッジを売りつけようとしていると受け取られるリスクはボーケイも先刻承知の上だ。
自分で調べてみろと言いたいところだが…。
反論の狼煙を上げる前に、ゴルフに関する多くの事柄と同様、75ラウンドというのはただの目安に過ぎないということを理解してほしい。その人にとっての正しい数字はプレーの条件やバンカーショットの頻度、練習に費やす時間などによって異なるからだ。
毎日練習場で打ち込んで削っている人は当然もっと頻繁に交換すべきだろう。あまり練習もせずバンカーショットも少ないというなら、そこまで頻繁に交換せずに済むはずだ。
とはいえ、どこかの段階で新しいウェッジにせざるを得ないのだ。
新しい溝と磨り減った溝の差は、会議用テーブル1台分の飛距離の増減に相当する。大した差じゃないと思うかもしれないが、ゴルフというのはインチ刻みのゲームなのだ。
8フィート(約2.4m)のパッティングを“決める確率”はツアーでも50%。8フィート(約2.4m)を境に半分も決まらなくなるのだ。
スピン量が低下すると、インチがフィートとなり、フィートはヤードとなる。つまり、3打は4打に、4打は5打になるということだ。
ラウンド数を数える手間を省く確かな経験則を伝授しよう。グリップ交換のタイミングでウェッジを交換すること。
ボーケイ「SM9」カスタムオーダー
そしてお待ちかね。カスタムオプションあってこそのボーケイ。「WEDGEWORKS」の「SM9」カスタムオプションは以下の通り:
・トゥの刻印パターンは6種類
・カスタムスタンプ:10文字の1列またはフリースタイル刻印/トゥ周り15文字または10文字ずつ2列の刻印
・カスタムペイント:ロフト角、バウンス角、グラインド表記および「BV Wings」ロゴ
・さらに「SM9」ウェッジはシャフト、グリップ、シャフトバンドやフェレールなど、業界トップクラスの品揃えの中からカスタムオーダー可能
スペック、価格および純正シャフトとグリップ
ボーケイ「SM9」ウェッジの純正シャフトは、「True Temper DG S200」。純正グリップはゴルフプライド「Tour Velvet 360」。
ボーケイ「SM9」はツアークローム、ブラッシュドスチール、ジェットブラックまたはノーメッキの展開。なんと、ご存じの通り最高の仕上げであるスレートブルーは含まれていない。
スレートブルー仕上げはコストが高く制作に時間がかかることから、二度とお目にかかれないと断言はできないものの、聞くところによればすぐさま復活ということにはならなそうだ。
これはいただけない。
ボーケイ「SM9」ウェッジの小売価格は各179ドル。2月17日より先行販売開始。正式発売は3月11日。
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